熱烈参加希望者が多かったらしい
クランの準備をマティルデさんの方で既に進めてもらっているのなら、開始が速まって助かる。
設立自体はもう決めているからね。
まぁ、俺が王都を離れてもう少しで二か月くらいになるわけで、長く離れていたからマティルデさんも焦っているとかかな?
そんなに待たされるとは、マティルデさんも考えていなかったと思うし……それか、急ぐ理由が何かあるとか。
俺に早く戻って来てくれと言うくらいだからなぁ。
「王都や中央冒険者ギルドがどうなっているのかは、私にもわかりかねますが……連絡の書簡には、かなり強い焦りを感じました」
「……そうですか、わかりました。教えてくれてありがとうございます」
「いえ。あ、そうでした。あちらにはリク様のクランに推薦する者に、こちらから冒険者達の帝国との関わりなど、調べる事など、ヘルサルとセンテで起こった事なども含めて報告してあります」
「そちらもありがとうございます。それなら、少しは向こうでクランに所属してくれる冒険者さん探しも、早く進みそうです」
冒険者ギルドには、冒険者の活動歴などが記録されているはずだから、ある程度の人となりも含めて推薦者の選別は進められるだろうけど、帝国との関係や過去に関しては調べようとしないとわからないからね。
しかも、そういう事に関してが一番時間がかかってしまうだろう……帝国と通じていなくても、話したがらない人だっているだろうし。
冒険者は過去の詮索をできるだけしない、という暗黙の了解があったりするし。
絶対の規則とかではないけど、過去を隠せるから冒険者をやっている人っているのも、結構いるみたいだ。
「では、そろそろギルドマスターの所に……おや?」
「……失礼しますよ、エレノールさん。リクさん、モニカさん」
話を終えて、エレノールさんが俺達を促そうとしたところで、そのヤンさんがノックをして部屋に入って来た。
こちらに来たという事は、説明会や意思確認が終わったって事だろう。
「ヤンさん、お疲れ様です……?」
ただ、いつもはあまり表情に感情を出さないヤンさんが、何やら疲れているように見えるのはなんでだろう?
「はぁ……いえ、すみません。えぇと、早速で申し訳ありませんが、リクさん。冒険者達への説明、意思確認が終了しました」
何故か溜め息を吐いた後、顔を引き締めるヤンさん。
本当に何かあったみたいだ。
「はい。どれくらい残りましたか? 三分の一くらいはいてもらえると、こちらも助かるんですけど……」
戦争という事だから、嫌がる冒険者さんがいるのは当然で仕方ないと思っている。
ただ、信頼できる人が多いここでできるだけ冒険者が参加してくれると、助かるなぁとも考えていたりする。
ただヤンさんの溜め息や疲れている様子を見るに、もしかしてほとんどが拒否したとか、悪い予想が……。
「三分の一どころか、ほとんどです」
「え、ほとんど……? それはどれくらい……」
「十分の九、それ以上ですね。それだけ冒険者にリクさんが慕われていると考えればいいのか、帝国への怒りを感じている者が多いと思うべきなのか……少々迷いますが」
「えーっと……確かにそれは、ほどんどですね」
えぇ? 十分の九以上って……確かリストにあった冒険者さん達が五十人くらいだったから、四十人以上……いや、四十五人以上ってところか。
「戦争と聞いて所属を拒否したのは、たったの一パーティでした。計四十八名が、戦争への参加も含めてクランへの参加を希望しています。それも熱烈に……」
「熱烈って……でも四十八人ですか」
初期のクラン所属の冒険者さんは、ほとんどがセンテとヘルサルからの冒険者になりそうだなぁ。
そのまま連れていけば、だけど。
「さすがにそれら全員を連れていったら……昨日も言っていましたけど」
「はい、このヘルサル、センテの冒険者層が薄くなってしまいます。そもそも、最低条件がCランク以上ですので、少し難しい依頼をこなせる者がほとんどいなくなるでしょう」
「うーん……」
クランに協力してくれる人が多いのは嬉しい事だけど、それでヘルサルやセンテが困ってしまうのは本意じゃない。
森の魔物がいなくなったからしばらくは、魔物討伐の依頼は少なくなる見込みだけど……どこかから集まって来る、または自然発生もするらしいから、いずれまた増えるわけで。
「半分とは言わずとも、三十人程度でしたらこちらもなんとかできる。もしくはできるよう考えてはいたのですが……四十八人もとなると、今ある依頼すらどうなるかといったところです」
「それは、確かに困りましたね……」
「承諾してくれた人達の中から、さらに選別するしかないかしら?」
顔を突き合わせて考え混む俺とヤンさんに、モニカさんからの提案。
エレノールさんも同じく困った表情だけど、黙って話を聞くに徹しているようだ……もしかすると、数字には強いけど、こういう事はあまり積極的にどうにかするような人じゃないのかもね。
「先程言いました通り、熱烈に参加を希望しています。それを今さらふるいにかけるというのは……できなくはありませんが」
ヤンさんの言う熱烈というのがどのくらいか、視ていない俺にはわからない。
けど、森の中で見た冒険者さんやトレジウスさん達の事を思い出すと、最終的な意思確認までしておいてこちらから断る、というのはあまり良くない気がする。
あと、自分から断った一パーティというのはともかく、帝国との戦争などの話をしている人達を、ふるいにかけると後々に影響するかも。
一応、ヤンさん達によると強く口止めはしているみたいだけど。
「……だったら、数回に分けるのはどうかしら?」
「数回?」
「えぇ。一度にいなくなるのが問題なら、数回に分ける事でしばらくでもここに残る冒険者が増えるわ。そのうちに、他から冒険者を募るとかすれば、一度に全員王都へ向かうよりはマシだと思うの」
「それは確かに……」
「どうせ今からすぐ王都に向かったって、こっちも準備が全てできていないわ。王都で待つ間に冒険者として活動してもらうなら、ここに残って活動するのとそう変わらないじゃない?」
提案が否定されて、再び少し考え混んだモニカさんがさらに一つの提案をしてくれた。
つまり、分けて冒険者を移動させる事で、ヘルサルとセンテに猶予を持たせるというわけだ。
確かに王都に行っても、多少の手伝いをしてもらう事くらいはあるかもしれないけど、しばらくは他の冒険者さん達と同じく活動して待ってもらう必要があるからね。
モニカさんの言う通りだ。
そうすれば、一度に冒険者が移動してヘルサルやセンテの周辺が手薄になる事が防げるし、その間に対処もできる。
まぁ、原因が俺の作るクランというのは、対処しないといけなくなっている事に対してヤンさん達に申し訳ないと思うけど……。
ともかくそれなら、しばらくは依頼をやってもらう事もできるわけで、冒険者さん達も慣れない王都でクランができるのを待つよりは、慣れているヘルサルやセンテで過ごせるからね。
一部、というか第一陣として先に王都に行く冒険者はいるし、残った人達でというだけではあって、とりあえず凌ぐだけの案とも言えるけど、今は良案のように思えた――。
全員を一度に移動させる必要がない案がモニカさんから出て来たようです。
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