何がどうなっているかわからなくとも凄い戦いらしい
「あぁなれとは言わんが、あれも一つの頂きじゃよ。参考……には今はまだできぬじゃろうがの」
「どう動けばあんなことができるのかとか、よくわかりませんからね」
確かに、ユノとロジーナはお互いが少女という事を除けば、どんな技術の応酬なのかすら一切わからない。
両方、お互いに距離を離したり近付いたり、クルクル回転していたり……体の動きすらどうしたらあぁできるのか見ても全然わからないなぁ。
「尋常ではない技術と身体能力、それと集中力であの動きを実現させておる、と言ったところかの。多分じゃが。これまでワシが見た剣の中で一番じゃ。どうしたらあんな事ができるのか、ワシにもわからんくらいじゃからの。まだ未熟なリクがわからないのも当然じゃ」
「エアラハールさんにわからないのなら、俺にわからなくてもおかしくありませんね……確かに」
俺よりは見えているようだけど、エアラハールさんにもよくわからない攻防ってところか。
そんなの、まだまだ技術すら身に付いていないどころか、ほとんどわかっていない俺に理解できるわけないよね。
「ま、まぁじゃが、そんなワシでもリクよりもわかっている事があるぞい?」
「えっと?」
何やら、エアラハールさんが少し焦った様子でそう言った。
ユノとロジーナを見て、よくわからないと言うのが悔しかったのだろうか。
「全ての動きが、洗練されて一撃必殺の振り……次善の一手どころではなく、最善の一手を常に使っている状態じゃ」
「最善の一手を?」
「うむ。もしかしたら、それをさらに昇華した技とも言えるのかもしれんが……木剣でありながら、あらゆる物を斬り裂く威力を秘めておる」
「そんなので、常に戦っているなんて……」
そりゃ、床が抉れて壁に傷がつくわけだ。
どれだけの集中力とか技術などで実現しているのかはわからないけど、ユノとロジーナが繰り出す攻撃全てが最善の一手なら、木剣でも金属を斬り裂く事も可能だ。
次善の一手ですら、近い事ができるくらいの威力があるしね。
「というか、あれを一手……と言うのはなんか違うような気がするんですけど」
「う、うむ、そうじゃの。最善の一手とは……次善の一手もそうじゃが、切り札とも言うべき技。あのように多発するものでもないのう」
次善の一手はまぁ、最善の一手の劣化版というか誰でも扱えるように、戦力増強としてエアラハールさんとユノが考えた技だから、呼び方とかはそのままでもいい気がするけど。
……兵士さん達、慣れてからは魔力が続く限り常に使っていたりはするため、同じく一手という部分は少々あれだけども。
ただエアラハールさんも言っているように、本来最善の一手って切り札とか劣勢な戦闘で逆転のための一手、もしくは最初の一撃で決着をつけるため、みたいな意味があるようだからユノやロジーナが、木剣の一振り一振りに全て使っている状態というのはもはや切り札とか一手ではないだろう。
「もはやあれは、別物とも言えるのう……さて、なんて呼んだものか」
「疑問を口にしておいてなんですけど、ユノとかロジーナくらいしかできそうにないので、別にわざわざ呼び方を決めなくてもいいと思うんですけどね。違和感があったとしても」
結局は呼び名ってだけだからなぁ……何か相応しい呼び方を考えるかどうかにかかわらず、ユノとロジーナが凄い剣の使い手、というのは変わらないし。
「何を言うのじゃ。技名というのは大事じゃぞ? 勇名を馳せ、代表される技を知らしめる。冒険者として拍が付くと言うもんじゃ。ワシも現役の頃は色々となぁ……」
「ユノとロジーナ、冒険者ですらないんですけどね」
実際はどうあれ、肉体的な見た目と年齢的な部分で規定に引っかかって、冒険者にはなれない。
例外的な事はマティルデさん達冒険者ギルドの方で考えられているみたいだけど……センテでの戦いによる貢献とか、実質的な実力とか、特にユノはこれまでも俺と一緒に行動して活躍していた事もあるから。
エアラハールさん的には、何々使いの誰々……みたいな高ランク冒険者として有名になった時に、呼ばれやすい呼び方を想像しているんだろうし、エアラハールさんも現役時代はそうだったのかもしれないけど。
勇名を馳せるとか、ユノとロジーナが興味を持つとは思えないんだよね。
ユノはとにかく、子供っぽく興味が引かれる面白そうなこ事を好むし……それだと、こういう技を使うユノみたいな呼び方にも興味を持つかもしれないけど。
ロジーナの方は、基本的に見た目とは全然違って一歩引いている感じで、積極的に誰かと関わらないようにしているみたいだからね。
それを知ってか知らずか、レッタさんはロジーナ至上主義みたいなのもあって、積極的に構っているけど。
まぁそんな事はどうでも良くて……。
「それでエアラハールさん、俺の頼みはどうなったんでしょうか? 確かにユノとロジーナはあれを見る通り、技術的にだけでなく色々と他の人間と比べるまでもなく優れていますし、俺に教えるとかもできそうですけど……」
「事情を知れば、人間と比べるまでもないと言うのは当然じゃし、むしろ今見ているあれですら本来の片鱗すら見せておらんのじゃろうけどのう」
創造神と破壊神だからね……ユノはともかく、ロジーナの方は隔離された時戦ったけど……剣を打ち合ったわけではなくとも、俺を圧倒できる程の力だったのは間違いない。
干渉力という制約がなければ、多分俺はここにいないし簡単にやられていてもおかしくないだろう。
俺やエアラハールさんが見ている模擬戦、木剣で最善の一手の打ち合いもあの時のロジーナから比べると、全然優しいものと言えるからね。
多分、あの戦いで使っていた熱線とか衝撃とか、隔離されずに行使されていたら地形が変わって街の一つや二つくらいは軽々と消し飛んでいたかもしれない。
まぁ結局、干渉力の制約でそれもできないから俺の足止めの狙いも合わさって、わざわざ隔離したんだろうけど。
「それで、お主に関する事じゃが……モニカ達と同様、ユノ達を説得しろと言いたかったんじゃ。まぁモニカ達とは違って、ユノ達を説得するのが条件というわけではないが……しかし、あれを見たらどうも止められる気がせん」
「間に入ったら、多分体がバラバラになりながら吹っ飛びますよね、あれ」
「うむ」
つまり、ユノ達に協力してもらうよう俺から言う事としたかったけど、模擬戦が本格的すぎると言うか止められないからとりあえず見ているだけ、というわけか。
もしかしなくても、技名がどうのと言っていたのは、エアラハールさんでも止められない状況だから、とりあえずもっともらしい事を言おうとしていたのかもしれないね。
もちろん、魔法が使えず結界も張れない俺も同様に、間に入ると危険が危ないというおかしな言葉が浮かぶ程なので、止める事はできそうにない。
どうやって止めようか? と考えるだけで、背中に冷たい汗が流れるくらいの迫力だし……余波が届いているわけではないし、結構距離があるのにだ――。
止められないリク達は、ただ見ているしかないようです。
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