お揃いのがま口財布
「あのねあのね、それでお婆ちゃんがね……」
「うんうん、そうなんですねぇ」
「……あのユノ殿、いやユノ様が……リネルトはよくこれまでと同じように話せるな」
「ユノが懐いたみたいですからね。少し尻尾の動きは気になりますけど、なんとかこれまでと大きく変わらない様子で話せているみたいですね」
ヴェンツェルさんとの打ち合わせが終わってから、続々と獅子亭に集まる皆。
とはいっても、ソフィーやアマリーラさん達はヴェンツェルさんと話す間、黙って聞いていてくれたから最初からいたんだけど。
今は獅子亭の営業も終わり、マックスさん達も交えて全員で夕食をいただいているところだ。
そんな中、ユノやロジーナ、それにレッタさん……主にユノだけど、無事に小物売りのお婆さんに会えたらしく、今はリネルトさんがその時の話をユノから聞いている。
横でブスっとしている様子のロジーナは、ユノとお揃いのがま口財布を首から下げているから、お婆さんから買ったんだろう。
アマリーラさんはユノの話をにこやかに聞いているリネルトに、少し戦慄しているようだけど……まぁ、レッタさんと話した時に同席していたのもあるんだろう。
あれ以来、ユノがリネルトさんに懐いたみたいだね。
色々と大きく、母性みたいなのやらおっとりした雰囲気を持っているから、見た目のままの子供っぽいふり……いや、素なのかもしれないけど、そんなユノは特に懐きやすいのかも。
フィネさんとフィリーナ、それとレッタさんはユノとロジーナに振り回されたようで、少しお疲れ気味に椅子に座って夕食を取っている。
ロジーナから離れないレッタさんはともかく、フィネさんとフィリーナにユノ達の事を任せてしまって申し訳ない
結局二人共、ユノ達につきっきりだったみたいだし……まぁ、ヘルサルをある程度見て回るくらいはできたみたいだけども。
その他、モニカさんやソフィー、マックスさんやマリーさん、獅子亭で働く人達などが思い思いに話していた。
ちなみにヴェンツェルさんは、俺と同行する部下を選ぶため駐屯地へと戻った。
まだ夕食を食べていないのに……と思ったけど、マックスさん曰くどうせ遅くになって腹が減ったと言って来るだろうと苦笑しながら、ヴェンツェルさん用の食事の下ごしらえなどは済ませてあるみたいだ。
さすが、親友でお互いの事をよく知っている仲ってところかな。
あと、ヴェンツェルさんがいたらまたアマリーラさんと大食い勝負をするかもしれないし、ある意味良かったのかもしれない。
「……なんで私がユノと同じものなんか」
「とても似合っておいでですよ、ロジーナ様」
「むぅ……でも、姉ぶっているユノが腹立たしいわ……」
なんて、頬を膨らませてロジーナが不満をブツブツと漏らすのを、レッタさんがなだめていた。
ロジーナがお婆さんの所で買ったがま口財布はどうやら、ユノがお金を払ったらしく、お揃いという事も含めてロジーナは不満なようだ。
楽しそうに話すユノの話を聞くと、お婆さんにはロジーナがユノの妹と言われたらしく、それも不満なのかもしれないが。
でも、本気で嫌な雰囲気を出していたり、不機嫌と言う程には見えないので、結構喜んでいるような気がいいないでもない。
姉という部分ではなく、がま口財布の方だけど。
「と、そういえばレッタさん。すっごい今更ですけど、レッタさん達はお金を持っているんですか?」
ふと気になって、頬を膨らませるロジーナを不審者と言えなくもない笑顔で見ているレッタさんに聞いてみる。
レッタさん、疲れてそうだったしロジーナをなだめているはずなのに、むしろ嬉しそうだなぁ。
それだけロジーナの色んな表情を見るのが楽しいんだ、と思っておこう。
レッタさんの表情を男がやっていたら、完全に幼女を狙う不審者で事案になりかねないから、できるだけ自制して欲しいけども。
「私はある程度は。こちらの国に潜り込むのに、何も持たずに入るわけがないもの」
「それは確かにそうですね」
無一文で潜入なんてあり得ないから、持っているのも当然か。
生活費というか活動費というか、そいうのも必要だからね。
「ロジーナ様にもある程度渡してあるのだけど……足りなかったのよね。ユノちゃんの手前、私から受け取るのは……」
「見栄を張ろうと嫌がったわけですか。それで、どうしようかと悩んでいたあいだに、ユノがってわけですね」
「そうよ。ユノちゃんとお揃い、なんて言っているけど……街を歩くユノちゃんのあの財布に幾度か視線が行っていたのは、ロジーナ様を見つめる役目の私にはわかっていたのだけどね」
とりあえず、ロジーナを見つめる役目なんてそんなものはない、という突っ込みは飲み込んでおくとして。
保護者のようなレッタさんからお金をとなると、小遣いをもらうようにも見えるから、ロジーナはそんな所をユノに見せたくなかったんだろう……ツンデレというかなんというか、特にユノの前では見栄を張りたいようだし。
でも表に出さないようにしていても財布は欲しい、どうしようと考えている間に、ユノが払ったってわけだな。
ちなみに、がま口財布その物は、ユノとロジーナが姉妹と思ったお婆さんが気を利かせて、お揃いでどうか? と勧められたらしい。
ロジーナにとっては、自分から欲しいとは言いだせなかっただろからある意味渡りに船だけど、ユノには借りを作る事にもなるし、お揃いだしで、素直に喜べないってだけみたいだ。
なんにせよ、後でこっそりロジーナにもお小遣いを渡しておこう。
ユノとか他の人に見られないように気を付けながら。
ロジーナだって、経緯はどうあれセンテでの戦いで一緒に戦ってくれたわけだし、多くの魔物をたおしてくれたからね。
レッタさんは……なんか年上の女性に俺からお小遣いを渡すのは、色々と問題になりそうなので何か考えておかないと。
いつまでも資金がなくならないわけはないからね。
「それじゃあな、リク。毎度の事だが、リクに必要か疑問だが気をつけてな」
「はい、ありがとうございます。マックスさん」
夕食を終え、獅子亭を離れる前にマックスさん達と別れの挨拶。
しばらくは会えなくなるからね。
というか、昨日はこの挨拶のために来たんだけど、結局今日になった。
「モニカの事を頼む。今回の事で成長を見られたが、まだまだな娘だ」
「もちろんです。とは言っても、俺の方がモニカさんに色々と頼ってしまういそうですけど……ははは」
力強いマックスさんと握手をし、手の硬さを感じつつ託されたのを感じる。
まぁ、今日の手続きの事やクランの事など、俺よりもモニカさんの方が頼りになるし、俺が頼ってしまう事の方が多そうで苦笑いが出てしまうけど――。
これからもモニカさんに頼る事が多そうなリクです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






