なんだかんだとありながら部屋の中へ
「……陛下、リク様の反応が薄くなっております。ひとまずは落ち着いて……下さいっ!」
「ごふ! つぅ~……ちょっとヒルダ、感動の再開なのに何するのよ!」
冷静なヒルダさんの声と共に、俺を抱きしめている姉さんの体に大きく衝撃が走るのが伝わってくる。
全く見えないし、酸素が足りずに頭が働かなくて変な考えが浮かんでいたりするから、何をしたのかわからないけど……多分ヒルダさんが何かしてくれたんだろう。
あと姉さん、おおよそ女王陛下には似合わない声を出すのはどうかと……それだけ、ヒルダさんから受けた何かの衝撃が突然で強かったのかもしれないけど。
相変わらずこの二人は、リラックスモードの時は主従とか関係なく親しい様子みたいだなぁ。
「何するの、ではありません。あのままではリク様との感動の再開が、悲劇の再開になるところでした」
「ぜは~! はぁっ! はぁっ! あ、ありがとう、ございます。ヒルダさん……ふぅ」
「いえ、ある程度予想していましたから。リク様が行方不明になったと報告があった時から、ずっと陛下は気が気ではなかった様子で……まぁ、リク様が王城を離れている際にもよく心ぱ……むぐ」
「それ以上は言わないでいいわ、ヒルダ」
姉さんをヒルダさんが引き剥がしてくれたおかげで、ようやく息をする事ができるようになり、慌てて呼吸をする。
お礼を言う俺に姉さんの様子を伝えるヒルダさんは、途中で口を塞がれていたけど。
「え~っと……」
「信じられない光景、というのはわかるわ。けど、リクさんと一緒にいるとこういう事は、日常茶飯事と思っていいと思うわ」
「私達は、完全ではないが……多少は慣れたからな。それでも、さすがに今回のは驚いたが」
「まさか、部屋から飛び出されるとは思っていませんでした。リク様の状況がある程度伝わっているのは知っていたので、熱烈な歓迎があるとは考えていましたが」
どうしたらいいのか、と戸惑うを通り越して混乱している様子のカーリンさんに、モニカさんやソフィー、フィネさんが何やら話している。
フィリーナは見なかった事にするみたいで、そっぽを向いてカイツさんは首を傾げていて、アマリーラさんとリネルトさんはポカーンとしている……部屋から人が飛び出して来たから、警戒したのか尻尾はぴんと立っているけど。
あ、そう言えばカイツさんやアマリーラさん達は姉さんとは会った事がないんだったっけ。
なんとなく、カーリンさんもカイツさんも、会った事はなくて顔をよく知らなくても、話の流れで俺に抱き着いた……というか、部屋から飛び出して抱き着いたのがこの国の女王陛下、というのはわかっていると思うけど。
……カイツさんはもしかすると、話しに聞いていた女王様と姉さんが繋がらないのかもしれないのかな。
まぁ、評判とかを聞く限りでは凛々しく聡明で、下々の者にも優しい素晴らしい人物とかだろうし、目の前にいる人とは中々同一人物だとは思えないよね。
俺から言わせると、優しいはともかく凛々しくて聡明とは……いや、聡明ではあるのかもしれないけど、日本にいる時の記憶でも成績とかは良かったはずだし。
でも、さっきの様子や俺の部屋でリラックスモードになっている時は、評判とはかけ離れているような……。
「りっくん、何か変なこと考えていなかった?」
「い、いや何も……と、とにかく部屋に入っていいかな? 荷物とかもあるし、話があるんでしょ?」
「むぅ、不穏な波動をりっくんから感じたのだけれど……」
ヒルダさんから手を離し、ジト目で俺を見る姉さん。
不穏な波動っていったいなんだろう? とは思うけど、体はともかく魂は日本で俺の姉さんだったものだから、その繋がりとかでもあるのか結構鋭いんだよね。
ともあれ、このまま部屋の外で話しているとリラックスモードの姉さんが、通りがかった兵士さん達にもみられてしまう可能性が高いし、戻って来たばかりだし話しをするなら部屋の中での方がいいだろう。
カーリンさんが欲しがったアルケニーの足の刃も、いくつか持ってきているし。
これあまり重くはないし細い物だけど、長いんだよね。
一本一本が、俺の背丈くらいあるから、持っていると結構邪魔になる。
「仕方ないわね。まぁ、見かけない顔もいる事だし、中で話しましょう。積もる話もあるわけで……りっくんが連れているんだから、信用できる人達でしょうし」
「うん、皆仲間って言っていいのかな? センテに言っている時に知り合った人達だけど、色々とあってね。まぁそれについても部屋で……」
カーリンさんはヘルサルでだけど、まぁ大きく違いはないだろう。
とにかく、積もる話は部屋の中で……と、姉さんの背中を押すようにして部屋に入ろうとしたら、姉さんの小さな呟きが俺の耳に入って来る。
「すぐ話せるかは、微妙だと思うけれどね……」
「え……?」
どういう意味なのか……と尋ねる間もなく、部屋の中でソファーに座って大きく口を開けている人物に目が留まった。
あの人は……なんでここにいるんだろう?
「び、びっくりしたわ……まさか、陛下が飛び出していくなんて思っていなかったから……」
「りっくんが戻って来たんだもの、それくらいはするわよ」
どうにか声を出した、というその人物に対して姉さんは当然とばかりに言い放つ。
いや、心配してくれたり歓迎してくれるのは嬉しんだけど、さすがに部屋を飛び出してまで抱きしめるのはちょっと。
って、そんな事よりも……。
「マティルデさん? どうしてここに……いつもは、冒険者ギルドにいるはずですよね? そこでしか会った事がないですけど」
ソファーに座っていた人物は、マティルデさん。
広い王都に複数ある冒険者ギルド、その中央でギルドマスターを務める人物であり、アテトリア王国内の冒険者ギルドを取りまとめる統括ギルドマスターでもある。
相変わらず、妖艶という言葉が似合いそうな、年齢不詳な女性なんだけど……今は、姉さんの行動に驚いたのか少しだけ幼い印象も受ける。
まぁ驚いているのは俺も同じで、後から入って来たモニカさん達も同様に驚いているんだけどね。
ちなみに、リリーフラワーの人達はあくまでクランに参加とはいえ冒険者なので、兵士さん達と一緒だけど、アマリーラさんとリネルトさんは俺の護衛の名目として一緒に。
カイツさんは本来研究者として王都に来る予定だったので、そちらも一緒にいて、部屋に入って来ている。
あとはモニカさん、ソフィー、フィネさん、ユノとロジーナに、レッタさんがいるんだけど……これだけの人が入っても余裕があるのは部屋が広すぎるくらいに広いからだろう。
「リク、久しぶりね。ちょっと色々問題が発生して……こうしてリクに輿入れするために、間借りする事にしたの」
「女狐が何を言っているのかしら。そんな事私の目が黒いうちは認めないわよ。りっくんには他に相応しい人がいるんだから。――ね、モニカちゃん?」
「え、あ、は、はい……?」
姉さん、そこでモニカさんに振られてもちゃんと反応できないと思う……俺もだけど。
というか、輿入れって……こちらにもそんな言葉があるんだ、なんて全然関係ない事を考えてしまっているのは、予想外の人物がいて、予想外の事を言われたからだろう――。
いつもは冒険者ギルドにいるはずのマティルデさんが、部屋で待ち受けちました。
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