森からの離脱
「ほとんどの冒険者が、俺の事を話しているけど……皆クランに入りたいのかな?」
今日見つけた冒険者さん達、そのほとんどというか全てが、俺かクランに関する話をしていた。
それこそ、直接話した人でもアピールするように主張する人もいたくらいだったから。
ある程度自分達の実力でやってきた冒険者さんにとって、クランに所属するというのは好ましく思わない人もいるらしいのになぁ……。
基本的にはこれまで自由にやって来たのに、誰かの、何かの傘下に入るのを良しとしない、というのはベテラン、そして高ランクの冒険者になればなる程増えるらしいし。
それなのに、ほとんどの人がクランに入りたがるっていうのは、いい事なのか悪い事なのか……。
「そうでしょうね。リクさんのクランに入れば安泰、とか考えているのかもしれないわ。まぁ、少なくとも冒険者ギルドからの覚えは良くなるでしょうけど……でも」
「クランの一番の目的は、帝国に協力している冒険者の相手、だからねぇ。魔物も相手にする想定だけど、これまでとは違う戦いを必ずしないといけなくなるわけだし」
荷物をまとめて、森の外へと向かう冒険者さん達を離れた場所から見送りながら、モニカさんの言葉を継いで言った。
今回の森の魔物掃討に関してはともかく、クランに入ると帝国にいる冒険者……つまり人とも戦わないといけない事になるわけで。
単純に冒険者として有名になるとか、ランクを上げる目的だったら驚くかもしれない。
……いや、驚くで済めばいいけど。
まぁ、何はともあれそういった人達はクランに入るか入らないか、という段階で伝えて承諾してもらう事になるだろうし、強制はできないから拒否感を示す人には諦めてもらうしかないんだけどね。
意外と、俺が気にしているだけで野盗とかと対峙する機会があったり依頼があったりで、人とやりあう事に関しては忌避感は大きくないみたいだけども。
それでも、戦争に参加する事にもなるわけで、そのあたりの事はちゃんと確認して承諾してもらわないとね。
「……あの人達も、無事に森の外に向かったみたいだね。カイツさん、周辺には他に誰かいますか?」
「いえ、人も魔物も近くにはいないようです。全体で見ると魔物はまだ残ってはいますが、この付近は冒険者に倒されたのでしょう」
「わかりました。それじゃ、俺達もそろそろ森を出よう」
「そうね。途中で会ったけど、ソフィー達があれからどうなったのか気になるし、かなり暗いからね」
念のためカイツさんに周辺を確認してもらい、俺達も森から出るよう話す。
ソフィー達は、俺達と会ってからさらに東の方を目指していたので、もしかしたら凍てついた大地の境界とか、俺とレムレースが戦った跡地の荒野くらいまで行っているかもしれない。
まぁその辺りは、一度ヘルサルに戻ってからだね。
「それじゃ、リーバーとワイバーンを呼ぶね」
「えぇ、お願い」
そう言って、近くの背が高めの木に登る。
枝から枝へと移動し、頂点……はさすがに足場が小さすぎたので、頂点近くのできるだけ高い場所にある太い枝に乗った。
そこから、空を飛んでいるワイバーン達の方へと手を振って声を届ける。
「おーい! そろそろ俺達も帰るから、降りてきてー!」
「ガァ!」
すぐにリーバーからの返事が聞こえ、もう一体のワイバーンと一緒にこちらへとゆっくり降下してきた。
ただちょっと、羽を広げたリーバー達が降りるには場所が狭いため、さっさと俺だけ木から降りて、周囲の木々をいくつか斬り倒して場所を作る。
俺一人だったら、リーバーに飛び乗るだけでいいんだけど、モニカさんやカイツさんがいるからね。
ちなみにリーバーや他のワイバーン達は、それぞれの冒険者さん達がいる場所の上空を飛んだりして、いつ何かがあっても気をなぎ倒しながらでも助けに入れるようにしていて、実際に何度か助けたみたいだ。
あと、森の奥に行き過ぎて戻るまでに完全に暗くなりそうな冒険者さんは、ワイバーンに頼んで森の外まで乗せて行ったりもするようになっている。
実際俺が今木に登った時、森の上空を飛んでいるワイバーンの数が半分以下になっていたから、何組か奥っていっているところなんだろう。
ちょうど皆が帰るくらいの時間だからね。
大体、夕方に差し掛かるくらいかな? 森の外はまだ多少明るいけど、森の中はそろそろ完全な暗闇に近くなってくるはずだ。
「よーしよし、ありがとうリーバー」
「ガァ、ガァゥ」
「ワイバーンに乗るのに慣れたのは、エルフの中でも私くらいですかな。いえ、フィリーナがいましたか」
「私も、随分慣れました。ね、リーバー?」
「ガァ!」
切り開いて少しだけ開けた場所を作り、そこに降りてきたリーバーを撫でつつ、背中に乗る。
もう一体のワイバーンにカイツさんが乗り、俺の後ろにモニカさんが乗りつつ、それぞれ話している。
リーバーはモニカさんが名付けたのもあってか、特にモニカさんに懐いているようで、モニカさんの言葉に嬉しそうな鳴き声を上げていた。
そうして、羽をはばたかせたリーバー達が少しの助走と共に浮上して、森からヘルサルに向かう……あと、まだ森の上空にいるワイバーン達にもリーバーから離脱するよう指示を出してもらう。
もちろん、まだ冒険者がいないかをある程度確認してもらいながらだけどね。
空からとはいえ、さすがに暗くなってくると森に残っている冒険者全てを把握できないだろうから。
まぁさすがに、暗くなってもまだ森に留まろうとする冒険者さんはいないと思うけど……一応冒険者ギルドの方から、そういった注意勧告は伝えられているはずだ。
危険だからというのもあるけど、登録した冒険者さん達が無事かどうかなどの確認のためでもある。
「ん、っと。モニカさん」
「ありがとう、リクさん」
ヘルサルの東門前に降り、モニカさんの手を取ってリーバーから降りる補助。
周囲には他のワイバーンや、それに乗って戻って来た冒険者さん、さらに王軍の兵士さんや、冒険者ギルドの職員さん達が多くいて、にぎわっている。
簡易的な受付もそのままで、そこでは森から戻って来た登録者の確認や、討伐した魔物の討伐証明部位を提出している。
あ、人が足らないのか、隊長格っぽい兵士さんも手伝っているみたいだね。
ヴェンツェルさんから、協力するように言われているんだろう。
「よしよし、皆ありがとうな~」
「ガァゥ、ガァ」
「GA~」
「GA、GAGA~」
俺はリーバーを始めとしたワイバーン達を労うように、それぞれに声をかけて撫でていく。
ワイバーン達は羽の付け根や後頭部より少し下辺りを撫でられるのが好きらしく、皆気持ちよさそうな鳴き声を出していた。
……こうしていると、本来は魔物のワイバーンも可愛く思えて来るなぁ。
野生のワイバーンはだったら、問答無用で人を襲う獰猛な魔物なのに……復元されたワイバーンが、全て協力的になるとは思わないけど、人に懐いてくれるのは助かっている。
まぁワイバーンの群れを率いていたリーバーが、エルサに全面降伏した事やなどが大きいんだろうけど。
復元され、魔法と引き換えに再生能力を強化された他のワイバーンを見つけた時は、襲ってきたからね――。
空を飛べるワイバーンが協力してくれるのは、やっぱりすごく助かるようです。
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