男が少ない状況はそれはそれで寂しい
ルギネさんとグリンデさんの事情はともかく、三人寄れば姦しいと言うけど、三人どころではなく十人以上の女性が一緒にいれば、それは女子高生の修学旅行よりも盛り上がる事があるらしい。
いや、女子高生の修学旅行がどれだけ盛り上がるのか知らないけど……俺が知っているのは、自分が行った時にそれなりに騒いでいた同級生たちくらいだし。
女子に混じる事もなかったから。
ともあれそんな感じで、大所帯になったなぁと思いながら話し合いをした後の騒がしい女性陣を見ていて、単純に寂しくなったとかそんな感じに近いってわけだ。
同じ男のカイツさんなんて、俺達が帰って来る前に先にお風呂に入っていたらしく、さっさとワイバーン達の所に行っちゃったし……。
「つまりリクは、モニカ達と一緒に入りたかったって事でいいのだわ?」
「い、いやさすがにそれは違うし、考えてないよ!」
さっきまでの事を考えつつブツブツと呟いていると、エルサからとんでもない疑問が飛び出したのを、慌てて否定する。
俺が皆と一緒にお風呂に入れない、入っちゃいけないのは俺が男である以上当然だし、そんな事までは考えていない。
女性が十人以上いる中に男が一人紛れ込むって、それこそなんてハーレムだ。
別に俺はそんな事がしたいんじゃなくて……。
「ただその、あるだろ? こう、大勢と一緒にいて話していたのに、急に一人になると静かさが耳に痛いというかさ」
大勢であればある程……限度はあるだろうけど……一緒に話して、騒いでいたのが急に静かになるあの感じ。
実際には違っても、置いて行かれた感のようなのも少し感じて寂しくなっちゃうのが人ってものだろうと思う。
「よくわからないのだわぁ。人が少なければのんびりできるのだわ。ゆっくり寝られるし、うるさくもないのだわー」
「そりゃ、ゆっくりしたい時とかはそれでいいのかもしれないけど……」
エルサは俺とは感性が違うから、そう思うのも仕方ないんだろうけど。
というかエルサ、人が多いとか少ないとか関係なく、かなりマイペースで寝たい時は俺の頭にくっついて寝ているじゃないか。
まぁ、周囲で騒がれてるとうるさいとまでは言わなくとも、眠りが浅くなったりはするのかもしれないけど。
「なんにしても、今日だけなのだわ。大きくて脆い王城だったのだわ? そこに戻れば、嫌でも人に囲まれるのだわ」
「それはそうなんだけどね……」
大きくて脆いって……エルサからしたらそうかもしれないけど、人間からしたら堅固なお城なんだけどなぁ。
ともかく、王城は俺に割り当てられた部屋にお風呂があるだけでなく、大浴場もある。
大浴場はここの宿のお風呂よりも大きいし、兵士さん達など城の人達にも開放されているから、俺一人になる事なんてほとんどない。
意外と、執事さんとか王城勤めの文官さんとかもいて、面白い話が聞けたりするんだけど。
「まぁ、エルサの言う通りだね……王城に戻れば、エフライムもいるから」
俺とほぼ同年代の友人、子爵家の次期当主らしいエフライムと裸の付き合いというか、一緒に雑談しながら大浴場にというのも悪くないね。
散々色々考えて、愚痴っぽい事も呟いた気がするけど、結局は明日王城に戻るまでの我慢だね。
別に特別男達ととまで思っているわけじゃないけど、女性陣に囲まれているからどうしても気疲れしてしてしまう部分もあって……。
変な方向に目覚めそうとか、そんな事は一切ない。
って、そういえば女性ばかりって、エルサも……。
「そう言えばエルサも女の子? って言っていいのかわからないけど、そうだったっけ」
「今更なのだわ!? 立派な女なのだわ!! 失礼な男なのだわー!!」
「ぶわッ!? ちょ、ちょっとエルサ暴れるのはやめ……!」
思わず口から出た俺の呟きを聞いたエルサが、怒って暴れ出し、お湯をバシャバシャとかけ始める。
俺には溺れているんじゃないかと思えるくらい、ジタバタしているだけのように見えるけど、実際の水飛沫……お湯飛沫? は相当なもの。
エルサを止めるため、そちらに手を伸ばすけど……。
「っ!? 弾かれた!?」
エルサが飛ばすお湯飛沫によって、伸ばした俺の手が弾かれる。
力を入れていたわけじゃないけど、大袈裟でもなんでもなく、飛んできたお湯が俺の手を横に弾くなんて……。
これ、一般の人が当たったらかなり危険なんじゃ?
「今日という今日は、リクに女の子の扱い方を教えないと気が済まないのだわー!!」
「いや、ごめん、俺が悪かったから……!」
男の俺とお風呂に入っただけでなく、体を洗われるのが好きなくせに、女の子の扱いをエルサが知っているとはあまり思えないんだけど……。
それはともかく、先程のは確かに俺の失言だったので、謝りながら体にあたるお湯飛沫から与えられる痛みに耐えつつ、暴れるエルサを止めるために動いた。
色々とぼやいたのは俺だけど、まさかお風呂の中でエルサと喧嘩まではいかないだろうけど、戦闘みたいになるとは思わなかった……。
汚れだけでなく疲れも洗い流すはずが、余計に疲れてしまったなぁ。
おかげで、今夜はぐっすり寝られそうだけど――。
――翌日、大勢で朝食を取った後、各自が準備を終えてそれぞれ宿を出発。
ヴェンツェルさんの部下も合流するので宿から出発というわけにもいかず、ワイバーン達も含めて西門の外へと集合してもらう。
ワイバーン達とあまり交流のなかったルギネさん達は先に出発していて、カーリンさんも興味を持ったようなので同じくだ……俺達より先に行って、触れ合っておいて欲しい。
あと、アマリーラさんやリネルトさんは軍との関係が深いので、同じく先に行ってヴェンツェルさんの部下をまとめておくようだ。
まぁ、アマリーラさんは俺といたがったけど、リネルトさんが引きずって行ったんだけどね。
今宿に残っているのは、俺とモニカさん、それからユノとロジーナ、あとソフィーとフィネさんだ。
カイツさんはワイバーンに夢中なので、フィリーナが監督役として一緒に出ている。
「――リク様、それに皆様方。滞在中にお世話ができた事、ありがとうございました」
「いえ、俺達の方もお世話になりました。色々と、面倒な事も頼んでしまいましたし……」
宿の人達、それから侯爵家の執事さんなどなどが勢揃いして、俺達の見送りに来てくれている。
向こうが全員で頭を下げて感謝をしてくれるけど、そうしたいのはこちらの方だ。
モニカさん達と一緒に頭を下げて深く感謝。
こちらの都合で食事をしたりしなかったり、バラバラに帰ってきたりなどなど、色々お世話になったからなぁ。
最終的には人数もかなり増えて、食事を用意するだけでも大変だったと思うし、部屋の用意も大変だったと思うし。
ユノなんて、ロジーナを強引に誘って宿の人や使用人さんと、宿内でかくれんぼとか遊んでいたくらいだ。
……相手をしてくれて感謝しかないよね。
時折、鬼ごっこをして走り回っていたのは困ったけど……さすがに屋内で走り回るのは、危ないからね――。
宿の人達には大変お世話になりました。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






