女性冒険者二人の声
「はぁっ! ふぅ!」
「少しくらい遅れてもいいので、無理せず付いてきて下さい! っと! この明りに沿っていれば、迷う事はないはずですから!」
後ろを付いてくるリーダーさんに声を懸けつつ、邪魔になる木を斬り倒しながら走る。
俺の真後ろを走っているだけだけれども、それでもかなりの速度を出しているから付いて来るだけでも辛そうだ。
多分、全速力で走り続けているようなものだろうからね。
無理そうなら、照らされている光に沿っていれば迷う事はないはずだから、後から来るでもいいんだけど……。
それと斬り倒している木は、俺の左手側を照らし続ける明りを遮ってしまわないように、右側に倒すために左から右下へと斜めに切って少しだけ工夫。
アマリーラさんが俺と合流する前に、木々をなぎ倒しながら進んできていたけど、それと似たような感じだ……木を避けるよりも、斬り倒しながら直線で進んだ方が早いからね。
いちいち、木を避けるために走る速度を落とすのも面倒だし、ついでに明りを遮って立っている木も斬り倒しておく。
ちなみに、女性冒険者さんを一人連れてきたのは加勢のためではなく、単純に離れていた二人かを確かめるためだ。
モニカさんに目を塞がれていたのもあって、顔とか覚えてないから。
あとは、俺が魔物と戦っている時やその他のあれこれで手助けしてもらうためだったりするけど。
「無理は……していますけど! でも、助けなきゃ。はぁっ! ふぅっ! さっきの場所に行ってから、近くに魔物がいなかったので安心しすぎていました……もっと、警戒しておくべきでした……っ!」
「まぁ、仕方ない面もあるとは思いますけど……」
パーティメンバーの二人が襲われているとあってか、後悔の念を持っている様子のリーダーさん。
ただ、事情が事情だし、今回は仕方ない部分もあったんだじゃないかとは思う。
常に五人で一緒に行動するのは、昼ならまだしも夜通しというのは難しいだろうし、場合によっては五人でいても魔物から奇襲されていないとは言えないのだから。
森の中で視界が悪いのにプラスで、夜はさらに視界が悪くなる。
森で夜を明かす事にした以上仕方ない部分はあるんだろうけど、人間だから油断してしまう瞬間だってあるわけだからね。
最初から、森の中で寝泊まりするような備えをしていれば、多少は防げた事だってあるのかもしれないけど。
「それに、驚きが勝って無理をしている感覚は、ほとんどないですから……っ!」
「そ、そうですか。それじゃ、倒れないようにして下さい……ねっと!」
これ以上話していても走るリーダーさんの邪魔をしてしまいそうだと思い、木を斬り倒して突き進む事に集中する。
俺やアマリーラさんが木を倒したのを直接見てはいないからだろう、走りながら行く手を遮る木を全て右側に斬り倒して行くのには、さすがに驚いているようだ。
まぁ、それで一時でも疲れに意識が向かないのならいいんだろう……無理をし続けた後の反動が怖いけど。
そうして、走り始めてから数分くらいかな? 程なくして現場に到着した。
「ぐっ…うぐっ……がは、ごほ!」
「がっ……ぐぅ、ごはっ!」
木々の間で、苦しそうな声と咳き込むような声が聞こえる。
まだ距離があるけど、ようやくフィリーナの明りが届いたその場所に、目を凝らしてよく見てみると……女性と思われる二人の人がいた。
その人達は、一瞬立っているように見えたが、それは何かに締め付けられて立たされているという方が正しいのだとわかる。
「あれは……ラミアウネか!」
距離を詰めていく中で見えたのは、女性二人の体に巻き付いて締め付けている蛇……人の顔より高い位置に花の顔があるのは、間違いなくラミアウネのようだ。
そのラミアウネの気持ち悪い直視したくない花の顔が、こちらというか照射されている光を見返しているので、いきなりの明りに驚いているのかもしれない。
もしかすると、ラミアウネが驚いたから締め付けが少しだけ緩んで、捉えられている二人が咳き込む余裕ができたとかかも。
二人共、全身に巻き付かれているようだし、口は覆われていないけど頭も締め付けられているみたいだから。
「た、助けない……と! はぁ、はぁ!」
後ろから付いてきているリーダーさんが二人を見た瞬間、焦ってそちらへ向かおうとする。
とはいっても、これまで走って来た影響もあってか、俺を追いこす程じゃないけど。
その声に背中を押されるように、一足飛びで二人を捕まえているラミアウネに向かおうとして……速度を緩めた。
光に照らされている場所の様子に気付いたからだ。
「ちょっと、待って下さい……」
「ど、どうしてですか! はぁ、ふぅ……なんで、二人が苦しんでいるのに。早く助けないと……!」
「このまま行くと、危険だからです」
完全に足を止めてはいないけど、リーダーさんが追い越さないよう手で制しつつ、ゆっくり近づくようにする。
リーダーさんは、抗議をしてくるけど……それよりも二人が捕まっている場所だ。
光に照らされて、無数の粒子が舞っているのが反射でよくわかる。
それは、ラミアウネの花粉が撒かれていた証拠で、よく見ると締め付けられている二人の足元には、チビラウネが無数にひしめき合っていた。
もしかすると、さっき咳き込んでいたのは締め付けられている苦しさだけでなく、花粉を吸いこんだ事も関係しているのかもしれない。
ともあれ、このまま無警戒で飛び込むとこちらも吸いこんでしまって危ない。
呼吸を止めてもしばらく戦える俺はともかく、リーダーさんも花粉を吸い込んで咳き込み、行動不能になる可能性もあるし、あれは毒でもあるから。
それに……。
「ラミアウネがあの二体だけっていうのも気になります。フィリーナは十体前後と言っていました。でも、あそこにいるのは二体だけ……しかも、足元のチビラウネはこちらを見て認識しているのに、動き出していません」
「言われてみれば……確かにそうですね、はぁ、ふぅ」
無理やり息を整えるため、荒い息を吐くリーダーさん。
そのリーダーさんに指し示したのは、周囲の状況。
見えている範囲にはラミアウネが二体しかおらず、あれほど俺が一人で戦った時は、とにかく飛び込んできていたチビラウネ達が、俺達の方を見ているにもかかわらず、動かずその場に留まっている。
「ラミアウネは、奇襲や罠にかけるくらいの知能はあると思っています。だから、無警戒に飛び込んだら危ないです。それに、驚いているのもあって、まだあの二人は無事ですから……」
「わ、わかりました。確かにリク様のおっしゃる通りです。二人を見捨てるわけでなければ……無事に助け出すためなら協力します」
どうやら、俺が言った事に納得して、落ち着いてくれたようだ。
それでも視線はずっと、締め付けられている二人に向いているから、今すぐにでも飛び出したいんだろうけど。
でも、フィリーナの明りによってラミアウネが驚いて緩んだおかげで、少しでも猶予ができているため、こちらも手早く準備をする事にした――。
罠を張っているラミアウネに対処するため、手早く準備をして挑む事にしたようです。
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