広場に戻る前にちょっとだけ魔物に襲われる
「いやいや、そんなおこがましいとか、隔絶した力の一端とかは大袈裟ですよ。確かに全力、というわけではないですけど、それでもできる事をやっただけですから」
おこがましいとかそんな事はないんだけどなぁ。
確かに全力全開で思いっきり戦ったというわけではないけど……それはフィリーナにやりすぎないよう言われたし、周囲への影響を極力減らすためでもある。
助けに行った人やリーダーさんを巻き込むわけにもいかないからね。
……まぁそれが、隔絶した力を持っているという事でもあるのかもしれないけど。
ともあれ、リーダーさんの話によると、冒険者としての依頼の難易度も高く、Aランクというのは確かにBランクとははっきり違う実力者しかなれないらしい。
魔物のランクも、BランクまでならCランクの冒険者を集めてなんとか対処できる可能性がある……被害が出る確率が高く、Bランクの冒険者が集まらなかった時の最終手段らしいけど。
でも、キュクロップスやキマイラなどAランクの魔物は、基本的にBランクの冒険者じゃ太刀打ちできず、できても逃げるための時間を稼ぐとかそれくらいしかできないと言われているとか。
「ランクが上がらないだけで、実力的にはAランクと言われる人もいるにはいますが……かなりの少数です」
アマリーラさんもその少数の中の一人だね。
あくまでランクは冒険者ギルドに認められるかどうかってだけで、ランクが上がれば自動的に見合った実力が得られるわけじゃないから、そういう人がいるのも当然か。
「多くの冒険者はCランク、実力があってBランク。ここまでなら多少の運があれば、辿り着けると言われています。それでも全体から見ると少数のようですが……」
一人前の冒険者、と言われるようになるのはCランクだけど、それまでにも相当な苦労が必要らしいからね。
……ヤンさんとの模擬戦の結果、成り立てでいきなりCランクから始まった俺は、本当に特例なんだろう。
ちなみに、冒険者で一番人数の多いランクは半人前と言われるDランクだとか。
危険な依頼も多いため、それより上のランクになればなるほど数は減るのも仕方ない。
無理をせず、着実に依頼をこなしていればほとんどの人はCランクになれる、とも言われているけど……まぁその着実に依頼をこなすっていうのが結構難しいみたいだ。
あと、どうしても無理をしないといけない時や、依頼がこなせないなんらかの事情ができてしまったりね。
確実に達成できるはずの魔物討伐の依頼に出向いたら、手に負えない魔物が近くにいてとか、今回みたいに突然襲われたり、なんて事もあるわけだから。
全体的な見方としては、Cランクになって地味ではあっても確実に依頼をこなしているだけで、十分優秀とも言える。
今回は不注意と不運が重なったけど、「華麗なる一輪の花」パーティの人達もそういう意味では、優秀だね。
「ん……すみません。先に行って下さい」
「え? リクさ……っ。わ、わかりました。申し訳ありません」
「いえ、気にしないで下さい」
冒険者のランクについて話しながら、広場まであと数分足らずといったくらい歩けば戻れる……というくらいの場所まで来た時、不意に何かの気配に気づいた。
気配というか、視線と木々のざわめき以外の音ってところかな?
小さな声と目配せで、リーダーさんにここは任せるように伝えると、一瞬戸惑った後に頷いてくれた。
女性を抱いたままだから、とりあえず俺を追い越していくリーダーさんを待って、地面に置いてから……なんて悠長な事をしている場合じゃなかったようだ。
「GAAA!!」
「っと! む……」
暗い木々の合間から、少し光度が下がって来たフィリーナの灯す明りを浴びる俺に向かい、何かが飛び出してくる。
女性を降ろす間もなく飛び掛かられ、横に飛んでなんとか奇襲を避けたが……飛び出してきた魔物と思われる黒い影は、勢いを殺すどころか木を足場にしてさらに強い勢いで俺へと飛び掛かる
この動きは……フォレストウルフか!
「あぶないよっと!!」
木を足場にした事、飛び掛かる速度などから何度も戦ったフォレストウルフと断定。
抱えている女性を降ろすのを諦め、向かってくるフォレストウルフの頭……と思われる場所に、カウンターのように合わせて右足で蹴りを見舞う。
「GYAHU!?」
「……あれ? えーっと、倒した……でいいのかな?」
確かな手応えと共に、フォレストウルフの悲鳴のような声。
ただあれだけで終わったとは考えず、油断なく構え直して再び蹴りの準備……をしたんだけど、次は来なかった。
「あー、うん。あんまりん見ない方がいいかな。よし、とりあえず倒したって事で!」
そう呟き、俺が蹴り飛ばした事で木にぶち当たり、色々と形容しがたい形になっていたフォレストウルフから視線を外し、先を歩いて行ったリーダーさんに追いつくため、速足で移動を再開。
俺の蹴り、木にぶち当たった衝撃……どちらもフォレストウルフにとっては致命傷だったんだろうなぁ、という感想。
いくら魔物でも、折れ曲がったり中身がごにょごにょしたら、まぁ生きていられないよね――。
「ふぅ、やっと抜けられた!」
あれから、さらにもう二体のフォレストウルフに襲われたけど、同じく蹴りで撃退し、無事に女性を連れて広場に到着。
フォレストウルフは、フィリーナが照らしていた明りに誘われて来ていたんだろう。
真っ暗な夜に、あんな光が照らされていたら目立つから、それも仕方ないよね。
ともかく、広場に出る直前でリーダーさんとも合流し、他に魔物が襲い掛かってくるような気配もなく、フィリーナ達が待っている広場に出られた。
「ありがとうございます、リク様のおかげでこの二人も無事です……それにしても、帰る途中に魔物が襲ってきたのに、安らかに寝ていますね。羨ましい……」
「え?」
「い、いえ、なんでもありません」
リーダーさんからお礼を言われた後、何やら俺が抱えている女性を見ながら呟いていたけど、聞き返すと首をブンブンと横に振っていたので、よくわからないけど気にしない方がいいんだろう。
「あぁ、リク。おかえりなさい」
「ガァゥ!」
「ただいま、フィリーナ、リーバー」
広場では既にリーバーがワイバーンを連れてきていて、フィリーナと一緒に迎えてくれた。
けど……。
「あれは……?」
広場には残っていた女性冒険者さん二人とフィリーナだけでなく、他にも見覚えのない二人の男女がいた。
さっきまではいなかったから、どこかから来たんだろうけど……。
「冒険者ギルドの職員と、付き添いの冒険者らしいわ。ワイバーンに乗って来たのよ。事情を聞くためと、確認のためらしいわ」
「成る程ね。よっと……」
フィリーナに聞くように男女へと視線を向けると、肩をすくめながら教えてくれた。
ヘルサルの東門で話した職員さんとは別の人みたいだけど、向こうとしても任せっきりにはしたくなかったんだろうと納得しておく。
頷きながら、焚き火の近くに抱えていた女性をゆっくりと降ろした。
リーダーさんを含めた女性達からの視線が、なんとなく痛く感じる気がするからね――。
女性を抱えていると、突き刺さる視線が陸へと向かったりすることもあるようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






