フィリーナが持ってきたクォンツァイタ
「賢明な判断ね。知っても活用する事なんてないし、ただの無駄な知識になるだけよ……理解できないならなおさらね」
無駄な努力はしないタイプ……とかではないけど、俺の頭どころか人間には理解が難しい範疇なんだろうというのは、ロジーナの態度からなんとなくわかる。
頭がパンクして、魂の修復どころじゃなくなってもいけないので、詳しく聞くのは止める事にした。
既にちょっと熱が出そうなくらいだし、ほんのり頭痛がしているし。
「リクはそれでいいのだわ。きっと理解しても意味のない事なのだわ」
「……もしかしてだけど、エルサは今の話理解できていたのか?」
「もちろんなのだわ。私はドラゴンなのだわ。理解できて当然なだわー」
ドラゴンだからって、当然って事はないと思うけど……まぁ人間よりは賢い気がする生き物? なのだし、理解できても不思議じゃないか。
自信満々なエルサの声に、少し悔くなったけど。
……キューを食べている時は、賢いとかそういう感じは一切ないんだけどなぁ。
「話は終わったの? それじゃ、今度は結界の話をするの」
「えーっと、連れて来られたら良くわからない話をしていたのだけれど……本当に私はここに来てよかったのかしら?」
「あれ、フィリーナ、ユノ……いつの間に……?」
声がして後ろを向くと、知らないうちに戻って来ていたユノ。
頭を押さえているフィリーナも一緒だ……いつの間にか、戻って来ていたらしい。
「気付いていなかったのね……」
呆れたように俺を見て言うロジーナ。
……そう言えば、高次元魔力だなんだと話をしていた時の会話にも、ユノが参加していたような……?
母体の魂が分かれて、子供が産まれるなんて話をしていたのって、そう言えばユノだったっけ。
その時からいたのか、気付かなかった。
それだけ、理解の及ばない話の内容にいっぱいいっぱいで、周囲の事がおろそかになっていたのかもしれない。
ユノだけなら気配を殺して近付いて驚かせる、なんてイタズラをする可能性はあるけど……フィリーナはそんな事できないしね。
「さっきの話は、理解できようとできまいと、利用なんてできないわ。別に聞いた事を忘れてなんて言わないから安心して。それよりも、ちゃんと持ってきたかしら?」
「え、あ、はぁ……呼ばれた際に、一緒にって言われたからちゃんと持って来たわよ」
「それは、クォンツァイタ?」
ロジーナに言われて、フィリーナが持っている袋から出して見せたのは十個以上のクォンツァイタだった。
それも、全部透明感のある黄色になっているから、限界まで魔力を蓄積された物だね。
俺達がセンテに行く時、ブハギムノングで採掘されて王都に運ばれたクォンツァイタは、ほぼ全て輸送したはずだけど……あれから二か月近く経っているし、新しいのが続々と到着しているんだろう。
魔力の蓄積に関しても、それだけの期間があればかなりの数に充填できるはずだ。
カイツさんは迷子になっていたけど、それなりの数のエルフが王都に来ているし、人より魔力の多いエルフさん達に協力してもらう事もできただろうし。
それに、クォンツァイタ自体がアルネにとって研究対象になっているから、魔力蓄積を手伝わないなんて事もないだろう。
「このクォンツァイタを、どうするんだロジーナ?」
「まぁそれは後でね。まずは、さっきも言ったようにリクには結界を使えるようになってもらうわ。魂の修復をしつつね」
「魂の修復を待って、じゃないんだ」
「完全な結界、つまりこれまでリクが使っていた結界と同等であれば、そうなのだけど。とりあえずは修復を早める効果も期待しつつ、それなりの結界を形成できるようになればいいわ」
「それなり……か」
という事は、使えるようになったとしても魂の修復が進まないと、以前と同じようには使えないって事だろうか。
「でも魔法が使えないのに、結界だけっていうのはどうやるんだ?」
「それは……フィリーナ、あなたたちは以前リクの結界に近い物を作ったわね?」
「え、えぇ……。センテに熱気が入り込むのを防ぐためだけど……一応ね」
「それを、今ここでやってちょうだい」
ロジーナが何気ないようにフィリーナに対して結界を作るように言う。
「ちょ、ちょっと待って! あれは、カイツもそうだけど他にも大勢の人が魔力を貸してくれたからで……私一人でなんてとてもできないわ!」
慌てて一人じゃできないというフィリーナ。
まぁ確かに、大勢……あの時は千人規模の兵士さんや冒険者さん達も協力していたらしいし、いくらエルフの魔力が多いからって、フィリーナ一人ではできないよね。
あの時は隔離結界に穴をあけるため、あの場にいた全員がかなり魔力を消耗している状態だったとしてもだ。
って、ん? 魔力が足らないって事は、別の方法で魔力を補填すればいいわけで……。
「そのためのクォンツァイタよ。結界を形成する方法自体は、経験のあるフィリーナがやるべきだけど、魔力が足らないのならクォンツァイタから使えばいいだけでしょ」
「そ、それは確かに……そうね。クォンツァイタもこれだけあれば、あの時の結界を作った魔力くらい簡単に捻出できるわ。はぁ……クォンツァイタに魔力を蓄積させるのって、結構手間なんだけど。エルフでさえ、限界まで充填するのに数日かかるってのに」
クォンツァイタは、マックスまで魔力を蓄積させるのに大きさなどによって多少違いはあるけど、大体エルフ数人分の魔力になる。
人間だと数十人とかになりそうだけど、まっさらなクォンツァイタに魔力をマックス充填させるには、フィリーナの言う通り数日かかっても仕方ないか。
無理をすればもう少しは貯められるだろうけど、魔力枯渇は危険だからね……無理をしない範囲で蓄積させていくしかない。
「そこはそれ、リクが代わりにやってくれるわよ。魔法が使えなくて、魔力が余りに余っているし。魂の修復を早めるのにも、役立つんじゃないかしら?」
「そのさっきから話にある魂の修復、というのはよくわからないけど……でもそうね、リクなら一日で数十個のクォンツァイタを充填できるだろうし、それなら問題ないわね」
「まぁ、確かに魔力を使うあてがあるわけじゃないから、構わないけどね。持て余しているって程じゃないと思うんだよなぁ。というか、魂の修復を早めるのにも役立つの?」
クォンツァイタに魔力を充填する事で、魂の修復が早まるのなら、それだけ魔法がまた使えるようになるのが早まるって事でもある。
だったら、それこそ魔力は基本的にエルサに吸収されるだけだし、有効に使うためであれば構わない。
「助かるわ。センテでの戦いで、クォンツァイタが戦力増強になるのもわかったから、できるだけ今のうちに多くを用意しておきたいの」
「そういえば、魔法を使う人がクォンツァイタからの魔力を受け取って、連続して魔法を使っていたっけ」
要は、予め魔力を蓄積させておいたクォンツァイタを使えば、本来なら魔力枯渇を起こしている魔力消費を越えて、さらに魔法が使えるって事だ――。
魔力枯渇を気にせず魔法を使い続けられるのは、戦闘を大きく有利に進められる可能性がありそうです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






