レムレースとの戦闘開始
「もしかして、さっきの音で魔力を拡散して、周囲の魔力を吸収した……って事?」
俺自身でも、魔力が抜かれていくのを感じていたし、間違いない。
森の木々や植物も、土でさえも魔力を含んでいるというのは、探知魔法でよく知っている。
魔法が使えないので確かる事はできないけど、人は魔力がなくなると死んでしまうらしいし、植物だって魔力が枯渇すれば枯れてしまうというのもおかしな話じゃないし、事実今そうなっているんだろう。
「よく見たら、あれも大きくなっている気がするし……」
音を発した黒い何かは、さっきまでちょっと小さめの人間サイズだったのが、今では大柄な人間よりさらに大きくなっている。
多分、マックスさんやヴェンツェルさんよりも大きく、身長で言うと二メートルは優に超えるだろう。
形はさらに歪になり、手足と思われた物も増えて今では手が五本に、足が七本あり、完全に人の形からかけ離れた。
もうあれを見ても、誰も人の影だと勘違いしないと思う。
「魔力を吸収して、体を大きく……というより力を蓄えたってところかな。くそ、また……!」
「KIKIKIKIKI……」
黒い何かが、ドクンと脈打つように全体が蠢き、再び発せられる金切り音。
ただ、今度はさっきみたいに耳を塞ぐほどの音量はなく、耳を塞ぐ程じゃない。
まぁそれでも、不快な音には変わりないんだけどね。
「笑っている、いや嗤っている。と言った方が正しいかな?」
さっきまでは無機質にも感じる、ただ高い金切り音が大きく響いているだけだったけど、今発せられているのは、何かしらの意思というか感情に近いものを感じる。
何かを喜ぶような、嗤っていると表現するのが一番良さそうな音に思えた。
「KIKIKIKI……!!」
「えっ!?」
さらに脈動する黒い何かは、何度も何度も、それこそ心臓が大きく脈打っているかのように、全体を震わせ、蠢かせ、やがて音を止めた。
今度は何が……と思っていると、人を模したような体の真ん中、人間だとみぞおちに当たるだろう部分と、丸い顔を模したものの真ん中が裂けて開いた。
「あれって……もしかして? そうなら、道理で見た事がある気がするわけだ……」
体と顔が横一線に裂けて開き、その奥からギョロリとした一つ目が現れる。
人間の目と同じで、白目と黒目に別れているけど、その黒目が周囲を見渡すように動く。
あれは、少し前に間近で見た事のある目とそっくりだ。
いや、人間の目の形と同じだから、見た事あるのは当然なんだけど……大きなギョロッとした目、人間とは違って一点を見るという事をほぼしない目……。
「レムレース……!」
ヒュドラーと共に、レッタさんの隠し玉のような形でセンテに迫っていた魔物。
モニカさんや防衛に当たっていた兵士さん達、ユノやロジーナに魔法を振らせて、戦っている俺達とは反対側、ヘルサルへと避難しようとする人達を襲った魔物。
人には討伐不可とされ、冒険者ギルドからはSランクのヒュドラーと同じとされているけど、実質的にはそれ以上の存在。
魔物のみの魔力で構成され、純粋な破壊の力を集めて一つになったという、レムレース!
「こんなところで、どうして……!」
俺はよく知らず、センテでの魔物騒動が落ち着いてから聞いた話だったけど、どんな冒険者でも見かけたら真っ先に逃げろと言われる魔物。
大体は空気が滞りやすく、魔力が循環しない洞窟の奥などに発生するらしいけど、こんな森の奥で発生するなんて。
「いやでも、目が二つあるのは気になるけど……まだ完全じゃないのかも?」
レムレースは魔力の集合体で、不定形。
まぁ俺が見ているのは人を模しているようではあったけど、その境界は不確かで、簡単に形を変えられるようだった。
でも俺が倒したレムレースはあんなもんじゃなく、ヒュドラー並みに大きいというか広く分散していたはず。
まだ大きな人と言えなくもないくらいの大きさだから、以前戦ったのと比べたらレムレースとして完成したとは言えないのかもしれない。
「でもなんでだろう、前に戦ったレムレースよりも、濃く感じるのは」
色が濃いとかではないんだけど、なんだろう……密度が濃いというか。
まぁ魔力の塊だし、さっきも魔力を使って音を発生、周囲の魔力を吸収していたから魔力が濃いって事なんだと思うけど。
ってそうか、魔力を吸収していたから濃くなっているとも考えられるか。
あと、本来と比べたら小さいから、濃くなっている可能性もある。
「でもレムレースって事は、ゴーストと同じで魔法以外効きそうにない……というか効かないんだったか」
前に戦った時は、白い剣で魔力を吸収したから倒せたけど、その白い剣を今は持っていない。
どれだけ魔力があろうと、魔法が使えない今の俺にはある意味レムレースみたいな魔物は、天敵とも言えるかも。
「観察ばかりしていたけど、とりあえずやってみるか」
本当に剣とかではなんともならないのか、密度や魔力が濃いと言っても本来のレムレースよりは小さいから、何か違う事もあるかもしれないし。
もしもの時は、尻尾を巻いて逃げるけど……とりあえずやれる事はやってみよう。
「どうなるかは神のみぞ知るってね……」
この世界の神様はユノとかロジーナ、それからアルセイス様とかだけど。
「というわけで、向こうがこちらに気付いていないうちに……っ!」
剣を抜き、鞘を左手に持ってこの森に入ってからの戦闘スタイルで、レムレースに突っ込む。
上下にある二つのギョロリとした目が、不規則に動きながらも、一瞬だけ俺をとらえた気がした。
「KIKIKIKI!!」
「……やばっ!!」
木々の合間を縫って駆け寄る俺に対し、嗤うような音を発するレムレース。
その瞬間、ブワッと周囲の温度が上がった気がして危険を感じ、方向転換で横に飛ぶ。
「既に見つかっていたって事か……」
俺がいた場所を、太い燃える槍が木々をなぎ倒しながら通過する。
気付かれていないと思っていたけど、実際は違ったのか……誘い込まれたって事だな。
「KIKI!」
俺が魔法を避けたからか、悔しそうな、でも誘いに乗ってしまった俺をあざ笑うような、よくわからない音が発せられた。
くっそ……してやられたな。
「というか、とんでもないな……」
レムレースからできるだけ注意を外さないようにしながら、後ろを見てみると、十メートル程度の距離まで森の木々がなくなっていた。
ある意味見通しが良くなったけど、レムレースの攻撃ってこんなに威力があったのか。
まぁ、魔法の威力に関しては俺が言える立場じゃないかもしれないけど。
ヒュドラーと一緒にセンテに迫っていた時は、こんな威力の魔法は放たれていなかったとは思うんだけどなぁ。
もしかすると、レッタさんの指示なりであまり大きく周囲に影響を及ぼすような魔法を、使っていないかったのかもしれない。
ユノやロジーナ、アマリーラさんとかがいた場所では、ヒュドラーと連携していたようでもあるし、連続性を意識していた可能性もあるか――。
操作されていないレムレースは、かなりの脅威なのかもしれません。
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