簡単な冷やすための仕組み
「え? 箱に物を入れて冷やすのよ? そんなの他に近い物なんて……」
首を傾げる姉さんは、覚えていないというより知らないのかもしれない。
まぁ俺もテレビかなんかで偶然、昔の家電の特集みたいなのを見て知ったわけで、詳しくはないし知らなくて当然なんだけど。
俺が生まれるより数十年も前の事だからね。
「冷蔵庫とは別にじゃなくて、現代の冷蔵庫の原型の方だよ」
「原型?」
「これは姉さんも知っているはずだけど、簡単に言うと空気が温められると上に行き、冷やされると下に行くでしょ? こちらでもその法則は変わっていないと思うんだけど……」
「同じなの」
チラッとユノの方を見ると、頷いてくれた。
ほとんど地球と変わらず生活できているから、その辺りの法則は違わないと思っていたけど、どうやら間違いないようだ……今は人間とはいえ、創造神様のお言葉だからね確実な保証と言える。
「それくらいは私も当然知っているわ。だからこそ、食糧庫とかは冷暗所となる地下とかに作られる事も多いし……」
地下食糧庫なら日も差さないし、仕組みによっては外より温度を下げられるだろうからね。
それと近い仕組みというか、考え方としてはほぼ同じだと俺は思っているけど……。
「例えば、氷を作って台か何かに乗せる。その下は冷えるでしょ? まぁ何もしなければ周囲も冷えていくんだろうけど」
「そうね」
「だから、密閉空間を作って上に氷を。下に食糧を入れておけば勝手に冷えるってわけ。氷が作り出せるなら簡単だからね」
確か、冷蔵庫の初期の形ってそんな物だったはずだ。
上段に氷を入れて内部の温度を下げ、下段に入れた物を冷やすって仕組み……懐かしの家電特集かなんかで詳しくやっていた。
「家電の冷蔵庫も内部は密閉されているけど、それと同じようにすれば冷気を逃さないようにもできるから……そうだね、完全に木造だと内側が湿気とかで腐りそうだし……鉄板とかで箱を作って外側を木で囲むとか?」
氷を扱う以上絶対に溶けて湿気とかが出るから、内側を木製にするのはね……完全に密閉という程にもならない可能性もあるし。
意外と木材は伸縮するって話も聞いた事があるし。
俺が見た冷蔵庫は、内側はブリキで外側は木製だったっけ。
「あぁ、成る程! そうすればいいのね!」
俺の話を聞いて大体の冷蔵庫像が掴めたのか、大きく感心する姉さん。
「氷は魔法でなんとでもなるだろうし……冷たい風を作り続けるとか、内部の温度を下げるのを魔法に頼るのは確実だと思う。まぁ、氷が融けた水はどうにかしないといけないけど……」
「確かに、魔法具で私達の知っている冷蔵庫を再現するよりは、氷を魔法で作るくらいにしておいた方が簡単ね!」
「まぁ、高機能で温度調節だけでなく色んな事ができる冷蔵庫っていうのは、できないだろうけど。単純に食料を冷やすだけなら、多少手間はかかるけどこの方法でできるんじゃないかな?」
日本での冷蔵庫は温度調節以外にも液晶が付いていたり、左右のどちらからでも扉が空けられたりなんてのもある。
特定の場所に水を入れておけば氷が勝手にできるなんてのは、ほとんどの冷蔵庫に付いているけど……単純に「冷やす」という事だけなら、実現自体は難しい事じゃない。
魔法で氷が簡単に作れるって事も大きいだろうけど。
何せ、氷を作りだして打ち出す魔法とかもあるくらいだし。
「さすがに、冷凍庫の方は難しいと思うけど……というか、そんな冷蔵庫を前線に持って行く気なの?」
「食糧問題は、兵の士気にも関わるわ。考えてもみて? 大して美味しくない物を毎日食べさせられて、状況によっては腐っているような物も食べなきゃいけない。まぁこれは極端な例だけど……もちろん、保存の利く物が基本だけど味気ない食事ばかりになるのは目に見えているわ」
「それはまぁ、確かにそうかも?」
戦時食なんて、詳しくない俺にはお世辞にも美味しくない物ってイメージだ。
それでも日本の缶詰も含むレーションとかって、美味しい方らしいと聞いた事があるけど……わざわざ食べたいとは思わない。
「当然限界はあるけど、できるだけ美味しい物を食べた方が兵達だって、気力が湧いて来るってものよ。それこそ、栄養状態すら考えられたら戦時の動きにだって影響があるだろうしね。どこまでできるかはわからないけど。腹が減っては戦はできぬ、よ」
「まぁ、ね……」
俺の戦争の知識なんて、日本でやったシミュレーションゲームくらいで、姉さんも似たり寄ったりだろう……まぁ姉さんはこちらで俺以上に色々と学んでいるから、知識量は段違いだろうけど。
それでだって、食料がなければ戦争はできないから、食を重視するの理にかなっているんだろう。
ただ、あくまでそういう言葉があるというだけで、証明もされていないはずだけど……「料理のまずい国は戦争が強い」という言葉がるんだよね。
俺としては、美味しい物を食べた方が生きる活力になるし、戦争に勝って生き残ろうという気分にさせてくれるだろうから、姉さんの意見に賛成だけど。
まぁとりあえずあるってだけの言葉だから、特に気にしないでもいいかな。
「それに冷蔵庫を食料を運ぶためのものと考えれば、りっくんが懸念しているような事にはならないわ」
「結構、かさばると思うんだけど。いや、かさばるで済ませていいのかどうか……」
冷蔵庫なんて数十キロから物によれば百キロを越える物だってある。
空っぽの状態でその重さだからね。
そんなのを馬車とかで運ぼうとするなら、かなり大変な気が……。
「あ、でもそうか。機械部分がないから……」
「そうよ。私は魔法具で解決しようとしたけど、さっきりっくんの言った方法ならただの箱を運ぶのに等しいの。それは、内側を鉄板とかで覆うならそれだけ重くなるだろうけど、元々兵の武具などもあるからそれくらいなら問題ないわ」
「成る程ね」
この世界で食料を運ぶとしたら、木箱や麻袋が一般的だ。
瓶はほとんどないし、壺の場合もあるにはあるけど……凄く揺れる馬車で運ぶんだから、衝撃があっても問題ない物が入れ物になるわけで。
そして木箱で運ぶのなら、少し大きくなって内側を鉄板にし、多少重くなった物でも問題なさそうってところかな。
それこそ、運ぶ段階から氷を入れて冷やしながら運ぶなんて事もできそうだね。
「ありがとうりっくん。とても参考に……というより解決策が得られたわ」
「まぁ偶然というか、そういうのを俺が知っていただけだからね」
冷蔵庫の成り立ちとか、最初は電気すら使わない原始的な物だった、というのを知らなければ便利な家電としての冷蔵庫の事ばかり考えてしまうだろうからね。
客観的にみると、それくらい思いつくだろう……と思う事でも、当事者になると以外と固定観念に囚われてしまうっていうのはよくあると思う。
「氷を作る方法も考えないといけないけど、いえ魔法でというのはともかく、誰でも使えるわけじゃないから」
魔法で氷を作るとして、誰がやるのかとか考えないといけないわけか……まぁ当番制になりそうだね――。
魔法を使える人が冷蔵庫……冷却箱の氷番で交代制で運用するのかもしれません。
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