戻って来ていない冒険者パーティ
「森の中……俺なら、なんとかなりますし今からでも探しに……」
暗ければ視界の問題で難しくはなるけど、それでも俺一人ならどうとでもなる。
そう思って探しに行くべきかと言おうとしたら、アマリーラさんが言葉を遮った。
「ふん、まったく。今日中に森からは出るよう伝えてあるのに、戻ってこないとは。冒険者は自己責任、そのような者達にリク様がお手を煩わせる事はありません」
「いや、自己責任はそうかもしれませんけど、さすがに放っておくわけにはいきませんよ」
憤慨している様子のアマリーラさん。
とはいえ、なんらかの事情があって森から出られないのかもしれないし……自己責任だからって、放っておくわけにもいかない。
それこそ、魔物に襲われて危険とか、怪我をして身動きが取れないって可能性もあるわけで。
もしかしたら、一刻の猶予もない状況で、助けが必要かもしれない。
「手の届く範囲で、助けられるのなら助けないと……」
さすがに全てを助ける、救えるなんて驕るつもりはないけど、俺ができる事で助けられる人がいるのなら助けたい。
総数から見れば、少ないと言えるのかもしれないけど……それでも戻ってこない冒険者さんが、このままいなくなったら損失ともいえるかもしれないからね。
こういった事も思い浮かぶ俺は、偽善的なのかもしれないけど、やらないよりやる偽善って事で。
「さすがリク様、お優しい……承知しました。ではこのアマリーラ、リク様のご意向通り捜索をいたしましょう」
俺が自嘲気味に考えている間に、すごい勢いで手のひらを返したアマリーラさん。
なんというか、アマリーラさん自身の意見よりも俺の意見の方が優先されて尊重されている気がして、どうなのかなと思ってしまう。
けどまぁ、今はとりあえず協力してもらえると考えておけばいいかな。
あとは、既に戻ってこない人達が手遅れになっていない事を祈るばかりだ。
「それで、その戻ってこない冒険者パーティというのは? 特徴的みたいですけど」
「リク様にご相談という形で話を持ってきたのは私ですが、協力してくださるのですね、ありがとうございます。その冒険者パーティは、女性のみのパーティでして……」
「女性のみのパーティ……それってもしかして?」
男性職員さんの話を聞いて、ふと気になり周囲を見回す。
女性のみのパーティと言えば、ルギネさん達リリーフラワーが思い浮かぶ。
他にも当然いるし、森の中でもみかけたけど……そういえば、ここに戻ってきてからも、森の中でもリリーフラワーの人達を見かけなかった。
もしかして、ルギネさん達に何かが?
「リリーフラワーというパーティだったりしませんか?」
「リリーフラワー? あぁ、リク様とも面識のあるパーティでしたね。確かにそのパーティも女性だけのようですが、違います。そちらのパーティなら、早いうちに受付を済ませて街に戻っていますよ」
「あ、違うんですね、良かった」
戻ってこないのがルギネさん達じゃないと分かって、ホッとする。
いやいや、知り合いじゃないからって、安心しちゃいけないな……もしかしたら、今この時も危険な目に合っているのかもしれないんだから。
ちなみにルギネさん達は、獅子亭の仕事もあるため早いうちに切り上げてヘルサルに戻って来ていたようだ。
後でフィリーナ達が森の中で会った事も含めて、教えてくれた。
「パーティ名は『華麗なる一輪の花』です。女性五人で、全員が剣を持って戦うのを得意としている冒険者パーティです。剣の違いはありますが、女性が全員同じ近接戦闘を得意とするのは珍しいので、特徴があるというわけです」
「全員が剣を……確かに、珍しいですし特徴的ですね」
基本的に、冒険者がパーティを組む場合の多くは、お互い不得意な部分を補うようにバランスを考える。
例えば、前衛を務める盾や剣などを扱う人……それに対し、後衛から魔法で援護する人などだ。
モニカさんの槍や、フィネさんの斧など、リーチの違う武器もあるし、武器を持っても魔法を使う人もいるけど。
あとは弓をつかったりとかかな? とにかく、同じ種類の武器で集まるというのはあまり多くないだろう。
あっても二人とか……三人だと多いくらいか。
そうする事で、多種多様な魔物に対抗するのが定石だね。
俺達ニーズヘッグもソフィーが剣で戦い、モニカさんが槍で距離を取る、俺が今は使えないけど魔法と剣で……だったからね。
まぁ今はフィネさんとか、冒険者登録をしていないから正式なパーティメンバーになっていないフィリーナやアルネ、それからユノとかもいるけど、これはこれでバランスという意味で考えると悪くない。
……大体は、ユノもしくは俺でバランスとかすっ飛ばしていたりするけどね。
他にリリーフラワーだと、間近で先頭を見た事がないけどモニカさん達から聞く限り、ルギネさんが先頭をを突っ切って剣で戦い、アンリさんが巨大な斧で薙ぎ払い、グリンデさんが細かく動いて相手を翻弄し、後ろからミームさんが魔法を、という戦い方らしい。
何はともあれ、単一な相手と戦うわけではない以上、基本的には得意な戦闘法でお互いの不利を補って協力するわけで。
剣を使う女性が五人というのは、確かに特徴的で一度見たらわすれないのかもしれない……って、ん? 女性五人で剣を持っている人ばかり?
「そういえば、森の中で見つけた冒険者さん達も、女性五人でした。確か、剣を持っている人が多かったという印象でしたから……」
「リク様が見かけていたのですね」
「はい。ただ、本当に戻ってきていない冒険者パーティかどうかはわかりません。離れた場所で見ていただけで、直接話していませんし、俺ははっきり見ていないので……そうだ。モニカさん!」
森の中で姦しく話していた女性達、話の内容はともかく、確か剣を持っている人が多かったのを思い出した。
それに女性五人組だったし……気心が知れた様子で話していたから、森に入るための即席パーティとかではなく、日頃からパーティを組んで活動しているんだと思う。
ただあの時は、モニカさんに目を塞がれていたからよく見ていない部分もあるし……と考えて、リネルトさんと話しているモニカさんを呼んだ。
モニカさんなら、俺に代わってあの女性達をよく見ているはずだからね。
「どうしたの、リクさん?」
「えっと、森の中で発見した女性五人組の冒険者さんがいたでしょ? それが……」
こちらに来たモニカさんに、戻って来ていない冒険者さんがいる事も含めて話す。
「そうね、あの冒険者達は……」
モニカさんから、女性冒険者さん達の特徴を聞くと、やっぱり全員が剣を持っていたみたいだ。
女性の容姿とかの特徴もモニカさんは見ていて、それらを男性職員さん達に話してくれる。
「まだ戻って来ていない冒険者パーティ『華麗なる一輪の花』の特徴と一致します。おそらく間違いないのでしょう」
「やっぱり……」
戻って来ていないのは、あの時見つけた冒険者さん達で間違いないだろうと、男性職員さん達からのお墨付き。
というか、女性だけのパーティだからそのパーティ名なんだろうけど、五人もいるのに一輪の花というのはどういう事なのか。
リーダーの事を言っているのか、それともそれぞれが一輪の花という意味なのか……まぁ、そんな事は今どうでもいいか――。
一輪なのに五人、五人で一輪? 何はともあれ冒険者パーティの名前はメンバーのセンスで色々変わるようです。
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