消耗するレムレース
「ふっ! っと……ぜぇ、はぁ、はぁ、はぁ!」
何度も何度も拳を撃ち出し、細切れレムレースに打ち込み、半分以上の破片を霧散させた。
ただ、俺自身の体力というか動き続けるにも限界がある。
こればっかりは、魔力が多くてどうのという問題ではなく、単純に人間だからこそ仕方ない事だね。
誰だって、ほぼ無呼吸に近い状態で延々と動き続ける事はできないんだから。
途中で息継ぎくらいは、格闘家だってやる事だし。
「すぅ、はぁ……よし次、ってうぉ! これまでより早い!?」
「KIKIKIKIKIKIKI!!」
ほんの数秒、足りない酸素を思いっきり吸い込んで、再び攻撃を再開させようとした瞬間、レムレースから湧き上がる暴風。
かまいたちみたいな効果もあるんだろう、服と一緒に薄皮も斬られたので叫びながら慌て距離を取る。
これまでよりも、竜巻を発生させるまでの時間が早く、本来ならまだ二、三秒の猶予があったように思うけど、それだけレムレースも必死なのかもしれない。
竜巻の威力もこれまで以上みたいだし。
大きく不快な音を発しながら、細切れになり、半分以上を霧散させられたレムレースを竜巻が包み込む。
「近付けないけど、これなら!」
不用意に近づくと、薄皮どころではなく指くらいは持っていかれそうだったので、離れたままでもう一本の剣を抜いて攻撃。
俺自身が斬り刻まれながら、レムレースに攻撃を加え続けられるような、特殊? な趣味はしていないからね。
とにかく、剣と鞘に魔力を流して竜巻の中で再生途中と思われるレムレースに向かい、二つの剣魔空斬を飛ばす。
「ほとんど意味がない、か。という事はあれは、魔法よりももっと濃い、純粋な魔力を纏っているようなものなのかな」
剣魔空斬は、竜巻に阻まれてほんの少し巻き上げられている土や砂を斬ったり、弾いたりしたくらいでレムレース本体には届いていないようだった。
これまで、レムレースもそうだけどラミアウネなどの魔物の体や、魔法その物すら斬っていたけど……外部からの干渉的な魔力に対して、完全とは言わなくてもかなりの防御を発揮するものらしい。
つまり、竜巻が発生したらレムレースが再生するまで待つしかない、という事。
「ただ、こうなると再生が終わるまで攻撃が来ないし、こっちもちょっとだけ休憩になるんだけどね」
再生が終わるのを待ちながら、連続攻撃によって乱れた呼吸を整えつつ、飛ばされていた剣と鞘を回収。
片方が使えなくなっても、もう片方があるので二本持ってきたのは正解だったね……まぁ効果はほとんどなかったけど。
「うーん……ようやく人っぽい形になってくれた、かな?」
竜巻が収まり、再生が終わったレムレース。
連続攻撃でかなりのダメージを与えられたのか、体は俺より小さくなり、腕は短いのが二本、足も同じく短いのが二本という状態になっていた。
戦闘開始前のレムレースを、腕も足も全体の体も小さくした感じだ。
人っぽいというより、人未満ってところかな。
かなりの魔力を削ったのは間違いない。
「やっぱり、飛び込んで攻撃するのは効果的って事だね。まぁ、後何回やればいいのかわからないけど」
そもそも、どこまでやればレムレースを倒した事になるのか。
白い剣があれば、全ての魔力を吸収しきって消滅させるのも簡単だけど。
でもレムレースの様子を見るに、多く見てもあと数回程度って気はしている。
何故なら……。
「KI……KIKI! KIKIKI……」
発せられる音から、なんとなくだけど焦っているような雰囲気が感じられたから。
勘違いだったら恥ずかしいけど。
ただ、これまでは敵である俺に対して嗤うようなニュアンスが含まれていたのに、今はそれが全くないからね。
レムレースに感情が本当にあるかはわからないけど、少なくとも余裕というのはなくなっているはずだ。
「あともう一度……と決まったわけじゃないけど、多分それで決着を付けられる」
最初に見つけた黒いもやが、重なった時と同じくらいになっているレムレース……顔部分と体部分には目がある事だけが、発見時と違うくらいかな。
先程までと違い、再生した後も魔法の攻撃をしてこないので、様子を見るなりしているのかもしれないけど、向こうに余裕がないのは間違いない。
断定できるわけじゃないけど、今の状態でさっきのような連続での攻撃ができればそれでほぼ倒せそうな感じがある。
まぁそのためには、もう一度レムレースに肉薄しないといけないんだけど。
「……何もしてこない。罠の可能性もあるから迂闊にいけないけど、でも今のうちに行った方がいい、かな?」
途中で魔法を放たれても、剣魔空斬で斬り裂いて飛び込む事はできるはず。
それだけの準備はすでにできているし……油断するのはいけないと考えつつも、さっさと倒し切って決着をつけたいという気持ちもあり、少しだけ焦れる。
とはいえ、こうして考えていても何も始まらないわけで。
俺とレムレースとの距離は十メートルにも満たない、一足飛びとはいかないけど、飛び込めばすぐに剣が届くような距離だ。
「よし、それじゃ……っっ!!」
「KIKIKIKIKIKIKIKI!!」
何かあればその時に考えよう、とレムレースに対して踏み込んだ瞬間……俺が動いたのに反応したのかはわからないが、再びレムレースから全方位に大きく不快な音が発生した。
もしかして、魔法を使わずにいたのはこれの準備をしていたからか?
思わず足が止まり、耐えられず剣と鞘を落として両耳を塞ぐ。
鼓膜に痛みすら覚えるその音は、塞いだ両手越しにも響いて脳内を揺さぶる。
発見してすぐのよりも、さらに音が大きい気がするね……比べたわけでもないし、塞いだ耳越しだし、わざわざ比べたくない程不快な音だから、わからないけど。
でもこの音が発せられたという事は……。
「ぐっ……やっぱり、魔力を吸収しているみたいだ……」
「KIKIKIKIKIKIKIKI!!」
自分で呟く声すらかき消されるような大音量と共に、体内に染み込み、そして抜き取られる間隔。
前回と同じように、魔力で発した音を使って周囲の魔力を吸収しているんだろう。
ただ、周囲には最初と違ってレムレースの魔法や、俺の剣魔空斬によって木々がほとんどなく開けてしまっている。
土などの地面にも魔力はあるけど……その量は木などの植物と比べれば微量だ。
状況的には、ほぼ俺くらいからしか魔力を吸収できないはず……。
音がどれだけ響いているかはわからないけど、離れた場所にはまだ残っている木々があるから、そこからも吸収できている可能性はあるかな。
ただ、最初よりもかなり少ない量だと思う。
「くぅ……これ、結構きついな……なんとか、止めるために動くべきかな……」
「KIKIKIKIKIKIKIKIKI!!」
続く大音量の中、かなりの魔力が抜き取られていく感覚に、不快な音も相俟って思いっきり顔をしかめる。
剣魔空斬など、ずっと魔力を使っていたから総量が減っている分、吸収されるのが堪えているんだろう――。
魔力総量が目減りして、リクの体にも自覚できるくらいの負担がかかり始めたようです。
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