王都でのワイバーン
その場に片膝を付き、ヴェンツェルさんを筆頭に天幕内にいた兵士さん全員が、俺や他の皆に対して最敬礼をした。
突然こんな事をされるとは思わず、ちょっとだけ戸惑う俺。
戸惑いついでにキョロキョロとしてしまったけど、アマリーラさんはしたり顔で頷き、リネルトさんは微笑んでいるだけだった。
モニカさんは、俺だけでなく自分にも最敬礼が向けられている事に、俺と同じように戸惑っている様子だね。
俺だけがそうされている事には慣れていても、自分に向けられるとは思っていなかったんだろう。
エルサだけは、俺の頭にくっついたまま「ふんっ、だわ」と小さく言って鼻を鳴らしていたけど……でも、そこからは少し照れを感じた。
照れるのはわかるけど、俺の頭をガジガジと前足でひっかかないで欲しい、ちょっと痛い。
「……えーっと、はい。俺だけでなく、皆の協力あってこそではありますが……敬意と謝意を確かに受け取りました」
ともあれ、戸惑ってばかりもいられないし……ここで謙遜をするのは何か違うと思ったので、素直に受け止める事にして頷いておいた。
これでいいかな?
そこまでしなくてもとか、そんな必要はない、とは思うけど、それでもこうしてヴェンツェルさんを含む兵士さん達皆が、こうして礼を尽くしてくれるんだから、受けておかないと失礼だと思ったからだ。
多少は畏まられるのにも慣れてきたのもあるのかもしれない……なんとなく気恥ずかしいし、できるなら今すぐに逃げ出したくもあるけどね。
「リ、リクさんはいつもこんな感じだったのね。いえ、間近で見ていたから知ってはいるのだけど……自分に向けられるとは思っていなかったし」
「ははは、そうだよ? 俺が今まで、慌てたり戸惑っていたのもわかるでしょ?」
「ま、まぁ……今度からは、リクさんの事を茶化せないわね……ソフィーやフィネさんも連れてきた方が良かったかしら」
なんて、ボソッと他に仲間を巻き込もうとしているモニカさんのつぶやきを聞きつつ、ヴェンツェルさん達からのお礼を終わらせる。
顔を上げたヴェンツェルさんは、少しだけ面白そうに口角が上がっていたから、狙ってこの儀式みたいな最敬礼をやったのかもしれないな。
まぁ、敬意とか謝意は本心なんだろうけど……一部の兵士さんは、妙に満足そうな表情になっていたのは、不思議だったけど。
「話は変わるが、モニカ殿もリク殿と一緒に王都へ向かうのだろう?」
「あ、はい。そうなりますね」
「マックスとマリーが寂しがりそう……いや、マリーはそうでもないのか?」
「あはは、母さんからは厳しく言われるくらいでしょうね。父さんは将軍の言う通りでしょうけど、でも冒険者として離れる事はわかっていた事ですし、今回の事が起こるまでに、既に離れていましたから」
「それもそうだな」
話はモニカさんの両親の事へ。
マックスさんとマリーさんは、ヴェンツェルさんにとっても旧友だから気になったんだろう。
とはいえ、しばらくこちらにいて近くにいたけど、その前はヘルサルと王都で既に離れていたから。
マックスさんの事を考えると、ヴェンツェルさんが言うように確かに寂しがりそうではあるけどね。
その後、いくつかマックスさん達の事を話し、それが途切れる頃合いを見計らって隣にいた兵士さんがヴェンツェルさんに何やら耳打ち。
なんだろう?
「ふむ……おぉ、そうだったな。――リク殿、少し前に王都からの連絡がきたのだが」
「王都から?」
「あぁ。ワイバーンの輸送を見た後ではそれでも遅く感じてしまうが、早馬を駆けさせてな」
王都への連絡は、マルクスさんもクラウスさんを通して行っていたけど、ヴェンツェルさんもやっていたんだろう。
まぁ、その辺りの細かい事は俺が全て知っておく必要はないし、それぞれで連絡を取り合っていたのならいい事だろう。
早馬がどれだけの速度で走るのかはわからないけど、ヘルサルと王都の距離を考えたら、ヴェンツェルさんがこちらに到着してからなら何度かやり取りは合ったんだろうと思う。
「陛下が首を長くして、リク殿達の帰りを待っているようだぞ。もちろん、リク殿が無事だというのも信じていたが、喜んでもおられるそうだ」
「心配をかけちゃいましたからね……」
ロジーナに隔離されていた間、俺が行方不明になっていたのは向こうにも伝わっているし、だからこそマルクスさんやヴェンツェルさんがここにいるんだけど。
ともあれ、姉さんには心配をかけちゃったから、早く顔を見せて安心させてあげたいと思う。
元の世界とこの世界、二つの世界を含めて立った一人の肉親だし……姉さんは生まれ変わって、血が繋がっているとは言い難いんだけども。
まぁ、精神的姉弟みたいな?
「それで、ワイバーンの方の受け入れも準備が整っているようだ。正確には、私の所へ連絡を差し向けた時には準備の途中なのだろうが、問題がなければ今頃整っているだろう」
「ありがとうございます。それなら、ワイバーン達を連れて行っても大丈夫そうですね」
「うむ。城下町、王城の者達全てにお触れを出し、以前襲ってきたワイバーンの事はあれど、リク殿が連れ帰って来るワイバーンは歓待するとの事だ。そのための場所も作っているとな」
「なら安心です」
俺達が王都へ戻る時、ワイバーン達も全て連れていく事になってはいるけど……以前王城を襲った魔物の中にはワイバーンも大量にいた。
そのほとんどを俺とエルサがぶっ飛ばしたわけだけど、あの時の事を思い出して、王都にいる人達に忌避感が出るんじゃないかというのは心配事ではあった。
それを、姉さんはン案融かしてくれたみたいだ……全てにというのが少し気になったけど。
……やりすぎていないといいなぁ。
でも、ちゃんとワイバーン達が過ごせる場所を作ってくれるとまで考えられているのは、ありがたい限りだ。
エルサもそうだったけど、馬とワイバーンは相性が悪いらしく、厩舎にワイバーンが近付くと馬が落ち着かないから。
まぁ本来は人や馬を襲うワイバーンにとって、馬は捕食対象でもあるからね……馬にとっては恐ろしいと感じてもおかしくないんだろう。
軍用馬は少しマシらしいけど、今後のワイバーン運用に関してはその辺りを加味して考えないといけないかもね。
「気軽にワイバーンに人が乗れるのなら、私もそれに乗って行きたいのだがな……さすがに兵士たちを置いていくわけにもいかん」
「ははは、そうですね。もっと数が多ければ、全ての王軍兵士さん達を乗せて運ぶ、というのも考えられますけど……」
「さすがに数がな。しかし、物資を運べるだけでもかなり有用だぞ? それに、物資の中には人も含まれるわけだ」
何故かその後、ワイバーンの有効な運用法をヴェンツェルさんと語り合う。
これから帝国との戦争を控えている、と考えると必要な事かもしれないけど。
ともかく、要はワイバーンを使っての後方支援……戦闘に参加、という案も出たけど数が少ないため、俺と同じく後方で人や物を運ぶ役割の方が良さそうという見方が強かった。
物資を運ぶ、人も運ぶ。
それだけで人対人の戦争では、かなり有益な動きができるだろう。
それこそ、不利な場所に別の所から人を投入なんて事もできるわけで……逆に、人を離脱させる事もできる。
帝国が魔物を使って来るのはもう当然と考えられるので、それならこちらもこれまでとは違う戦い方をして対抗というわけだ――。
ワイバーン運用はヴェンツェルさん達も興味があるようです。
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