魔物回収隊に驚かれる
「街で働く人用のお弁当と考えれば、悪くないと思うんだけど」
例えば、街や村の間を旅する人達相手ではなく、ヘルサルで働く人達向けとか……農園で働いている人達とか、わざわざ街の外に出て作業をして、食事をするには街に戻るか他の所で買った物を食べるかだから。
「とはいえ、今でも十分に忙しいしいようだから、お弁当まで作って販売するとマックスさん達がもっと大変になるか」
食事時には、店の前に行列ができる程の人気店だし、お弁当とかテイクアウトまでやると、厨房の手が回らなくなる可能性もありそうだ。
とはいえ、持ち帰りを可能にしたら、店に入りきらない人にも行き渡るし、わざわざ店内で食べなくてもいい分、混雑の解消に役立つかもしれない。
例えば、朝だけ携帯食の販売をやって、お昼以降は今と変わらなずテイクアウトなしで店内飲食のみとか……。
そうすれば、ヘルサルで働いている人は朝買っておいて、昼以降に獅子亭まで来なくても良くなるわけで。
もしかしたら、行列の解消も少しはできるかも?
結局、料理する手間は増えるわけで、厨房の大変さが増すだけか。
そういえば支店を出すかもと言っていたから、そのついでか代替案としても?
「って、ここで俺が考えても仕方ないか。マックスさんに提案して考えるだけ考えてもらうとかでもいいだろうし……よし、お腹も満たされたし、続けて森の奥に……お?」
俺が考えていても何か決まるわけでもなし、と食べ終わった物を片付けて、つらつらと考えていたのを打ち切って腰かけていた切り株から立ち上がる。
一応、広場をもう一度確認してから、森のさらに奥を目指そうとすると、何やら人の声や音が聞こえた。
「リ、リク様……これは一体……?」
「あーえっと、大量のラミアウネが襲ってきまして。ここまでするつもりはなかったんですけど、ちょっとしたはずみで」
声は広場の森の外方向からで、様子を見にそちらへ行くと驚いている様子の、王軍兵士さん達が十人程いた。
広場の惨状に、ほとんどの兵士さんが言葉をなくしているようだ。
とりあえず、ラミアウネの事やその後の処理……リーバーに頼んで燃やそうとしたら等々を説明する。
ちなみに兵士さん達は、俺の目印を頼りに魔物の回収に来たらしい。
オークやフォレストウルフなど、倒した後の魔物を見て驚きはしたけど、この広場はさらに予想外だったとか。
まぁ、充満している焼け焦げた臭いはまだそのままだけど、それよりも最初の目印以上に大きな広場になってしまっているからね。
しかも、そこから黒焦げになったラミアウネと思われる残骸が転がっているうえ、切り株なども燃え尽きているわけだし。
「な、成る程。そこまでの数のラミアウネがいたとは……という事は、森にいるラミアウネは全てリク様が倒したと」
「いえ、そこまでじゃないとは思います。全体でどれだけいるかわかりませんけど、多分他にもいるんじゃないかと思います」
俺が倒したラミアウネは百体に満たない程度。
半分になったとはいえそれなりに広い森だから、他にもラミアウネがいる気がする。
もっと小さい森ならともかく、百体くらいで、他の魔物が逃げ出そうとする程だとは思えないからね。
「確実に全体数は減ったとは思いますけど」
「それだけでも助かります。森を縦横無尽に移動して襲って来る魔物には、慣れない兵士達が手を焼いていましたから。かくいう、私もその一人ですが……」
フォレストウルフもそうだけど、ラミアウネも森の木々を利用して高い場所から襲ってきたりもしたからね。
さらに広場に来た兵士さん達の指揮をしているらしい人の話を聞いてみると、木々に隠れるだけでなく、低い位置からの飛び掛かり、さらに木の枝からも襲い掛かって来るから、対処に苦慮していたとか。
そのうえ花粉を撒き散らして来るわけで……火の魔法に弱いため、魔法の使える兵士さんも同行しているようではあるけど、森での戦いに慣れていないため、どういう風に魔法を使えばいいのかおぼつかない等々。
こういった場所での戦いに慣れないと、不利を強いられると苦笑しながら言っていた。
「ラミアウネもですが、フォレストウルフなど木の幹や枝を足場にして飛び掛かりますから……勝手が違い過ぎて」
「そうですね……俺も、木を足場にしたりはしましたけど、フォレストウルフとかの方がやっぱり動きが慣れていると感じましたし」
戦ったフォレストウルフの動きを思い出す。
俺のように、偶然動いた先に木があるから足場にしたとかではなく、フォレストウルフの場合は木を足場にした立体的な動きで相手を翻弄するのに慣れていたからね。
オークなんて、数で優っているはずなのにそれで劣勢になっていたくらいだし。
「……え?」
「ん?」
まだまだだなぁ、とさっきまでの戦いを反省する意味を込めて話すと、目の前の兵士さんが急にキョトンとした。
俺達の話を聞いていたのか、黒焦げになったラミアウネの残骸を調べていた兵士さん達も、こちらを見て目を大きく開いている。
「リ、リク様ですからね……そ、そういう事ができてもおかしくないでしょう」
しどろもどろになりながら、そういう兵士さん。
「そういう事? あ、木を足場にってのですか。フォレストウルフのように、自由に使うとまではともかく、飛んだ先にある木の幹から、さらに上に飛ぶのはやろうと思えばそんなに難しくは……俺も、今日が初めてですけど、なんとかできましたし」
「いいですか、リク様。人間は、木の幹や枝を足場にして戦う事は、通常ではあり得ません。一部、身軽な者が訓練して、多少できるようになる程度です。やってみてできるような事ではないのです」
「え~……あ~、うん。そ、そうですね。よく考えれば……そう、なのかな?」
「そうなんです!」
戸惑いから一転、真面目な表情で諭すように言う兵士さん。
見れば、他の兵士さん達もコクコクと頷いている様子。
そう言われたら、確かに人間には難しい事なのかもしれない……かな? でも、俺はできたわけだし……。
でもそういえば、これまで何度か森の中に入って戦う事があったけど、魔物以外にそんな動きをしているのはいなかったっけ。
「まぁリク様ですから、できても不思議ではないのですよね。ここに来るまでも、何度驚かされた事か……」
「そんなに驚く事ってありましたかね?」
「ここもそうですが、簡単に木を斬り倒して進むだけでなく、密集した木々の中に突然空間を作るのはちょっと……」
「あー、はははは。やったらできたので……」
いやでも、次善の一手を使えば俺以外でも木を斬り倒すくらいはできるんじゃないかな?
魔力を飛ばす、剣魔空斬を使うのはともかくとして。
そう思ったんだけど、次善の一手を使っても太い木の幹を一振りで斬り倒すのは、かなりの集中がいる事だとか。
それこそ、奥へ進む途中で気軽にできる事ではなく、さらに一人が連続でできる事でもないと言われた……集中だけでなく、魔力とか剣の耐久が問題になって来るらしい。
うーむ、もう少し控えた方がいいか……でもまぁ、驚かせてしまってはいるみたいだけど、大きな迷惑はかけていないし、魔法の失敗程じゃないからまぁいいか。
そう考えて、ある程度話して広場の事を兵士さん達に任せ、再び森の奥を目指した――。
リク自身も、驚かれるのにはだいぶ慣れたようです。
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