事件と損なわれしモフモフの心痛はエルサに癒される
「俺に心配をさせたとか、あまり気にしなくてもいいんですけど……えーっと、とにかく、あまり無理はしないで下さいね?」
「はっ! 無理が無理とならぬよう、リク様のご意思に沿える努力をいたします!」
チリチリの毛になった尻尾をピンと伸ばし、敬礼するアマリーラさん。
頑張り過ぎないで欲しいという事だったんけど、俺が伝える言葉を間違ったようだ……今度からは気を付けよう。
それはともかく、火傷にまでにはなっていなくても、やっぱり毛がチリチリになった尻尾を見るとショックだ。
貴重なモフモフが、損なわれてしまった……。
いずれ元通りになる程度だとしても、獣人女性の尻尾だから気安く俺が触ったりできないとしても、やはりモフモフが損なわれているのを見るのは、損失だと感じる。
いやまぁ、アマリーラさんに大きな怪我がなかった事、それ自体は喜ばしいんだけどね……はぁ――。
――あれからさらにしばらく、救助できる人を助け、燃え移る物がなくなり散布される水によって徐々に勢いを弱め、鎮火。
中隊長さん達兵士さんだけでなく、後から到着した兵士さん達、ボランティア的な住民の方々の尽力もあり、大方の騒ぎは収まってくれた。
まぁ、完全にというわけではないけど……爆発原因の捜査とか、安否確認が取れていない人の捜索などもあるしね。
今は、兵士さん達が救助した人達を含め、周辺で聞き込みをしてくれている。
「焦げくちゃいのだわー」
「まぁ、仕方ないよ。あんなに激しく燃えていた後なんだから」
そんな中、魔法による水散布の消火活動を終えたエルサが、戻って俺の腕に収まる。
鼻を鳴らして周囲に立ち込める焦げた臭いに、鼻を前足で押さえていた。
焦げというかついさっきまで、複数の家が燃えていたからね……周囲は火事後の独特な匂いが立ち込めていて、慣れるまでは自然と顔をしかめてしまう人もいるくらいだ。
「……リク、さっきからいやに私を撫でるのだわ?」
「ちょっと、ショックな事があってね……エルサのモフモフで心を癒しているんだ」
「今更だから、変なところに触れなければいいけどだわ。もう少し優しくするのだわ」
「ごめんごめん……こうだね」
「そうなのだわぁぁぁ……」
アマリーラさんの尻尾のモフモフが損なわれるという、俺にとってショッキングな出来事があり、ついつい強めにエルサのモフモフを撫でていたようだ。
謝って、優しく撫でるようにしたら、エルサが気持ち良さそうな声を出した。
エルサも頑張ってくれたからね、今手持ちがないのでキューは後で用意するにしても、ちゃんと労わないと。
そう思ってしばらくエルサを撫でていると、アマリーラさん、リネルトさん、それからアルネがこちらに来た。
救助活動に夢中になっていたから忘れていたけど、そういえばアルネもいたんだった……俺やアマリーラさん達が先行した後、いつ到着したのかわからないけど。
「お互い、随分な格好になってしまったな。まぁ、俺よりリクの方がよっぽどだが」
「ははは、まぁ燃えている家に突入とかしていたからね」
尻尾や耳の毛先がチリチリになっているアマリーラさんやリネルトさんの方は、あまり見ないようにしてアルネとお互いの姿を確かめ合って苦笑する。
アマリーラさん達の方を見たら、損なわれてしまったモフモフにまたショックを受けそうだし……。
それはともかく、俺もアルネも服や顔などに黒い煤が付いていて、かなり汚れている。
特に俺は、救助のため家に突入したのもあって、服の端々が焦げているというか……焼けて穴が開いたりもしている。
むしろ、激しく燃えている家の中に突入したのに、これだけで済んでいるのは自分でも少し驚きだ。
まぁ、手のひらは少しだけ火傷してしまっていて、今もヒリヒリしているけど。
さすがに、手で燃えている壁などを触ったからね……魔力を放出していたのもあって、全身を覆う魔力量が少なくなった影響だろう。
地球の消防隊とか、いくら防火服で全身を固めていても通れないだろう場所とか、無理矢理通ったりもしたしね。
……魔力量に関係なく、燃える壁やドアノブを掴んでちょっとした火傷をするだけっていうのは、自分でも驚きだけど。
「そういえばアルネは……」
お互いの無事などを確認して、アルネはどうしていたのか聞いてみる。
中隊長さんがここに到着した後、少ししてからアルネは来たらしく、その頃にはこの場所の事が離れた場所でも騒ぎになっていたらしい。
俺が来た時にはまだ遠くから黒煙が見える程ではなかったけど、しばらくして遠目にも燃え盛る炎が立ち上るくらいだったとか。
そのうえ、目を凝らしてみると燃える炎からさらに上、空に近い場所で小さく白い物体が、水を撒き散らしていたのも見えたとか。
エルサの事だろうね。
体は小さいままだったから、遠目にはあまりよく見えなかったんだろう。
町でまた新しい噂にならないといいけど。
「後からというのは少し失敗だったな。多くの人が騒ぎを聞きつけ、燃える炎を見ていたから、それでさらに到着が遅れた」
「やじうまに邪魔されたんだね……でも、火事の発生から人が出てくるのが少し早くない?」
元々、爆発を警戒して人の外出が少なくなっていた城下町だ。
火事があったからと言って、アルネが現場に来るのが邪魔になる程の人が、すぐに出て来るとは思えない。
「それについては俺も不思議に思っていた。だがまぁ、実際に道が取れないくらいに人が出ていた場所もあるからな……俺が選んだ道が悪かったのかもしれんが」
「これまでも、何度か爆発騒ぎがあって敏感になっているのかな?」
「かもしれん。そうして何とかここに到着して、惨状を目にしてからだが……」
とりあえず、やじうまの人達の事はともかくとして、アルネが何をしていたかだ。
ここに到着したアルネは、火事の規模の大きさに驚きつつも、すぐに消火活動に参加してくれたらしい。
具体的には、兵士さんが行っている燃え移らないようにするための建物破壊や、直接の消火を魔法で援護。
救助活動などの、体を動かす作業は俺やアマリーラさん達に完全に任せ、魔法でできる事をしていたらしい。
エルフのアルネが加わってくれたのなら、兵士さん達も心強かっただろうね。
アルネがいたから、全体の鎮火が確実に早まったとかもあるかもしれない。
「リク様、よろしいでしょうか?」
「あ、はい」
アルネと話していると、こちらに来てから近くにいる兵士さんと話しをしていたアマリーラさんから声を掛けられる。
リネルトさんも一緒だね。
表情から、真面目な話らしいのがわかるので、アルネとの話よりも優先度は高いだろうと、そちらへ体を向けた。
……視線は、できるだけチリチリになっている尻尾や耳を見ないようにしているけど。
「ある程度の被害状況がわかりました。完全に倒壊した家が数十棟、半壊が十棟といったところのようです。こちらは、消火のために破壊した建物なども含まれています」
「結構、多くの建物が崩れちゃったんですね……」
建物にはかなり大きな被害が出てしまっているようです。
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