自らラミアウネの罠に飛び来む
「……よし。リク様、こちらはいつでも」
「はい。それじゃ、俺がチビラウネを蹴散らしながら二人の向こう側に飛び込みますので、すぐ後に二人の救出を」
「わかりましたが……本当に任せてもいいのでしょうか?」
「問題ありません。夜の森ではありますが、フィリーナのおかげで明るいですし……前に一度ラミアウネに囲まれた事もありますから」
簡単に、リーダーさんと共に救出のための準備をする。
とはいっても、リーダーさんが布を口の周りに巻いて花粉を吸い込まないように、マスク代わりにするくらいで、後は突入する時に動き等に関しての打ち合わせくらいだ。
時間はあまりかけていられないからね……締め付けられて、今もまだ苦しそうな声を出している二人、その距離五十メートルもあるかどうかという場所で、それを見ながら準備というのもおかしな話だけど。
ただ、こうしていても他のラミアウネやそこらにいるチビラウネが、こちらに向かってこないのは、罠を仕掛けようとしている証拠ってところだろう。
助けに来るのがわかっているかどうかは知らないけど、さっさと来いと手ぐすね引いて待ち構えている雰囲気を感じる。
まぁこちらが警戒して、準備や打ち合わせしているのを待っているだけというのは、そこまで考える知性がないのか、それとも一度張った罠を変えるような柔軟性をもち合わせていないからなのか……。
どちらにせよ、こちらの準備は整ったから、後は捉えられている二人を助けるだけだ。
「じゃあ、行きますよ……!」
ここまで使ってきた剣を鞘に納め、地面に突き立て、代わりに白い剣の方をいつでも抜けるようにしつつ、リーダーさんに声をかける。
昨日のレムレースの事があったから、白い剣の方を持ってきていて良かった。
ラミアウネなら、どんな罠でも大体は白い剣じゃなくても対処できるだろうけど、さっさと終わらせるにはやっぱりこっちの方がいいからね。
「はい、いつでも!」
「すぅ……ふっ!!」
リーダーさんの声を聞いて、一足飛びに締め付けられている二人の下へと呼吸を止めて飛び出す……いや、飛び込む。
「ぐぅ、がっ……」
「う、うぅ……」
「長く苦しませてごめんなさい。――千切れろ!」
「KISYA!?」
「KISI!?」
先程までと違い、驚きが落ち着いたらしいラミアウネに強く締め付けられ、苦しそうに呻くしかできない二人。
その二人の間に滑り込むように体を飛び込ませ、左右の手でそれぞれのラミアウネの顔の下辺りを思いっきり掴む。
そして、掴んだ部分を握りつぶしながら……嫌な感触が伝わるのを我慢しながら、後方へとぶん投げた。
ちょっと荒っぽいけど、怪我をしない程度に加減はしているから許して欲しい。
……こっちの事も捉えられていた二人に、謝っておいた方が良かったかもしれない。
聞こえて理解しているかはわからないけど。
「っ! っっ!」
後ろで、リーダーさんが何やら叫んでいるのが聞こえる。
おそらく、俺が投げ飛ばした二人を助けようと動いてくれているんだろう。
なんとなく背中でそんな気配を感じながら、白い剣を抜いて魔力吸収モードに。
「KISIIII!!」
近くの木の上、おそらく明りから身を潜めていたラミアウネだろう、それが俺に向かって飛び掛かって来る。
やっぱり、二人を助けようとした他者を潜んでいたラミアウネが奇襲する、という罠だったんだろう。
先んじて花粉も撒いているし、チビラウネも無数に発生しているため、この場はラミアウネにとって絶好の狩場だって事だ。
ただ、それは相手が他の冒険者さんだった場合の事……。
「やっぱり、そんな事だろうと思ったよ」
なんて呟きながら、息を吸い込まないように注意しながら撫でるように剣を振って斬り裂く……この場にあっては、どんな罠をラミアウネが仕掛けて来ようとも、俺の狩場になったんだ。
というかやっぱり、白い剣だと魔力の吸収と放出のどちらも関係なく、何の抵抗もないかのようにらラミアウネを斬れてしまうね。
通常の剣なら、魔力を込めていても多少は手応えのようなものがあるのに。
「手応えがなさ過ぎて、本当に斬っているか不安になるくらいだね。へぇ……こういう風になるんだ」
白い剣を魔力吸収でラミアウネに振るっただけなのに、周囲に舞っていた花粉が一瞬にして消えてしまった。
もしかしたら、という考えはあったけど……あの花粉は魔力でできていたという事なんだろう。
昼間、ラミアウネのなりかけを見た時に、花粉からではない繁殖というか増え方らしいという予想から、そうではないかと森の中を歩きながらカイツさんとも話していたからね。
「カイツさんの推測が当たってたってわけだ。っと……この剣がある以上、何をしようとしても無駄だよ。って言っても、飛び掛かって来るしかないんだろうけど」
続いて、別の場所からラミアウネが花粉の追加。
それと共に、足元から無数のチビラウネが俺へと向かってくる。
……締め付けられていた二人を助ける時、多少は踏み潰していたけど、さすがに広範囲に蒔かれてチビラウネが発生していたから、これは予想通りだ。
ともあれ、俺は落ち着いて白い剣を魔力放出モードにして剣身を一回り大きくする。
「ヴェンツェルさんの技を見ていて、良かったってところかな? 参考にさせてもらいます……はぁっ!」
剣身を大きくした白い剣を両手で持ち、足に力を込めてその場で一回転。
さらにその勢いを殺さず、何度も回転を繰り返してまとわりついて来るチビラウネを振り払うと共に、剣で斬る。
魔力吸収モードではないので、花粉はなくならないけど回転する勢いでついでにこちらも振り払っておく。
以前ヴェンツェルさんが俺との模擬戦などでやっていた、回転し続ける技を参考にしただけの動きだけど、それでも全方位から迫る無数のチビラウネや花粉を振り払うのにちょうどいい。
まぁ、本当にただ回転しつつ迫るチビラウネに剣を当てて斬る、というだけなので回転速度も回数もヴェンツェルさんの技とは全然違うけ……劣化版というより、本当に見よう見まねでやってみた、くらいのものだ。
やろうとすれば、ほぼ同じ技ができるけどチビラウネやラミアウネを相手に、使う程の事じゃないからね。
あと、やった後結構目が回るし。
「何がどうなっているのか……けど、凄い事だけわかる……」
なんて、後ろからリーダーさんの声が聞こえてくる。
俺の事を見ていないで、捕まっていた二人はちゃんと助けただろうか?
回転するついでに視界に入った時には、片方の女性に絡みついたラミアウネ……俺が顔を引き千切って動かなくなってそのままになっているのを、剥がそうとしていたようには見えたから、大丈夫だろうけど。
とりあえず、助けてもすぐに動けないだろう女性二人と、その人達からラミアウネの体を引き剥がそうとしているリーダーさんに、ラミアウネが向かったら面倒だから……。
「ほら、こっちだ!」
とラミアウネに聞こえるように叫びながら、後ろのリーダーさん達から距離を取るように前へ出る。
フィリーナが今も照射し続けている光の中心に身を晒して、目立つようにしながら。
俺に注目を集めて、全てのラミアウネがこちらに向かって来てくれれば楽なんだけど……。
リクはわざと目立って自分に攻撃を集中させるつもりのようです。
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