遠隔で爆発させられる可能性
少し地理を整理すると……王都と呼ばれる城下町は、王城を中心に東西南北に広がる町で、不審者を隔離した家があるのは東側。
距離としても離れすぎているという程ではないから、本当に微小な揺れが伝わって来ていてもおかしい程ではない。
距離という部分で考えると、揺れの後にエルサが結界を張ったのも距離が近くて、外部からの魔力が届くのが早かったせいとも考えられるかな?
小さな爆発がきっかけで、そこから魔力が広がった……と仮定するならだけども。
「リクが発見した不審者を見る限り……いや、本当にまだ見ただけではっきりと調べられてはいないが、エルサ様の話と総合すると、体内で魔力がせめぎ合っていて、それでバランスを取られていた。つまり、外部からの刺激があればいつでも爆発させられるという事だ。だが逆を言えば、外部からの刺激なくして爆発は起きない」
「突然、何もないのに爆発はしないって事、だよね?」
「あぁ、そうだ。何もしていないのに突如爆発すると、危険過ぎて扱えないからな」
一応とはいえバランスが保たれているから、注意さえしていれば突如爆発を引き起こすような、危険な事にはならないと、アルネの話を聞いて納得する。
時限式、という爆弾などを俺は知っているけど……時計などの時間の概念が普及していないこの世界で、そんなあやふやなものを信頼して運用するのは危険が過ぎる。
まぁ、人間を爆発させるなんて事を考え、さらに実行している時点で自分達に向く危険などが、十分に考慮されているかは怪しいけど。
「それと、リクもよく見ていただろうが、先程のあの不審者。あれを見て、自分で考えて発動させる事ができると思うか?」
「うーん、多分できないかな? 意識があるのかどうかすら怪しいくらいで、考えるなんて事も出来ていなさそうだったし」
なんせ、目の前で手を振っても話しをしていても、気付く素振りどころか何も変わらないんだからね。
「だろう? あの状態が、狙ってそうなるように仕向けているのか、それとも仕掛けを施した人間の体の状態のせいなのかはわからないが……」
つまり、わざと意識や意思などを持たないようにさせているのか、ほぼ死んでいるもしくは死んだ後の体を使っているからあの不審者のようになっているのか、って事かな。
「どちらにせよ、体内のバランスを崩す。おそらく外部から入り込んでいる魔力が、本来の魔力を越えてバランスを崩した瞬間に爆発するようになっているのだと思うが、それを自らの意思ではできないようになっているという事だろう」
「まぁ、あの状態で魔力を自分のものであれなんであれ、自由にできそうにないよね」
外部からの魔力で、バランスを崩して爆発……と聞いて、レッタさんやアンリさん、それからツヴァイやクラウリアさんのような魔力貸与された人達を思い出した。
まぁあちらはレッタさんん魔力誘導によって、体に馴染むようにされているから、爆発なんて事にならないんだろうとは思う。
と思って、そちらもアルネに聞いてみると、おそらく外部からの魔力が注がれた際に何かしらの仕掛けがされているのだろうという推測が返ってきた。
その辺りが、帝国で研究されていた事の成果の一つなんだろうとも。
そういえば、同じく魔力貸与されていたらしき人物で、ツヴァイと一緒に捕まえたけど王都への搬送中に、魔力が暴走? か何かして、血を噴き出して息絶えたっていう人もいたっけ。
魔力が馴染まなかったから、と考えていたけど……もしかするとあちらも実験台か何かにされていたのかもしれない。
それはともかく、リネルトさんのからの報告で今いる場所で爆発したらしい人物は、ここまで歩いてきたと言っていた。
そちらに関しては、不審者も含めてその場にいきなり降って湧くような事があるわけなく、どこかからふらりと歩いてきたのだろうとの事。
俺達が隔離した方の不審者も、元々どこかからふらりと歩いて来て、目的地……つまり爆破予定地に到着したから、ただ声を漏らすだけで動かなくなっていたのだろうと。
自立しているとは言い難いけど、それでも自分で動いて、もしくは操作して目的地に向かい、遠隔で爆発させるのはかなり脅威というか、中々対処が難しいと思わせられる。
「なんにせよ、まだ今回の二件だが警戒すべき対象が少しはわかったな」
「ふらふらしている、というかどう見ても話しかけても、うわの空みたいな人、だね。移動している際にはどういう状態なのかはわからないけど……」
「あぁ。完成間近の魔法具があれば、はっきりと選定する事ができるだろうが……今のところはそれを指標に調べるしかないだろう。ただそれでも、爆発に対してそれなりの対処法になるはずだ。爆発する人間そのものは逃げないし、逃げるような動作もできないだろうから」
「だね。まぁ問題がないわけでもないけど……」
外部から、それこそ遠隔から爆発の操作ができるのだとしたら……発見して捕まえても、いつでも爆発させられるという状況は変わらないのだから。
エルサのような結界を使えれば別だけど……。
「リクの懸念は俺にもわかる。そこは、一応の対処法を考えてあるぞ」
そう言って、アルネに対処法を聞いた。
俺達が発見した不審者のように、あの地下牢に運んで隔離しておき、さらに入り口を結界で閉じればいいのだという事。
俺は今結界を使えないし、エルサに協力してもらうのかな? と思っていたら、フィリーナがやればいいだろうとの事だ。
フィリーナの作るプニプニ結界は、強度こそエルサが使うような結界程じゃないけど、性質は似ている。
つまり、外部から流れて来る魔力を遮断できるわけだ。
そして俺が結界を使えるようになる練習の時、大量のクォンツァイタの魔力を充填させたのもあって、計画よりかなり多く余裕があるとか。
要は、魔力がいっぱいになったクォンツァイタが、少し余り気味になっているって事だね。
足りなければ、暇な時……それこそ、部屋でのんびり話している時にでも俺が補充すればいいし、そのクォンツァイタを使ってフィリーナに結界を張ってもらえば爆発しないようにできる、という事みたいだ。
「なんにせよ、一度フィリーナには見せて調べようとは思っていたからな。さて、ここは大分落ち着いたようだ。俺は研究室に戻って、不審者を調べる者の選定と、フィリーナへの事情説明をする。まぁ、カイツは今回の件には選ばないが……迷ってとんでもない事になりそうだ」
「ははは、そうかもしれないね。文句は言われるだろうけど」
「長い付き合いだ、それくらいは受け流すさ」
そう言って肩を竦めるアルネ。
エルフが言う長い付き合いって、一年とか二年じゃすまなそうだなぁ……目の前にいるアルネ自体、俺の数十倍は生きているらしいし。
「陛下や仲間達への説明は、リクに任せる」
「わかった。まぁ研究的な部分はともかくとして、一連の流れや事情を一番わかっているのは俺だからね」
不審者の発見から微小な揺れ、エルサの話から結界での外部遮断、隔離と爆発に救助活動等々、姉さん達からは絶対に話を聞かれるだろうけど、それに全部関わっているのは俺だからね。
アマリーラさんやリネルトさんもだから、俺も含めて皆で話をする事にする――。
王城に戻ったらあった事を根掘り葉掘り聞かれるかもしれません。
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