広場に戻る道すがらの雑談
とにかく、このままここでのんびりとしていると、また魔物が来ないとも限らないため、急いでフィリーナ達の待つ広場へ戻ろう。
まずはリーダーさんを正気に戻して、まだ完全にラミアウネの体がほどけていない女性冒険者を助けて……体に触れるかもしれないから、俺が協力していいのか困るけど。
俺が引っ張って投げたせいなのか、締め付けられていた二人は意識がないようだけど、意識がないからって女性の体に男の俺が触れちゃいけないよね。
当然ながら、意識があったからっていいわけじゃないけど。
「よしっと。起きないので、一人は俺が運びますけど……いいのかなぁ? いや、変な事はもちろん考えていませんよ?」
「……リク様になら、むしろ本人は喜ぶんじゃないでしょうか? 私も、代われるなら代わりたいくらいですし。よっと……この子、また太ったかしら?」
正気に戻ったリーダーさんと、できるだけ体には触れないようにしてラミアウネの蛇部分を引きはがした女性冒険者二人。
しかし意識が戻らないので、広場まで運ぶ必要があるため片方の身長が高く、装備も重そうな女性の方を両手で抱えて行く事にした。
俺が抱えるのはいいのかどうか、という脳内の葛藤と誰に言い訳しているのか……いや、リーダーさんと意識のない女性にだけど、とにかく弁解っぽい事を言いながら抱き上げる。
もう片方はリーダーさんが抱き上げたけど、重さを言及する言葉に意識がなくてもピクッと体を反応させていたのは、女性としての意識的な何かがあるからだろうか。
「戻りがこうなるなら、木を斬り倒していて良かったなぁ」
フィリーナ達の待つ広場へと歩き始める。
人一人抱えているから今は剣が使えないし、救助に来る時邪魔な木を斬り倒しておいて良かったと改めて思う。
もし魔物が来たら、足を使ってなんとかするか避けて女性を地面に置いてからになるけど……まぁそれくらいはできるだろうし、警戒はしつつも少しホッとする。
人を抱えたまま、木々を避けながらの移動は面倒そうだからね。
「……魔物だけでなくこれだけの事を軽々とやってのけるのは、間近で見ていて驚きしかありません。さすが、化け物クラスと言われるAランク冒険者ですね。いえ、先程の戦いを見ていればリク様はそれすら凌駕していると思えますが」
なんて、後ろを付いてくるリーダーさんが、重そうに意識のない小柄な女性を運びながら言った。
よくよく考えると、確かに邪魔だからって気軽に木々を斬り倒すのは、通常の感覚とは言えないか……避けて進むより、数十本の木を斬り倒した方が移動が速いって、深く考えなくてもおかしいよね。
段々と、感覚がおかしくなってきているのかもしれない。
それにしても、化け物クラスって……そんな風に言われているのかな? アマリーラさんだって、俺みたいに木の大きさの区別なくと言う程じゃないけど、走りながら木を薙ぎ倒していたはずなのに。
あ、そういえばアマリーラさんも、実力的にはAランク相当って言われているんだっけ。
うんまぁ……化け物って言われるのも納得できる、かな? エアラハールさんも、あっちは技術的にだけど最善の一手も含めて、よくわからない凄みのようなものを感じるし。
エアラハールさんは、確か女性に触ろうとする悪癖やトラブルとかがなければ、Sランクになっていたとも言われていたくらいらしいってのもあるか。
「でも……化け物クラスって言われているんですか? Aランクは」
「は! い、いえ、リク様の事をそんな風に言ったつもりはないんです! そ、その……一部の冒険者がですね、そう言って揶揄していたり。単なるやっかみですが……」
広場へ向かって歩きつつ、チラッと顔だけ振り返って聞くと、何やら焦った様子のリーダーさん。
別に、自分が化け物と呼ばれたと思ってとか、気分を害したとかではないのでそんなに焦らなくていいんだけど……。
直接言われた事はないけど、客観的に見ると化け物と呼ばれても仕方ない事をしているので、仕方ないと思うし。
ちょっと自信なくなってきたけど、俺は化け物じゃなく紛れもなく人間だ……とは、自分で考えていたりもするけどね。
「気にしないで下さい。でも成る程、それだけAランクになれるってのは凄い事なんですね。俺、いつの間にかそうなっていたみたいな感じなので……」
気付けばBランク、王都でマティルデさんと会ったらAランクに認められて、俺自身ランクを上げようとかそういう事を考える前に上がっていたからね。
皆の協力あってこそだとは思うけど、それまでにやった事を考えるとランクが上がるのも当然かな、とは今では思っている。
「リク様がAランク、いえそれ以上であってもおかしくありません! これまでに成し遂げた事を考えると当然と言えます!」
熱っぽくそう言うリーダーさん。
昼間に話を盗み聞きする形になった時の、陽気ともいえるあの考えや話し方はどこに行ったのか……と思わなくもないくらい、丁寧に接してくれている。
もしや、あの話の中にあった俺を怒らせたら? みたいな内容が引っ掛かっているわけじゃないとは思うけど。
ともかくリーダーさんの雰囲気から、センテでの事もあるけどなんとなく、これまで俺がやって来た事の全てはさすがに言い過ぎでも、ある程度は知っているようだ。
ヘルサル防衛戦や王都襲撃戦、ルジナウムでの戦いとかね……エルフの村やブハギムノングの鉱山に関しては、あまり広まってはいないみたいだけど。
まぁ、噂とかあったし多くの人が知っていてもおかしくないくらいの規模の戦いだったからなぁ。
「その、なんと言いますか……Aランクは隔絶した力を持つ人しかなれない、と言われているんです」
「隔絶した力ですか?」
「はい。冒険者の成果で言いますと、他の誰にもできない依頼の達成ですとか、通常では考えられない戦果や行動、などでしょうか。あくまで冒険者の中でそう言われているだけで、冒険者ギルドの選定方法の詳細はわからないので……」
Aランクになる条件は、確か複数のギルド支部のマスター達が承認する事とかだったっけ。
マティルデさんから、Aランクになった時に教えてもらった。
他にも選定方法というか、それぞれのギルドマスターが承認するための判断材料などはあるんだろうけど、基本的にはBランク以下の冒険者には明かされない。
ある程度は内密に……みたいな事を匂わされるけど、俺とモニカさん達のようにパーティを組んでいる人もいるし、絶対に言っちゃいけないという話ではないようだけどね。
まぁ、そもそもに細かな選定方法までは教えてもらっていないので、複数のギルドマスターが承認するというくらいは広まっても問題はないんだろう。
「まぁ、大体はBランクどころかCランクにもなれない冒険者が、やっかみなどを交えて化け物と言っているのですが……実際にAランクの方の戦闘などを見ると、その言葉に納得するんです。かくいうあたしも、先程リク様の戦闘を見て、隔絶した力の一端が垣間見えました。いえ、あたし程度では推し量れるものではないですし、おこがましいのですが……」
Aランクはそれより下のランクとははっきりと違う、化け物と呼ばれる程の実力者がなれるのかもしれません。
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