帝国の第1皇子
「その帝国の技術と戦った事はあるんですか?」
「いえ、わが国はかれこれ数十年は戦争をしておりません」
「その辺の事は、お父様が上手かったのよね……いかに戦争を回避し、民を巻き込まないか……という事をよく話していたわ」
「それに、現在の皇帝は温厚な方で……軍事力を強めようとも、戦争という手段に出る事はありますまい」
姉さんは、前国王の事をお父様と呼ぶらしい。
この世界でもちゃんと生まれて来たんだから、当然の事なんだけど、前の世界で……というより、俺の両親の事もあって少しだけ複雑な気分だ。
「戦った事は無いのに、帝国の軍事力が一番だとわかるんですか?」
「それに関しては、10年以上前の事になりますが……帝国のさらに東にある国が、一度戦争を仕掛けた事があるのです」
「野心に溢れた国王だったという話を聞いたわ。けど、その国は……」
「はい、帝国によって返り討ちにされました。戦力差を見極められず、無能の国王として、当時の国王は処刑されました」
「その時からよね、帝国の軍事力が……って近隣の国々でささやかれ始めたのは」
「そうです。帝国に攻め入った国ですが、当初より総力戦の構えで全力を持って行ったらしいのですが……」
「ですが?」
「帝国の被害はほとんど無かった……と」
「被害が無い……」
「帝国がどんな技術を持っているのか、外に漏らす事は無いのだけど……その時の戦争のおかげで、帝国は凄い軍事力を持っている……とみられているの。……実際に、魔物に対する被害も少ない国のようだしね」
帝国に攻め入った国がどれだけの軍事力だったのかは知らないけど、それでも一国が全力で攻めたにもかかわらず、被害がほとんどなかったというのは凄い事だろうと思う。
例え、100人対200人であっても、数十人規模で被害は出るというのが普通に想像出来ることだから。
人数や規模はもっと大きかったかもしれないけど……帝国の技術というのは、被害を減らすためのものなのか、相手に甚大な被害をもたらす技術なのか……。
魔物に対する被害も少ないというのも、軍事力を判断する一つの基準なんだろう。
ヘルサルの街や、エルフの集落、この王都でも魔物の襲撃を経験した俺からすると、この世界では魔物が集団で攻めてきたら、街や村が簡単に無くなってしまう。
それが少ないというだけでも、防衛力に優れた技術を持っている……と考えられそうだ。
「軍事力が大きい事はわかったけど、それで何でここまで警戒する必要があるのかな? 皇帝は温厚な人らしいから、戦争を仕掛けたりとかはしないんでしょ?」
「皇帝は……ね」
「リク様、現在の帝国は第1皇子が実権を握っていると言われております」
「第1皇子……その人が色々と画策してると?」
「はい。次期皇帝になられる方なのですが……この方は近隣に知れ渡る程の野心家なのです」
「大陸を帝国の元、一つの国にするなんて戯言も聞いた事があるわ。……直接ね」
「姉さんはその第1皇子に会った事はあるの?」
「ええ。10年程前になるけど、お父様に連れられて一度だけ帝国に行った事があるの。確か……国の友好関係の確認のため、国王自ら赴く……といった事だったと思うわ」
「前国王陛下は、帝国を含め、近隣諸国と友好関係を築く事に注力されていましたからな」
敵対してるわけじゃないから、国王自ら出向いて友好関係を築く……という事なんだろう。
日本でも、総理大臣が別の国に行って会談だの、外国から大統領とかが来てという事もあるから、それに近いのかもしれない。
「その時の第1皇子……名前は何だったかしら……? まぁいいわ、そいつは気味の悪い笑顔を浮かべて大言壮語を吐いてたわね」
「それが、帝国で大陸を一つの国にする……と」
「陛下、仮にも隣国の皇子なのですから、名前は憶えておかないと……」
「あいつの名前を覚えるくらいなら、りっくんに何をしてあげるか考えた方がよっぽど有意義よ。……事もあろうに、私を妃にしてやる。将来は大陸統合国の皇后だ……なんて言ったのよ?」
「……話は聞き及んでおります」
「顔はそこそこ見れたけど、性格があれじゃあね……名前を覚える気も無くなるわ」
姉さんは随分とその第1皇子を嫌ってるようだ。
昔から、男女の性差で男から見下される事を嫌ってた人だから、その高圧的な物言いが気に食わなかったんだろう。
その話を聞いた俺も、なんだか嫌な気分だ。
自分の姉さんが、どこぞの男に威圧的に迫られたら嫌になるのは仕方ない事だと思う、うん。
「すみません、陛下。10年前との事でしたが……その頃陛下は……?」
「まだ成人する前どころか、10にもなっていない頃よ……あいつは確か成人して少し経ってたはずね」
「うわぁ……」
「さすがにそれは……」
「陛下が見目麗しいのは確かですが……それはちょっと……」
モニカさんが姉さんにその頃の事を聞く。
さっきの話は姉さんが、この世界でまだ子供の頃の話だったみたいだね。
……確かこの世界の成人が15だったから……16、7くらいの男が、10になってない女の子に高圧的に迫るというのはちょっとな……。
俺もそうだが、話を聞いていたモニカさんやソフィーさん、フィリーナといった女性陣は特に嫌悪感を示してる。
ヒルダさんは元々この話を知っていたのか、大きく反応はしていないけど、少しだけ眉潜めてるね。
「そういえば、クラウスさんに聞いたけど……色んな所から結婚の申し込みが殺到してるとか……?」
「りっくんにそんな事を吹き込むなんて……クラウス……許すまじ……。りっくん? 私はまだまだ結婚する気はないからね?」
思わず漏らした俺の言葉で、クラウスさんが姉さんにロックオンされたみたいだ。
すみません、クラウスさん。
それはともかく、別に姉さんが付き合って幸せになれるの良い相手であれば、俺は文句は言わないだろうから、そんなに確認するように言わなくても良いと思うんだけど……。
視界の隅で、ヒルダさんがアピールタイムです! とか言いたそうな視線は無視しておく。
「まぁ、そんなわけで、帝国の第1皇子が実権を握っている事に問題があるのです」
話が変な方向に向かって行ったのを、ハーロルトさんが無理やり修正する。
そういえば、今は姉さんの結婚相手や、第1皇子の変態的な趣味とかを考えてる場合じゃなかったね。
「第1皇子が他の国を狙っていると?」
「陛下の話と照らし合わせると、そう考えている可能性はありますが……実際に動いているかどうかはわかりません。ですが、第1皇子が実権を握り始めた頃から帝国の技術は飛躍的に進歩したと言われています」
「現皇帝はどうしてるんですか? 温厚な皇帝なら、軍事力を強化する事に反対しそうですけど……」
「現皇帝は、第1皇子の言いなり……というより、息子可愛さに何でも言う事を聞くような状態のようです」
「遅くに出来た子供らしいからね、後継者が出来なくて色々悩んでたみたいだけど……ようやく出来た子供がかわいくて仕方がないといった様子ね。……親バカみたいなものよ」
ハーロルトさんの話を補足するように姉さんが付け加える。
親バカか……権力を持った親がその状態になると、手が付けられないのはどこの世界も同じなんだね。
10歳足らずの少女を狙う成人男性……危ないにおいしかしませんね。
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