とりあえず部屋で落ち着く
「私より、よっぽど陛下の方が女狐と呼ばれるのに相応しい気がしますけどね?」
「あら、それはどういう事かしら……?」
「民の前で見せる姿と、今ここでの姿では、違いすぎますもの。表裏が激しく、媚びるようなさっきのあれは、女狐と呼ぶのに相応しいのではないでしょうか?」
「あーら、随分な言われようね。そちらだって、自分の容姿をひけらかして男に取り入って、今の地位を手に入れたような物じゃない? その方がよっぽど女狐と呼ばれるのに相応しいと思うわよ?」
「あ、あれは……私が自らというわけではなく、向こうから……利用はさせてもらいましたけど……。でも仕事ばかりで、これでもまだ……」
「あなたが経験した事あるかどうかなんてどうでもいいわ。被害に遭った男が、問題を起こしたとかも聞いているわよ? 冒険者やギルド内で収まらず、衛兵まで出ていたみたいじゃない?」
「あれは、あの男が勝手に勘違いして……そもそも私はあんな年の離れた男……」
なんて、驚いている俺達を余所に、言い合いというかやり合い始めた姉さんとマティルデさん。
どちらが女狐と呼ばれるに相応しいかなんて、俺にはわからないけど……旗色の悪いマティルデさんの方は、別の冒険者ギルドの職員さん達からはそういう認識だったのを聞いた事があるからなぁ。
「えーっと……」
「この二人は、馬が合うようでここ数日はあのように仲良く談笑する事が多いのです。あ、少し長くなるかもしれませんので、お先に荷物などを置いてはいかがでしょうか?」
「あ、はい……」
「そ、そうね……その方がいいかしら」
姉さんとマティルデさんの止まらない言い合いに、どうしようかと迷っていたらヒルダさんに荷物を置く事を勧められた。
冷静だなぁヒルダさん……それだけ、姉さん達の言い合いに慣れているって事かもしれないけど。
というか、姉さんは顔を合わせた事がない人がいても、俺達の前ではリラックスモードで俺をりっくんと呼んだり、女王様っぽくない口調になっているけど、マティルデさんの前でもそうなんだ。
以前から知っているような口振りなのは、アテトリア王国内の冒険者ギルドのトップのマティルデさんと、協力関係の結びつきを強くした姉さんだから、知り合いというのは不思議ではないかもしれないけども。
それでも姉さんがこの部屋に入れて、こうして言い合っているのを見ると、確かにヒルダさんの言う通り馬が合うのかもしれないね。
そんな風に考えながら、持っていた荷物を置き、壁にアルケニーの足を立てかける。
他の皆も、ヒルダさんが勧めるまま荷物などを置き、それぞれソファーに座ったり立ったままだったり……アマリーラさんとリネルトさんは、何故か座った俺の後ろに立っている。
もしかしなくても、マティルデさんを警戒しているのかもしれない、ゆっくりと揺れる二人の尻尾は少しだけ毛が逆立っているから。
ちなみに、一番冷静なヒルダさんは人数分のお茶を淹れてくれているようだ。
結構マイペースなのかもしれない……戻って来てから、新しい一面を見てばかりな気がする。
「……ようやく戻って来たか、リク」
「エアラハールさん、いたんですか!?」
ふと、小さくしゃがれた声がしてそちらを見てみると、部屋の隅で何故か縮こまって膝を抱えて床に座っているエアラハールさんがいた。
全然気づかなかった……。
ヴェンツェルさんやマックスさんの元師匠で、今は俺やモニカさん、ソフィーの師匠のような事をしてくれているお爺さん、Sランクに近いと言われていた元Aランクの冒険者だ。
冒険者は引退し、年齢が年齢なのもあって現役の頃程じゃないらしいけど、それでも瞬間的には凄まじい強さを発揮する人だね。
俺が力任せに振るう剣が、ほとんど掠らせる事すらできない人でもあり、多分今も無理だと思う。
エアラハールさんには俺だけでなく、モニカさん達も驚いていたけど、ユノとロジーナは特に気にしていない様子だった……こちらは気付いていたんだろう。
「うむ。あの二人がいると……いや、ヒルダもじゃったか。あれら三人がいると、ワシは隅でこうして縮こまっているだけしかできんのじゃ。気配を殺すようにしてな」
「そこまでしてここにいる必要はないんじゃ……」
「リクが戻って来たと報せが来てのう。兵士共に訓練を付けていたのじゃが、こうして呼ばれたんじゃよ」
「そうだったんですか……」
まぁ、エアラハールさんは女性と見ると手を出そうとするからね。
あらゆる意味で、女性としても人としても強い三人が揃ったら形無しなんだろう。
特に一人はそんな雰囲気を出していないとはいえ、この国の女王陛下でもあるし。
エアラハールさんも呼ばれた理由は、まぁ俺が戻って来て色々と話すためだろう。
これでほとんど全員が揃ったような状態だ。
あ、でもクレメン子爵の孫で次期当主のエフライムと、フィリーナの兄で研究に没頭するエルフらしいエルフのアルネがいないか。
他にヴェンツェルさんの右腕、情報部隊のハーロルトさんは忙しいだろうし、確か俺が王都を離れる前は帝国に行っていたんだったっけ、戻っているのかな?
アメリさんはまぁ、ハーロルトさんの住居に移り住んでいるはずだから、俺が戻って来たからと呼び出される事もないかな。
「そういえば、エフライムとアルネはどうしていますか?」
とりあえず、ヒルダさんがお茶を淹れ終わって全員に配られてもまだ終わらない姉さんとマティルデさんのやり取りを、横目で眺めつつヒルダさんに聞いてみる。
白熱している二人は、ずっと続いているからもう気にしない方がいいと結論付けたし、一部を除いて姉さんともある程度話した人達は平常通りになっていた。
「エフライム様は、十日ほど前に子爵領にお戻りになりました。向こうでやる事があるようで。アルネ様は、研究に没頭しておりまして……一応呼んだのですが、おそらく本人には伝わっていないかと」
「アルネは一体何の研究をしているのだ……私も、加わりたいのだが」
「アルネらしいわね、まったく。カイツは、まず話を終えてからよ」
エフライムはクレメン子爵領に戻ったのか……帝国に近い場所でもあり、王都と帝国領の間にある貴族領では唯一私設の騎士団を持っていて、大きな戦力らしいからこれからに備えて色々あるんだろう。
アルネの方は研究に没頭して、呼び出しにも気づいていないのが容易に想像できるね。
カイツさんが羨ましそうだけど、話が終わったら無理しない範囲で合流して一緒に研究して欲しいと思う……注意していても没頭しすぎて無理しそうだけど。
まぁ今はとりあえず姉さんとマティルデさんの言い合いが終わるのを待つかな。
二人を止めるのは他の誰にもできそうにないし……と思って、ヒルダさんの入れてくれたお茶を皆と一緒に飲む。
けど、チラリとヒルダさんを見たら、何かを勘違いしたのか頷いて姉さんとマティルデさんの方へと動いた……。
ヒルダさんはリクからの視線に何か意図を感じてしまったようで?
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