魔力弾の準備
「くっそ……つぅ! 集中が乱される!」
魔法の威力が高まっているせいか、体のあちこちに薄っすらとした傷が増えていく。
服なんてもうボロボロで、もう縫って修復するより新調した方がいいくらいだ。
鋭い痛み、鈍い痛み、魔法によって痛みの質は少し違うけど、集中しようと思った瞬間に痛みが走るせいで、体内の魔力を固める事が難しい。
「KIKIKIKI!」
魔力弾の使用に意識が向いているのもあって、さっきより魔法に当たる頻度が増えた。
それを見てか、俺をジワジワと追い詰めている気になっているんだろう、レムレースがひときわ甲高い音を発して嗤った。
結構悔しい。
「いい気になって……っ! これ、魔法が当たると、体内の魔力も乱されるのか……」
集中が乱されたからだけでなく、土の矢が横腹に直撃した瞬間、固まりかけていた魔力が体内で不自然な動きをした感覚があった。
ハッとなって気付いたけど、多分これが魔法が当たった事で魔力を乱されるという事なのか。
もしかすると、魔力が含まれた攻撃しか通用しないレムレースも、こうして乱す事で魔力を減らし、ダメージになるのかもしれない。
「……今更、そのことに思い当たってもあんまり意味はないけど……っ、くっ……もう少し……!」
「KIKIKI、KIKIKIKIKI!!」
俺を追い詰めている気分らしいレムレースを睨み、魔法を避けながら少しずつお互いの位置をずらして聞く。
近付こうとすると、距離を取ろうとしたり、回避しようとしたりするため、レムレースだってずっと同じ場所にいるわけじゃない。
集中して、魔力弾を準備する時間を稼ぐため、ちょっとした考えのもとレムレースの位置を誘導していく。
俺自身はレムレースを中心に円形に動いている。
「もう少し、っ! あと、少し……つぅ!」
ジリジリと、位置を変えていくレムレース。
狙っているのは、荒野のようになってしまった周囲の端、まだ森の木々が残っている場所まで誘導する事。
ほんの数秒にも満たないかもしれないけど、そうする事で俺との距離を最大限離して、時間を稼げるはずだ……。
ただ、森の中には入らない。
木々に遮られると、どこから魔法が飛んで来るかわからなくなってしまう可能性があるから。
注意深く警戒していれば、察知して反射的に避ける事もできるだろうけど、魔力弾を使おうと意識しているとそれも難しいからね。
威力が高くなった魔法を、何も対処できずに直撃するのは危険だし。
これまでも当たったらちょっとした怪我では済まされないのもあったけど、さすがに行動不能になるくらいのダメージは避けたいからね。
「よし、もうちょっと……今!」
「KIKI!?」
レムレースを注意深く見て、魔法を避けつつ攻める姿勢を見せたり、引いて見せたりして、目標の場所へ誘導。
次の瞬間、レムレースとは逆側に大きく飛んでできる限りの距離を取る……レムレースから目を離さないようにしながらも、何度も何度も後ろに飛んで、こちらの荒野の端に。
途中、開いていた穴に足を取られそうになったけど、なんとかバランスを保って転ばずに済んだ。
……足下には注意しておかなきゃね。
目標の場所に着地して、追尾してきた魔法を叩き落し、次の魔法が放たれるまでの数舜の時間を得る。
俺が自ら大きく距離を取ると思っていなかったのか、レムレースが驚きの音を発して一瞬だけ躊躇していた。
それも、俺が魔力弾を撃つための布石になるから、助かるね。
レムレースとの距離はキロ単位……速度重視の魔法が放たれたとしても、俺に届くまで数秒はかかる。
「魔力を意識、奥の方で練って固める感覚……」
ヒュドラー戦の時に何度も使った感覚を思い出しつつ、魔力弾の準備へと意識を向けた。
「KIKI……!」
俺が何かを狙っている、というのは察しているかもしれないが、それでも魔法を放つのをやめないレムレース。
そのレムレースの前に、あらゆる属性の矢が無数に表れて視界を埋め尽くす。
レムレースの姿は見えなくなったけど、そこにいる事、魔法を放つ瞬間は絶対に動かない事はわかっている。
「あれは、多分数を用意するためで目標に飛んで行く効果はあっても、追尾性能はなさそうだ……よし!」
俺へと向かって射出される無数の魔法。
正面から、迂回するように左右から、そして打ち上げられて山なりに。
とにかく俺に向かって全ての魔法が、とてつもない速度で迫る中、魔力弾を放てる準備を終える。
特に、おかしな軌道をさせて意表を突こうなどとは考えない……ただただ真っ直ぐ、レムレースに向かって突き進む魔力弾。
「大丈夫、レムレースの後ろは氷の大地だから、突き抜けても何もない。センテとはかなり離れているし……」
剣と鞘を地面に突き刺し、右手をレムレースにかざしながら左手で右手首を支える。
レムレースの位置は、ただ距離が一番離れられる場所というだけでなく、もし魔力弾が突き抜けても何かしらの被害が出てしまわないよう、背後に凍てついた地面……つまりセンテのある東側に来るように狙っていた。
いくら魔力弾がロジーナと戦った時のように、異常な貫通性能があるとはいえ、数キロどころか数十キロは離れているセンテまでは届かないはず。
そもそも、センテには隔離結界があるから、もし届いても大丈夫だろう。
他の方向だと、何があるかわからないからこうするしかなかった。
まぁ、南でも良かったかなと思うけど今更か。
「うわぁ……ある意味壮観だなぁ」
なんて、上下左右に正面から迫る魔法を見ながら呟く。
魔力弾を撃ったら、すぐに回避しないとかなり危険だねこれは。
そう考えながら、レムレースにかざした手の形を変え、人差し指を真っ直ぐレムレースに、親指を立ててそれ以外の指を折りたたむ
「誰も見ていないから、格好つけてもいいよね」
手で作る拳銃の形、貫通させる事を意識して、固めた魔力を指先に集める。
あれ? なんか指先が光っている気がするけど……? こんな効果は予想外だ。
もしかしたら、濃密な魔力が可視化された結果かもしれないね。
とにかく、左手で支えながら、右手の人差し指から魔力を解放、魔力弾を射出する!
「バン! ってね……ってうぇ!?」
拳銃を撃つようなイメージで、指先から魔力弾を放った瞬間……正面から迫っていた魔法を全て巻き込み、消滅させながら地面を抉りレムレースへと向かって行った。
ほんの数センチくらいの太さのビーム、みたいな物なのに、触れていないのに魔法だけでなく地面を深くえぐるなんて。
ちょっと魔力を込めて、捏ねて、固めすぎたかもしれない……最近魔法的なのが使えなかったから、フラストレーション溜まっていた的な?
ともあれ、驚きの声を自分で上げつつ、地面に突き刺した剣と鞘を持って、その場を離脱。
直後、激しい爆音を響かせながら俺へと迫っていた無数の魔法が、それまで俺のいた場所でぶつかり合った。
……追尾性能はないと思っていたけど、どれかの魔法に炸裂する効果を持たせていたのか。
当たったらかなりやばかったんじゃないかな? なんて考えつつ、爆風に巻かれて飛んで来る魔法を、それぞれ剣と鞘で打ち落とした――。
魔力弾を放った結果の前に、既に放たれていた魔法の対処をしなければ危険です。
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