長い1日の終わり
「ふぅ……姉さん……か。それにバルテルに帝国……魔物の襲撃……」
寝ているユノ達以外誰もいなくなった部屋で、一人ソファーに座ってお茶を飲みながら今日あった事を考える。
長い1日だった……俺もさすがに疲れたよ……。
夕食を待つ時間、疲れから少しうとうとし始めた頃に、ベッドの方で声が聞こえる。
「ん……お腹すいたの」
「キューを……キューを要求するのだわ」
「おはよう、エルサ、ユノ。もうすぐヒルダさんが夕食を用意してくれると思うよ」
ベッドで体を起こして起き出したエルサとユノに声を掛ける。
ユノ達は今日色々と頑張ってもらったからね、たっぷり食べて疲れを癒して欲しいと思う。
あ……でもそういえば、ユノはモニカさん達と一緒に宿へ戻ってないけど良いんだろうか……?
まぁ、獅子亭にいる時と同じように、一緒に寝れば良いか……ここのベッドは広いからね。
「戻りました」
「おかえりなさい、ヒルダさん」
「美味しそうな匂いなの!」
「キューは? キューはあるのだわ?!」
ヒルダさんが夕食の準備を整えてくれて、部屋に戻って来た。
一緒にメイドさんが数人、料理の載った皿を持っている。
美味しそうな匂いが部屋を満たし始め、お腹を空かせたユノとエルサもはっきりと目を覚ましたようだ。
さっきまでまだ眠そうに目をこすったりしてたのに、食欲ってすごいね。
かくいう俺も、料理の匂いで食欲を刺激されてるんだけどね。
「キューも、こちらに」
「キューなのだわ!」
一人のメイドさんが、両手で抱えるほどの皿に山積みにされたキューをテーブルに置いた。
それを見て、キューの山になってる部分へ飛び込むような勢いでエルサがテーブルまで飛んで来た。
量がかなり多いようだけど、エルサは食べきれるのか?
「すいません、ヒルダさん。キューまでわざわざ用意してくれて」
「いえ、これくらい何てことありませんよ。それに、エルサ様はリク様と並んで大層活躍致しましたからね、しっかり用意させて頂きませんと」
キューを用意してくれたヒルダさんにお礼を言いながら、すぐに頂きますをして料理を食べ始める。
エルサがよだれを垂らして、我慢でき無さそうだったしね。
「お腹いっぱいなの」
「ちょっと苦しいのだわ」
「エルサもユノも、ちょっと食べ過ぎなんじゃないのか? 美味しかったから、俺も結構食べたけど」
エルサは山盛りのキューに加え、さらに料理もたらふく食べていた。
ユノも、次々運ばれる料理を凄い勢いで食べた。
俺もたらふく食べたはずだけど、エルサ達には及ばない。
エルサなんて、体の大きさよりも高く積まれたキューを全部食べて……どこにそんなに入るんだか……。
体の大きさが自由に変えられるんだから、見た目の体積はあまり関係ないのかもしれない。
「ちょっと食べ過ぎで体が重いけど……風呂に入ってさっさと寝るか。疲れを取らないとね」
「入浴の用意は出来ております」
満腹で重い体を動かし、ソファーから立ち上がるとヒルダさんから風呂の準備が出来てると伝えられる。
俺達が食事をしている間に用意してくれてたみたいだ。
ヒルダさんにお礼を言って、俺は一人で風呂に入った。
やっぱり疲れた時は、湯船に浸かれるのは癒されるなぁ。
ユノとエルサは、満腹感に満たされて動かなそうだったので、後で一緒に入ってもらおう。
「今日は色々あったから、明日はゆっくり過ごしたいなぁ」
そんな事を呟きつつ、毛や髪を乾かしたエルサとユノと一緒にベッドで眠りに就く。
疲労が溜まってたようで、呟いて目を閉じた瞬間、ストンと言う言葉が似合う程すぐに意識が途切れた。
――――――――――――――――――――
「まだ眠いの」
「……私はまた寝るのだわ」
「昨日俺達が話してる間も寝てたのに、よっぽど疲れてたんだな」
「私もリクの頭に乗って寝たいの」
「……さすがにそれは、出来ないと思うよ」
翌日、疲れがまだ残ってるのか、まだ眠そうなエルサとユノを起こして朝の支度。
朝食を食べた後は、エルサがいつものように頭へコネクトして寝始めた。
エルサを羨ましそうに見ているユノだけど、さすがに人間を頭に乗せるのはちょっとね。
……疲れてるというより、ただの寝坊助なのかもしれないな。
「リク様、本日は町に出られるのですね?」
「はい。町の様子も見ておきたいですし、何よりまだ十分に王都を見て回ってないですからね」
「わかりました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「はい、行ってきます」
「行って来るの」
ヒルダさんに見送られて、ユノと一緒に部屋を出る。
昨日で色々覚えた城の中を歩いて、城門へ。
城の中は、兵士さん達が結構な頻度で走り回って忙しそうだったけど、俺とすれ違う時は必ず敬礼をしてくれた。
……そんなに偉い人間じゃないからそんな事しなくても良いんだけどなぁ。
魔物の襲撃や、バルテルの凶行の後始末で忙しそうな兵士さん達をみつつ、城門手前の広場に出た。
「まだ、結構跡が残ってるな……」
「あれだけの事があったの。当然なの」
ユノの言う事ももっともだ。
ヘルサルの時程数は多くなかったけど、それなりに大量の魔物が色んな種類で襲来したんだ、一晩だけで片付けられるものじゃないだろうね。
地面に小さな穴が開いたり、矢が刺さっている場所を見ながら、城門を抜ける。
……城門には、焦げた跡だったり、鋭利な物で斬られた跡もあったけど……もしかしなくても俺の魔法のせいかもしれない……ゴメンナサイ、兵士さん達の手間を増やしてしまって……。
「リクさん!」
「……モニカさん?」
城門から町に続く橋を渡り切ったあたりで、横の方から誰かに声を掛けられた。
誰かと思ってそちらの方を向くと、道の向こうからモニカさんが走ってきているところだった。
「城に用があるの?」
「何言ってるの、昨日リクさんが町に行くって言ってたから、迎えに行こうと思ったのよ。道案内くらいは出来るかと思って」
「あぁ、成る程。それはありがたい」
モニカさんは、俺が王都に不案内な事を知っているから、町を案内してくれるつもりだったみたいだ。
気ままに街を見て回るつもりだったけど、案内してくれるなら迷う心配も無いから安心だね。
「でも、こんなに早く城を出るなんて考えて無かったわ。すれ違いにならなくて良かった」
「城にいてもやる事もないからね。皆忙しそうだし……」
もしすれ違っていたら、モニカさんは無駄足になってしまうところだった……ここで会えて良かったと思う。
「まぁ、昨日の今日だしな。町の方でも後片づけで色々と忙しそうだぞ」
「マックスさん!」
「私もいるわよ。リク、大活躍だったみたいね。私達の所からでも、ワイバーンと戦ってたのは見えたし……最後の魔法もすごかったわ」
「マリーさんも! 二人もモニカさんと一緒に?」
モニカさんの後ろから、俺に話しかけて来たのはマックスさんとマリーさんだ。
二人共、昨日の魔物襲撃でも怪我は無く元気そうだ。
「俺達は冒険者時代、王都にいた事があるからな。道案内には最適だろ?」
「随分前の事だから、変わってる所もあるけどね……。でも、モニカ一人で案内するより良いはずよ。……まったく、リクといたいからって……モニカも王都は初めてなはずでしょ?」
「……もう、母さん! 一応昨日ソフィー達と一緒に見て回ったから、ある程度は案内できるわよ!」
「ははは」
マックスさん達が王都にいた事があった、という話は以前聞いた事がある。
そんな二人も一緒にいてくれるなら心強い。
マリーさんに怒った素振りをしてるモニカさんを見ながら、何となく安心感を覚えた。
王都の案内を、マックスさん達がしてくれるようです。
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