協力と危険
「リクはもうちょっと……もっと? 出力調整に気を付ける術を身に付けた方がいいと思うのは、その通りなの。だけど……」
「だけど?」
「私もロジーナも、学んで剣を含めた力の扱いを身に付けたわけじゃないの。だから、どこをどうしたらこうなる……みたいな事がわからなかったりもするの」
「努力して身に付けた技術とは言えないから、そこに至るまでの道筋がわからない、とかそういう事か……」
以前、どこかで人間の体を持つ際に剣の技術とか、そういったのをついでに設定した……みたいな事を聞いたような気がする。
まぁ正確には違う言葉だった気もするけど。
ともかく、自分で訓練して技術を習得したわけじゃないから、どう訓練すればいいのかまでわからない、だから教えられるかどうかってユノは考えているわけだ。
「んー、困ったな。さっきみたいな動きができるから、てっきり教える方もなんとかなると思っていたんだけど」
これは、俺が楽観的過ぎたという部分もあるんだろうけどね。
技術があり、それが使えるイコール誰かに教える事もできる、なんて思い込んじゃってた。
ちょっと違うかもだけど、優秀な成績を残したスポーツ選手が全て優秀なコーチとかになれる、ってわけじゃないもんなぁ。
「完全にユノ達を当てにしてたからなぁ。どうしたもんか……さすがにエアラハールさんは、モニカさん達の事もあるし……」
腕を組んで、眉間にしわが寄るのを感じながら考え込んでしまう。
戦闘に関してとなれば、魔法を使わなくても魔力も関わってくる……今では、次善の一手とかも含めて魔力を武器に流して戦うのが常になってきているからね。
少数の弱い魔物が相手ってだけならその必要はないんだけど、白い剣を使うなら魔力は当然関わってくる。
エアラハールさんは年齢を理由にしていたけど、それもあってユノ達にも協力してもらうのは必要になるだろう。
モニカさん達の方も、ちゃんとして欲しいのもあってエアラハールさん自身が俺にだけかまけていられないだろう、というのももちろんある。
まぁエアラハールさんに言われるまで、ユノやロジーナは俺の頭の中には候補になかったけど……だってなんというか、ユノとロジーナを見ていたら妹とか子供を相手にしている感覚が強いから。
ユノは事情を知らない人達には妹って設定にしているし、さっきは俺も止められない程の戦いを披露できるくらいではあるけども。
「はぁぁぁぁぁ……仕方ないわね……」
「ん、ロジーナ?」
「ロジーナ様?」
うんうん唸りながら考えていた俺を見てか、ロジーナが深い深い、それはもうふかーい溜め息を吐いた。
「私は、言いたくはないけどユノと同じで、細かな技術なんてのは教えられないわ。けど、リクの問題点の改善……ができるかはリク次第だけど、それに助力するくらいはできるわ。方法は色々あるのよ」
「ほ、本当!?」
「べ、別にリクのためじゃないんだから! 今のままだと、リクの近くにいたら私まで巻き込まれちゃうし、私今人間の体だから、巻き込まれたらひとたまりもないのよ! だから、私自身のためってわけよ、そこは理解しなさい!」
「う、うん……」
ロジーナに詰め寄られて、吹き出しそうになるのを抑えながら意識的に顔へと力を込め、表情を引き締めて頷く。
危ない危ない……。
さっきロジーナはツンデレ、と考えたけど……ユノがからかう時も言っていたし。
でもテンプレみたいにツンデレっぽい言葉を言われたから、思わず吹き出しそうになってしまった。
せっかく教えてくれるって言っているんだから、もしここで吹き出してしまったら、ロジーナがへそを曲げてしまうかもしれないからな、気を付けよう。
だからそこ、エルサとユノは笑いをこらえているのがわかりやすく、口を手で抑えるんじゃない。
「本当にわかっているの?」
「もちろん。ロジーナは自分のためであって、俺の事を考えて教えてくれるってわけじゃないって事だよな、うん」
訝し気な目で俺を見上げるロジーナに、慌てて何度も頷く。
噴き出していたりしたら、完全にアウトだったなこれ。
「で、その助力する色々な方法っていうのは……?」
このままだと内心を見透かされてしまう恐れがあったので、話を元に戻す。
実際に、ユノやロジーナにできる助力がなんなのかが気になるし。
「まぁ、私やユノができる事は限られているわ。というか、多分他ではできないとは思うし……そこの駄ドラゴン、エルサにも協力してもらう事になるけどね」
「駄ドラゴンって言うなだわ! 失礼なのだわー!」
「まぁまぁ。――ロジーナ達にしかできない事か。それって一体?」
俺の頭にくっついたまま抗議するエルサを手で撫でてなだめつつ、モフモフを楽しみながら改めてロジーナに聞く。
俺はエルサの事を駄ドラゴンだなんて思わないけど、そこで叫ばれたら一番近い俺の耳が痛いからね。
「それは追々ね。ユノにも確認しなきゃいけない事があるし……」
「私にもなの?」
「はぁ……」
ユノに視線をやって窺うロジーナだけど、キョトンとした表情が返って来た事に溜め息を吐いた。
ロジーナは考えがあるようだけど、ユノにはそれが一切わかっていない様子だね。
表裏一体とか色々あったとしても、考えとかはやっぱり別物なんだなぁ……。
「ただ……」
「ん?」
「危険が伴わない、とは言えないわ。それでもやるの?」
「危険か……それはどのくらいだろう?」
こちらを見据えたロジーナの視線は、俺のどんな感情の動きも見抜くという意気を感じる。
多分危険だとしてもそれに臨む覚悟があるのか、と問いたいんだと思う。
危険……どういう部類の危険なのかにもよるけど、これまでにも散々危険な事があったし、これからもそうだ。
何もしなければ、俺だけでなく他の人まで危険になる可能性も高いわけで。
俺が技術を習得したとしても、モニカさん達の危険がなくなるわけではないだろうけど……それでも少しでも減らす事ができるのなら、及び腰になる理由ないよね。
……危険になる原因が俺っていうのは、あまり考えない方がいいかもしれないけど。
「そうね。リク次第なところはあるけど、一歩間違えば魂ごと消滅とか?」
「え……」
危険と言われて、思い浮かんだ最大でも命の危険とかだったんだけど……さすがに魂の消滅と聞いたら驚いてしまう。
「いやでも、命の危険も魂の消滅もあまり大差ない、かな?」
「リクだけでなく、人間の考えなら大きく違いはないのかもね。私にとっては大きく意味が違うんだけど」
そういうロジーナだけど、俺にはいまいちその意味の違いがわからない。
まぁ、輪廻転生みたいな事を考えた場合、もう生まれなおす事ができなくなるとかそれくらいかな?
姉さんが実際この世界で生まれ変わっているから、そういう事はあるわけだし……でも俺個人として考えると、魂の消滅も死ぬ事も大きく違いがない気がする。
記憶を受け継ぐとか姉さんは特殊な例として、基本的には生まれ変わったらほとんど別の人間としてとかだろうし。
そもそも、人間に生まれ変わるのかはわからないけども。
だったら命の危険も魂の消滅も、俺としてはほとんど変わらないってところだね――。
リクにとっては危険と言う以外、大きな違いはないと感じているようです。
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