緊急事態発生
「しかし、さすが王都だな。人の多さもそうだが、品物の多さにも驚くばかりだ」
「そうねぇ。ヘルサルも中々の街だと思ってたけど……やっぱり王都には負けるわね」
「国の中心地だからね。私達の集落に比べると、何でもあるような気すらしてるわ」
「集落は国の中でも王都から離れてるからな。物の往来が少ないのは仕方ないだろう」
それぞれに、王都を見て回った感想を言ってる。
……俺も見て回りたかったなぁ……まぁ、姉さんとの話の方が重要だったから、仕方ないけど。
「そう言えば、こんなものもあったぞ」
「えっと……パン、だよね?」
「あぁ、パンだ」
ソフィーさんが取り出したのは、人の形をしたパン。
剣と盾を持って、全身鎧を着てる姿が勇ましい。
ここまで精巧に作れるなんてすごいね。
「あぁ、それね。名前を聞いて笑っちゃたわ」
「どんな名前?」
「「「英雄パン」」」
「は?」
楽しそうに、モニカさんとソフィーさん、フィリーナの三人で声を合わせてパンの名前を言った。
え……英雄パンって……どういう事?
「何でも、今回の最高勲章授与を記念して作ったパンだそうだ。つまり、英雄とはリクの事だな」
アルネまで笑いながら、パンの説明をする。
「え、このパン俺を模して作ったって事なの!?」
「ふふふ、そうみたいね」
「面白いだろ?」
「鎧を着たリク……凛々しいわよ……プッ」
皆笑ってパンを見てるけど……全身鎧を着たり、盾を使った事なんて一度も無いんだけどな……。
あと、フィリーナは吹き出さないでくれ……。
「全然似て無いなぁ」
パンを見ながら、そう呟く。
全身鎧を着てる姿だから、当然顔は出て無いのだが、パンで表現されてる体はガッシリとしていて、俺よりもマックスさんと言った方が正しい気がする。
肖像権とかどうなってるんだ……この世界にそんなもの無いか……。
「リク様!」
「ヒルダさん? ハーロルトさんも……どうしたんですか?」
俺達が、英雄パンを見て笑いながらのんびりしていると、部屋の扉を開けて勢いよくヒルダさんとハーロルトさんが入って来た。
ヒルダさんは、姉さんが部屋に来れるか聞きに行ったはずなのに、どうしたんだろう?
「リク様、申し訳ありません……例の件です」
「例の件?」
「昨夜話した……」
あー、もしかして昨日の夜ハーロルトさんが来て話した、不穏分子とやらか。
それがどうしたんだろう……何か動きがあったのかな。
「奴らの狙いは、国家転覆……いえ、国家崩壊なのかもしれません」
「崩壊!? 穏やかじゃないですね……何かあったんですか?」
「女王陛下が捕らえられました。謁見の間に立てこもり、その場にいた貴族達も一緒に……そのうち抵抗した者はその場で殺されました……」
「城の内部に手引きしていた者がいたようです」
「姉さんが!?」
謁見の間に姉さんが捕まって、人質になってるって事なのか?
一体誰がそんな事を!
「首謀者は複数の貴族です。ここまで強攻策に出るとは思っていませんでした……情報部隊である私が居ながら……!」
ハーロルトさんは俯いて唇を噛んでいる。
情報部隊だから、こういう事を事前に調べて未然に防ぐ事も役割としてあるんだろう。
それが出来なかった事を悔しく思ってるみたいだ。
昨日の時点では、あまり派手な事をしそうにないとハーロルトさんは言っていた。
その読みが外れた事も、一因だろうな。
「城の兵士たちは、何をしているんだ!?」
「兵士達は、半数が捕らえられて牢に入れられています。……どうやら今朝、兵士の食事に遅効性の痺れ薬が混ぜ込んであったみたいで……」
「授与式が終わる頃に効果が出るよう調整された、特殊な薬です」
「計画的だな」
ソフィーさんが兵士について聞き、それに答えるハーロルトさんとヒルダさん。
それを聞いてアルネも考えているようだ。
けど、俺はそれどころじゃない。
姉さんが捕まっている……せっかく会えた姉さんなのに……。
ハーロルトさんが言うには、狙いは国の崩壊かもしれないという事。
抵抗した貴族を殺したという事は、向こうに情けだとか容赦というものは期待できない。
くそっ!
「リク、落ち着くのだわ。ここで魔力を暴発させても何にもならないのだわ」
「エルサ?」
姉さんの事で頭がいっぱいになり、今までのように魔力が体からにじみ出そうになった時、頭にくっ付いていたエルサが声をかけて来た。
冷静なエルサの声で、少しだけ落ち着いた。
「残ってる兵士はどうしてるんですか?」
「何人かは、牢にいる兵士を救出に向かっています。幸い、牢には奴らの手の者はいませんので。残りは今、陛下奪還のため集結中です」
「時間をかけると陛下の身が危ないかもしれません。皆さん、手を貸していただけませんか?」
「戦える者は少しでも欲しい現状です。奴らは手練れを揃えています」
モニカさんの問いに、ハーロルトさんとヒルダさんが答えてくれる。
戦力が欲しくて、俺達に助けを求めに来たという事だね。
「いくら手練れがいても関係無い。俺が姉さんを助けます」
「リクさん?」
「リク様……一人ではさすがに……」
エルサのおかげで少し冷静になった俺は、怒りで我を忘れそうになるのを堪えながら、皆に声を掛ける。
モニカさんは、今まで二度俺が魔力を溢れさせた所に居合わせた経験から、俺の魔力が暴走しないか窺うようにしているけど、大丈夫だよ。
「ハーロルトさん、俺達皆で助けに行きます。もちろん、残ってる兵士も含めてです」
「……わかりました。兵士達に伝達して来ます。英雄が参戦すると……!」
俺に頷き、頼もしい笑顔を浮かべながら、部屋を出て行こうとするハーロルトさん。
未然に防げなかった事を後悔してるみたいで、焦りも感じるけど……仕方ないだろうね。
「きゃっ!」
「む!」
「な、なに?」
「この揺れは……?」
ハーロルトさんが部屋の扉を開けた瞬間、城全体が揺れた。
地震……いや、そんなものじゃないな……城の内部で爆発したような振動だ。
「まさか、謁見の間で!?」
爆発が謁見の間で起こったのなら、姉さんが危ない!
そう思い、部屋から駆け出そうとした時、数人の兵士が走って来た。
「ハーロルト様! 城門が破壊されました!」
「何だと!?」
謁見の間で立てこもった次は、城門が破壊されただって?
一体何が起きてるんだ!
「城下町の上空から、多数の魔物が攻めて来ています! 城に張り付こうとした魔物は、魔法で撃ち落としましたが、街に降りた魔物達が大挙として城門へ!」
居間の揺れは城門が破壊されたのが原因なのか……。
「魔物達の中には強力な魔法を使う者もいます! それで城門を破壊された模様です!」
予想通りか……でも、なんでこのタイミングで魔物が襲って来たんだ……タイミングが良すぎるだろう……!
「くそっ! 街の住民は無事なのか!?」
「詳しくはわかりかねますが、魔物達は住民に目もくれず、この城を目指している模様です」
「……そうか……理由はわからんが、住民達への被害が少なければ良いのだが……」
ハーロルトさんは、城下町の人達を案じているようだけど、確かにそうだと思う。
それでも、さすがにゼロという事にはならないだろうけど……。
「ハーロルトさん……」
「リク様……?」
「お願いがあります。これは俺個人として、そして最高勲章を授与された者として、です」
「……英雄のお願いならば、陛下の命令に近い物になります、なんでしょうか」
勢いで勲章を出して言ってみたけど、そんなに効果があるものなんだ……最高勲章って。
まぁ、それならここは利用させてもらおう。
王都が大変な事になったようです。
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