ヒルダさんに連れられて王城内へ
駆けて来て迎えてくれたヒルダさん、かなり広いグラウンドのようなこの場所、中心近くにいる俺のところまで結構距離が離れている王城から走って来ていたのに、息一つ切らしていない……意外と体力があるのかもね。
まぁ王城で女王陛下のお世話をする人なんだから、色々と体力勝負な部分もあるのかもしれないけど。
しかも服が一切乱れていないのは、もはや不思議な能力のような気もする。
そのヒルダさんは、俺の前でモニカさん達も含み全員を一度見渡してから、ホッと胸を撫で下ろしつつ、本当に安心した様子の笑顔で迎えてくれた。
結構、心配させちゃったのかもね……ロジーナに隔離された時とか、一時的とはいえ行方不明扱いだったわけだし、その報告は王城にも届けていたみたいだし。
だからこそ、マルクスさんやヴェンツェルさんが王軍を引き連れてセンテやヘルサルに来たんだけども。
「なんとか無事です。ヒルダさんはお変わりないようで……でいいのかな?」
こういう時、なんていったらいいかわからず、とにかく無難に頭の中で言葉を選んで口にした。
「陛下には相変わらず振り回されておりますが……と、お荷物の方はこちらで」
「すみません、お願いします」
「誰か、リク様方のお手伝いを!」
そう言って、兵士さん達を呼んでエルサやワイバーンが運んできた荷物を降ろし、整理を手伝う人員を確保するヒルダさん。
侍女だって聞いていたけど、そのヒルダさんの指示にてきぱきと従う兵士さん達を見たら、結構地位は高いと言えるのかもしれない。
まぁ女王陛下の侍女だからかもしれないけど……こういう所は初めて見たね。
「はぁ、ようやく解放されたのだわー」
「お疲れ様、エルサ。多くの人や荷物を運んでくれて助かったよ」
「これくらい、なんでもないのだわー」
荷物を全て降ろし、溜め息混じりに小さくなったエルサが俺の所へふよふよと飛んで来る。
お礼を伝えると、プイッとそっぽを向きつついつも通り俺の頭にコネクト。
少し照れてしまったのかもしれない。
「リク様、エルサ様、それにモニカ様方も……お戻りになってすぐで申し訳ございませんが、よろしいでしょうか?」
「あぁはい。なんでしょうか?」
改まった様子で、少し真剣な表情になったヒルダさんが、俺やモニカさん達に声をかける。
ヒルダさんがこういうのは珍しいね。
不思議に思いながらも、荷物を道中に討伐した魔物の素材や、センテから運んできた物などの仕分けをしていたモニカさんやソフィー、フィネさんがこちらに来る。
「陛下がお呼びです。お疲れのところ申し訳ありませんが……」
「センテでの事とかの報告をしてくれって事かな……? わかりました。すぐに向かいます」
モニカさん達と顔を見合わせ、ヒルダさんに頷く。
しばらく離れていたし、センテでの事を考えると報告は当然だしね。
まぁ呼び出されるよりは、到着と同時にヒルダさんのように飛び出してくるんじゃないか、と思っていたからその予想は外れたけど。
「センテで起こった事は報告されています。そちらもリク様方から、改めて陛下にお話しする必要はあるでしょうが……陛下が聴きたがるのは間違いありませんし。それとは別に、リク様方と話したい事があるのです」
「センテでの事とは別に、ですか……」
そういえば、俺に早く戻って来て欲しいみたいな連絡が来ていたんだった。
本来なら昨日のうちに到着する予定だったんだけど、魔物の集団を相手にしていたせいもあって、ちょっと遅れちゃったからね。
怒られたりはしないだろうけど……とにかく、早く戻って来て欲しいという理由なども気になるし、ヒルダさんと一緒に姉さんの元へ行く事にした。
っと、その前に……ルギネさん達を一緒に来た兵士さん達に任せてないとね。
カーリンさんと同じくまさか王城に直接降りるとは思っておらず、荷物の整理などを手伝いつつも周囲の兵士さん達に戸惑っているようだから。
お城から続々と大量の兵士さんが出てきて、まるで俺達を囲むようになっているから、戸惑うのも当然だし。
ワイバーン達の事も、頼まないと……降りた場所の端の方に、何やら見慣れない建物というか、厩を大きくしたようなのがあり、そこでワイバーンを収容するらしい。
とりあえず、リーバーにちゃんと兵士さん達の言う事に従うように言っておいた――。
「あれ、ここって……」
「はい、リク様のお部屋です」
「ですよね? でも、ね……陛下が呼んでいるって……」
ヒルダさんに連れられて来たのは、王城内にある見慣れた場所。
というか俺がこれまでも使っていた客室だった。
他の客室とは違い、ちょっと豪奢な扉と内部は一人で使うにはかなり広くて、十人以上が入って一切狭く感じない程なんだけど。
俺はてっきり、会議室とか執務室みたいな場所に連れて行かれるのかと思った……これまでも、そういった場所で話した事もあるし。
「こちらの方が、陛下も話しやすいだろうとの事です。他にも理由はありますが……」
「他の理由ですか?」
「いえそれは……入ってもらえればわかるかと」
「は、はい」
何やら含みを持たせるようなヒルダさんの物言いに、首を傾げながらも頷く。
いざ中へ……と思ったら、後ろからおずおずとした声が上がる。
「あのー……私はここにいていいのでしょうか? 先程から、陛下という言葉が聞こえるのですが……」
聞こえたのはカーリンさんの声。
ルギネさん達のように、降りた場所に残して来ても良かったんだけど、ヴェンツェルさんの姪っ子さんだからね。
一応姉さんにも紹介しておこうかなと思って連れて来た。
「まぁこの部屋にいるのなら、特に問題はないと思いますよ。――ですよね、ヒルダさん?」
「はい。どのような方でも、というわけには参りませんがリク様と一緒でしたら、問題ありません」
「そ、そうなんですか……」
俺の部屋でという事は、姉さんはリラックスモードで話がしたいという事だろうから。
多分カーリンさんがいても特に気にする事はないと思うし、ヒルダさんに確認を取った反応を見るに、俺たち以外に聞かせられない話というわけでもないんだろう、多分。
女王様モードの姉さんじゃないなら、カーリンさんを紹介するのにちょうどいいし、ついでだからね。
というのは今考えた理由だけど……ま、まぁ結果オーライという事で。
「陛下、リク様方をお連れしました……」
部屋の中に声をかけ、ヒルダさんがドアを開け……俺達が入ろうとした瞬間……!
「りっくんりっくんりっくん!!」
「ぶあ!?」
中から躍り出てきた人物が、ものすごい勢いで俺に抱き着いてきた……ぐぬぬ、モニカさんに負けず劣らず、豊かで柔らかい何かが俺の顔を塞いで息ができない……。
「おかえりなさいりっくん! 無事なの? 無事なのね?! 良かったわ、心配したのよもう!!」
「……」
何か耳元で、俺を抱きしめて拘束した人物……というか間違いなく姉さんだろうけど、その姉さんの締め付けが強すぎて、抜け出せないし息ができない。
あ、そろそろ危険かも。
さすがに魔力が大量にあったとしても、息ができないというのは危険なんだなぁ……俺も人間って事だ、一つ偉くなったぞ……。
リラックスモードを突破して、心配モードになっていたようです?
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