鈍い振りをするリク
「そんな事では、モニカの事を任せられないぞ? これからでけでなく、将来も……」
「ちょっと父さん、リクさんに何言っているのよ!!」
「そうよあなた、少し気が早すぎるわ。そんなに焦らなくても、孫の顔は見せてくれると思うわよ?」
「母さんまで変な事言わないで! そんな孫の顔なんて……それはつまり私とリクさんが……って、気が早すぎるどころじゃないわ!!」
とか、顔を真っ赤にしたモニカさんがマックスさんやマリーさんに叫ぶ。
なんというか、俺はこういう時どんな表情をしていたらいいんだろうか?
「むぅ、やはりモニカはもう少し手元に置いておきたいのだが……」
「父さん!?」
「まったく、それじゃヴェンツェルと同じよ? カーリンに対するあれを見て、反省したんでしょ?」
「それはそうなのだが……むむぅ……」
何やら、カーリンさんに対して過保護なヴェンツェルさんを見て、モニカさんとの接し方をマックスさんは考えた、って事かな。
マックスさんはこれまで過保護と言う程ではないにしろ、モニカさんを可愛がっているというか、正しく娘を持つ男親っぽさが前面に出ていたというか……。
なんにせよ、モニカさんがワーキャー言っているのを見つつ、とりあえず「はははは……」と苦笑しておくだけにしておいた。
何を言っても、今じゃない気がするし何を言えばいいかわからないし……むしろ、場がもっと荒れて収集が付かなくなってしまいそうだからね。
……モニカさんとの事に関しては、今ここで俺が何かを言うべきじゃないというのもある。
まだモニカさんにも、俺は何も言えていないんだから。
「まったく、リクはなぁ……」
「まぁそれも、リク様らしいという事でしょう」
「必死なモニカが、同じ女として少し同情の気持ちも沸いて来るわね……」
「ふむ、モニカ殿はそういう事なのか」
「アマリーラさん、アマリーラさんも鈍い方ですが……ようやくわかったんですねぇ?」
等々、一部の人達から苦笑するだけの俺に対して溜め息混じりに、何かを言っていた。
まぁ皆が何を言いたいのかはわかっているし、これまでの俺の鈍さを考えるとこの反応も仕方ないかなぁ。
「……だわ」
「エルサ?」
「なんでもないのだわ……という事にしておいてやるのだわ」
「ははは、そうだね」
ただエルサだけは、たらふく夕食を食べて重くなった体を俺の頭の上に乗せて、納得した様子だった。
多分俺から感情とか思考とか、そんな感じの何かが流れてエルサには理解されたんだろうね。
そんなこんな、ちょっとした騒ぎのようなに何かがありつつ、マックスさんやマリーさん、それにルディさんとカテリーネさん、獅子亭の人達との挨拶を済ませて、センテへと戻った――。
「はぁ……ここに来た時はモニカさん達くらいだったけど、随分大所帯になったなぁ」
「だわぁ……だわぁ……」
センテの宿に戻り、無事到着していたルギネさん達やカーリンさんと話して、明日の出発に付いて皆と話した後、宿の大浴場で広い湯船につかりながら呟く。
エルサは、仰向けでお湯にぷかぷかと浮かびながら、入浴の気持ち良さを堪能しているようだね。
……でも、毛が水を吸って結構ずっしりしているはずなのに、浮くんだ……何かエルサ自身がやっているのかもしれないけど。
「モニカさんにソフィーとユノ、フィリーナとフィネさん。そこに迷子のカイツさんが加わって……」
俺の数倍……数十倍? は生きているカイツさんに対して迷子と考えるのは失礼かもしれないけど、事実とんでもない方向音痴を発揮して、王都とは逆方向のセンテにいるわけだからね。
「さらに、レッタさんとロジーナが加わって、アマリーラさんとリネルトさんも名目上は護衛として加わったと。そこに今日からルギネさん達リリーフラワーのメンバ―四人と、カーリンさん。俺も合わせて十六人かぁ……」
「私もいるのだわぁ……だわぁ……」
「あぁ、そうだね。でも、人数として数えていいのかどうか……まぁエルサがいいんならいいんだけど」
エルサを何人というくくりで加えていいのかわからなかったけど、エルサ自身から湯船に浮かんで漂いつつ指摘されたので加える事にしよう。
それで……十七人、か。
明日の話をしている時、食堂に皆で集まった際に改めて大所帯になったなぁと実感した。
食事をしたわけじゃないけど……エルサは飛んで戻って来たご褒美も含めて、おやつのキューを食べていたのはともかく、それでもこれまで以上の人の集まりに少しだけ驚いたもんだ。
嫌というわけじゃないし、行き過ぎなければ騒がしいのも悪くないしどちらかといえば好きな方だけど。
でも……でも……。
「どうして、これだけの人数がいて男が俺一人なんだろうか……! いや、カイツさんも男性ではあるけどさぁ!」
「知らないのだわぁ……リクが集めた結果なのだわぁ?」
「狙って集めたんじゃないんだよ……!」
思わず、湯船につかりながら力が入って大きめの声が出てしまう俺。
エルサが気の抜けた声で突っ込んできたけど、俺が狙って集めたわけじゃない。
成り行きでそうなっただけだし、ルギネさん達とカーリンさんに至っては王都に行くまでの同行者扱いではあるけど。
「ただなぁ、あんなに皆で楽しそうにされると……せめて、ここにカイツさんがいれば……いや、カイツさんは研究の話とかされそうだから、楽しく雑談できるかわからないけど」
研究の話に興味がないとかじゃないんだけど、俺に理解できるかわからない事も多いからね。
お風呂でリラックスしながら話す話題としては、適切じゃないだろうと思う。
早い話が、俺は静かにゆっくり入るんじゃなくて、わいわいしながら入りたいだけなのだ!
「エルサはそんな感じじゃないしなぁ」
「……何か、失礼な波動を感じたのだわ」
呟きつつ、お湯に浮かんでいるエルサをちらりと見ると、向こうからは目を細めながらの言葉が返って来た。
失礼な事を考えていたわけじゃないと思うけど、エルサはのんびり屋なところがあるというかお風呂の時はそれが強く出るから、わいわいするというのとはちょっと違う。
あと、俺は波動なんて出さないし出ないし、失礼な波動って一体なんだろう? まぁエルサが適当に言っているだけだから、気にしない方がいいんだろうけど。
「はぁ……あんなに皆楽しそうだったのに、こっちは静かだなぁ」
湯船につかった時と同じような溜め息、体の中から絞り出されるのとは違って、今回は悩みに近い溜め息だけど。
そうしながら、俺がお風呂に入る少し前の事を思い出す。
話し合い、というか予定の確認が終わってからの事……女性陣は全員で一緒に仲良くお風呂に入ったわけだ。
さすがに、高級宿なだけあってお風呂から声が届くなんて事はなかったけど、お風呂上がりの女性陣は皆中良さそうでわいわいと楽しそうにしていたっけ。
お風呂上がりで、妙な色気を発しているとかそういうのが全く気にならないくらいに。
ユノとロジーナとか、走り回っていたからね。
一部、グリンデさんが顔を上気させてルギネさんにべったりだったけど……まぁそれはともかくだ。
咲いたか咲きかけか、とにかく本人達が納得しているなら百合の花はそっとしておくに限る――。
男が邪魔をしてはいけないような雰囲気にリクは触れないようにしたみたいです。
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