時間稼ぎ
「今からここで、俺がしばらく時間を稼ぎます。もし漏れた魔物が出たら、集中して倒してくださいね」
「はっ!」
声を上げた兵士さんにそれだけ伝えて、俺は魔物に向かって駆けだす。
「GU?」
「遅いよっと!」
橋の端、魔物達の先頭にいた一つ目の巨体を持つ魔物を剣で縦に斬る。
気付いて反撃しようとしてはいたけど、動きが遅く俺の剣が先に届いた。
巨体が二つに割れ、地面に落ちるのを見ながら、隣にいる魔物を横一閃で斬り倒す。
「GUGYA!」
悲鳴っぽい声を上げて地面に崩れ落ちるのを見ながら、その後ろから迫る魔物に目を向ける。
「密集してるだけあって、まだまだ数が多いな……」
そう呟きながら、こちらを押し返そうとする魔物達へがむしゃらに剣を振る。
俺は剣術を学んだことはないから、やみくもに振るだけだ。
なんとなく、こう振れば斬れるかな? くらいの感覚でしか剣を使ってない。
いつか誰かに正しい剣術というものを学んでみたいな。
「おぉぉぉ、魔物達がこれほど容易く……英雄というのはこれほどまでの……」
「英雄様が味方にいるんだ!」
「我々に負けは無いぞ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」
俺が魔物達と戦う後ろで、見ていた兵士達が一斉に声を上げた。
士気が上がるのは良いけど、無理だけはしないで欲しい。
魔物達が襲って来て結構な時間が経ってるはずだから、疲労もあるだろうから気を付けて欲しいところだ。
「おっと、そっちに魔物が1体漏れました!」
「了解しました! 任せて下さい!」
「やるぞ!」
「おぉ!」
俺が剣を振る隙間を縫って、オークが1体俺の横を通過した。
道幅が10メートルはあるくらいに見えるから、さすがに1体も通さないなんてことは出来そうにないな……全ての魔物が俺に向かって来てくれれば良かったんだけど。
「せい!」
「我らの力を見せる時だ! ふん!」
「はぁっ!」
俺の横を通り過ぎたオークは、兵士3人に囲まれて何も出来ないまま倒された。
士気が上がった事と、複数で1体を相手にすれば怪我をする可能性が減るから、そのまま頑張って欲しい。
「あ、また漏れちゃったな……はっ!」
オーガを武器ごと切り捨てながら、横を通過して行ったコボルトを見る。
足が速くて小さいから、仕方ないんだけどちょっと悔しいな。
「カッター!」
「ウィンドブレイド!」
「フィリーナ、アルネ」
そのコボルトは兵士達に囲まれるまでも無く、フィリーナとアルネの放った魔法で切り刻まれて絶命した。
「これくらいなら任せなさい」
「リクばかりに任せるのもな。この程度なら楽なものだ」
「頼りになるけど……魔力切れには注意してくれ!」
ちらりと見た二人の表情は、得意そうな顔をしていた。
それは良いけど、ずっと戦ってる二人は魔法を使い続けて来たはずだ。
魔力量の多いエルフとはいえ、魔力が切れる事もあるだろう。
「エルフならこれくらいこなして見せるわ!」
「少々厳しい事は確かだがな……枯れないように注意するさ」
「私も援護するからな。大丈夫だ」
「ソフィーさん……お願いします……ふっ!」
エルフの二人からは頼もしい言葉が聞こえる。
ソフィーさんも一緒にいるのなら、魔法を使い過ぎないように見てくれるだろうから、何とかなるかな。
そう考えながら、小さい魔物を蹴散らしながら俺に突撃して来た5メートルくらいの魔物を斬り倒す。
真っ二つに斬られた体は、地響きを鳴らして崩れ落ちる。
「……ここも大分戦いにくくなって来たな……」
魔物を斬って倒すのは良いんだけど、その場からあまり動いていないから俺の周りは今や魔物だった物が高く積まれていて視界が悪い。
たまに動いてる魔物を斬る時に、それに当たって鈍る時もあるから、場所を変えた方が良いだろうか……。
まぁ、今使ってる剣の切れ味が良すぎて、積まれてる物も簡単に斬り裂いて魔物に到達するんだけどね。
「ちょっとだけ奥に場所を変えよう。……結界!」
結界の魔法を俺の周囲から、道幅を塞ぐように張る。
それを動かすように集中して、少しずつ前に歩を進めた。
魔物達は、急に現れた見えない壁に突撃するも、結界が破られる事はない。
……これで止めておけば、簡単に時間が稼げたんじゃないだろうかと今気づいた。
魔物の数を減らす事も重要だよね、うん。
「魔物達の死体は並べて置いておいてもらえますか?」
「何かに利用するのですか?」
「んー、防壁みたいなものです……念のため、ですね」
「……わかりました」
後ろにいる兵士さんに声をかけて、魔物達だった物を、詰めるようにして積み上げてもらう。
威力調節に失敗した時の防壁に出来ればと考えた。
念のためだし、あまり意味はないかもしれないけど……。
「リク様、言われたようにこちら側には指示を伝えました! 盾の用意も出来ております!」
「わかりました。それじゃあ、向こう側の準備が終わるまでもうちょっと時間を稼いでおきます」
ハーロルトさんの伝令と思われる兵士が、後ろに駆けつけて来て教えてくれた。
魔物は結界で止めてるから、後は待つだけだ。
「……そう言えば、向こうの準備が整った事ってどうやって知るんだろう?」
向こうに伝令が行って、準備を終えた事を報せる伝令がこちらに来て……というのが普通だと思うけど、それだと時間がかかってしまう。
魔物達の数も減って来たし、結界がある限りこちらには来れないだろうけど、出来れば早く魔物を殲滅したいんだよなぁ。
皆も疲れて来てるだろうし、休ませてあげたい。
「リク、魔物達がこちらに来なくなったのは、集落でも使った……結界とかいう魔法か?」
「そうだよ。見えない壁のようなもので隔絶して、こちらに来れないようにしてるんだ」
「集落の時もそうだったけど、こんな魔法を簡単に使うだなんて……」
魔物達が結界を壊そうとして、色々な攻撃をしてるのを眺めながら時間を稼いでいると、積まれた魔物を越えてアルネとフィリーナが来た。
魔法の事だから、エルフには興味深いんだろうと思う。
フィリーナの言葉には、若干呆れが混じってる気がしないでもないけどね。
「ん?」
結界の事をアルネ達に説明していると、町の方で大きな音がした。
何かまた新しい魔物でも出たのかな?
ドンッ! ドンッ! ヒュー……パーン!
「……花火?」
何度か爆発音のような音が聞こえた後、空に向かって魔法と思われる火が上がり、それが空で弾けた。
火薬が飛び散ったりはしないので、花火とは違う見た目だけど、うち上がりから炸裂までの流れは花火を彷彿とさせるものがあった。
「リク様! 町側の準備が整ったようです!」
「……合図だったのか……」
どうやらこれは、声を直接伝える以外で向こうに指示が伝わった事を、こちらに教えるための合図だったようだ。
よく見れば、魔物達が少しづつ街に向かって移動している。
向こうで道を開いたから、密集状態から逃れようとした魔物が向かってるからだろう。
「急がないとな……」
時間が経つと、待っている町側に被害が出るかもしれない。
盾を用意して構えてもらってるとは言え、魔物が大量に襲い掛かったら危ないからね。
「何をするの?」
「これから魔法で魔物達を一掃するんだ。直線に魔物がいる今がチャンスだからね。アルネもフィリーナも、後ろに下がってて」
「……わかったわ」
「こちらには向かないようだが……巻き込んでくれるなよ?」
「ちゃんと調整するよ。兵士さん達も、盾を構えて後ろに!」
「「「「はっ!」」」」
アルネ達が下がったのを見てから、結界を解く。
結界から俺の所に押し込もうとする魔物を、数体斬りながらイメージを始める。
兵士達は積まれた魔物の向こう側で、並んでがっちりと盾を構えてくれているのが見えた。
これで、多少の事があっても被害は出ないだろう。
伝達した事を報せる合図は花火のようでした。
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