魔物同士が争っている現場を発見
「その代わり、こうして目印を付けて行かないといけないわけだけど」
森を出る時は、戻ってくる時に俺自身が迷わないように、それから木々を斬り払って広場っぽい場所を作ったのと合わせて、回収を頼む兵士さん達の目印になるようにだ。
その事を話すと、ちょっとだけヴェンツェルさんは引いたようだったけど、ともあれ俺が進んだ道には回収できる魔物の積み重なっている、という事でこれからも目印を付ける事になった。
要は、一定の距離ごとに木を斬り倒すと。
もちろん距離を測る道具なんて持っていないし、歩数や目測で距離を測るような訓練はしていないため、適当だけども。
ちなみに、木を斬り倒さずに傷付けて印を付けようかとも思ったんだけど、加減が苦手なのと兵士さん達が印を発見する難易度が上がる事。
それによって注意が削がれて、魔物への警戒が薄れる可能性を考慮して、木を斬り倒してわかりやすくする事にした。
太い幹を持つ木を、印代わりと簡単に斬り倒すと断言した俺に対し、ヴェンツェルさんはともかく他の兵士さん達がかなり引いていたようだったけど……一番楽で、一番時間がかからないんだからいいと思うんだけどなぁ。
いやまぁ、それができるという事に対してっていうのは、わかっているんだけどね。
「でも、これって自然破壊になるのかなぁ?」
木を何本も斬り倒しておいて今更だけど、ふとそんな考えが頭をよぎる。
この世界では、地球のように木の伐採などの自然破壊から、温暖化現象などもないため何かを言われる事はないけど……。
ま、まぁ、木々が密集し過ぎているとお互いの成長を阻害したり、形がおかしくなったりとか、樹木その物も病気になったりするらしいからね。
間伐みたいなものだと思えば、悪い事じゃない……かな? なんて、自分を正当化しておいた。
「それにしても、リーバーはちゃんと俺の位置を把握していたんだね」
ヴェンツェルさん達と話し終えて、森に再び入ろうとするとリーバーが地上に降りて来て待っていた。
意気揚々と森の中に入ったのに、すぐに出て来て何かあったのかと思ったんだろう。
森に入った俺の位置を把握していたのかと聞いたら頷いていた。
……回転して気を斬り倒すとか、走りながら適当な間隔で目印代わりに木を斬り倒していれば、空からでも目立って追うのは簡単かな。
一応、オークと戦うまでと戦っている時も、把握していたみたいだけども。
「っと、そんな事を考えている間にお出まし……じゃないね。見つけた」
オークを倒した場所からさらに二、三百メートルくらい進んだ場所で、魔物らしき声が聞こえた。
耳を澄ませて声の聞こえる方に進むと、程なくして複数の魔物が集まっているのを発見。
「あれは……オークと、フォレストウルフだね。争っている?」
見つけたのは、先程も倒したオーク。
フォレストウルフは、以前ヘルサルで受けた冒険者ギルドからの依頼で森に入った時、遭遇していたから見間違える事もない。
その二種族の魔物が木々を挟み、俺から見て左右に分かれてぶつかり合っているようだった。
「一、二……オークの方が数が多いけど、フォレストウルフの方が倒れている数が少ない、か」
オーク二十体に対して、フォレストウルフは七体。
衝突してやられたんだろう、動かないオークがさらに八体、フォレストウルフは二体だった。
オークはどこぞのくっころみたいな事はないけど、繁殖力が凄いらしいから、例え俺がさっき近くで十体倒していたとしても、オークの方が多いのは不思議じゃない。
他にも似たような魔物はいるみたいだけど、とにかくオークとゴブリンは数体見たら、周辺に数十体いる可能性を疑え……と言われているらしい。
どこのゴの付く虫なんだか。
ちなみに数体というのは、基本的に単体で行動する事がないからで、もし単体でいるのを発見したらそれは、冒険者とかの人に討伐されかかって逃げ出したか、他の魔物に襲われているかららしい。
「まぁ、オークの事は置いておいて……森の中というのもあるのかな。フォレストウルフが優勢かな」
フォレストウルフは、さっき俺がオーク相手にやったように木々を足場にもしていて、縦横無尽に駆け回る。
対してオークは体はフォレストウルフより大きく、力も強いんだろうけど動きが鈍重なため、フォレストウルフの動きについていけていない。
しかも、連携という意味ではフォレストウルフに軍配が上がる。
これまで、復元された魔物や誘導された魔物等々と戦う事が多かったので、別種族とはいえ魔物同士での争いを見るのは不思議な気分だ。
レッタさんが原因な部分も多いけど、帝国が絡んでいる時は大体、複数種類の魔物が協力してかはともかく、お互いを襲わず人や街に向かって来ていたからね。
とはいえ、これが魔物としてのあるべき姿というか、通常なんだよね。
これまでがむしろ異常だったわけで……。
「っと、見入っていても意味はないか。どちらが勝つにしても、どちらとも討伐しなきゃいけないのは変わりないんだし」
生存をかけての戦いに、横から乱入するのは気が引けるけど……さっさと倒してしまった方が早い。
まぁ、通常なら漁夫の利みたいに、魔物同士の争いが収まるかどうかくらいで乱入した方が、相手にする魔物が減って楽なんだろうけどね。
それこそ、魔物がお互いで数を減らしてくれて、その後の戦いも楽になるだろうし。
「凄く急いでいるわけじゃないけど、一応今日中に人っぽい影を見たって所も確認しておきたいからね」
特別気になるという程じゃないけど、もし何か危ない事があるのなら、明日以降森に入る冒険者さん達のために見るくらいはしておきたい。
何かあれば、それで注意喚起できるかもしれないから。
冒険者さん達も、魔物と戦う以上危険がある事は織り込み済みだろうけど、それでもね。
「というわけで、さっさと片付けて……んー、フォレストウルフがいるから、双剣は止めておこう。とはいえ、数が多いから左手に何も持たないよりあった方がいいかな?」
双剣だと、オークと戦った時みたいに逡巡する事が予想されるため、使う剣は一つにしておく。
鈍重なオークならまだしも、フォレストウルフは素早いからちょっとした隙に噛み付かれそうだし……それでも大きな怪我はしないだろうけど、痛そうだから、精神的に。
ただ、借りた剣はショートソードが二本で、片手で扱えるというか両手では逆に扱いにくい物。
特に木々が密集しているこの場所では。
だから利き手の右で持つのは当然だけど、左手が余ってしまう。
まぁ、素手のままでもいんだけど、なんとなく寂しさを感じるのはさっき双剣を試した影響か。
「あ、そうだ……ん、っと。これでよし!」
一つの剣を木に立てかけ……るのは倒れそうだし、地面に突き刺して置いておく。
残った一つの剣を鞘から抜き、鞘の方の左手で持つ。
双剣スタイルと似たような感じだけど、鞘はあくまで予備的な物。
盾代わりみたいな物だね……場合によっては、鞘でぶん殴る事があるかもしれないけど、基本的には受けるための用意だ。
思いつきで、その場しのぎみたいなものだけど、もしフォレストウルフに噛みつかれそうになったら、左腕で受けるのではなく鞘に噛みつかせればいい。
なんて、安易な考えだったりする――。
いつもとは違う戦い方を、実践で試してみたいようです。
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