倒した魔物の処理は人任せ
「そういえば、倒した後の魔物ってどうしたらいいんだろう? ヤンさん達に聞いておけば良かったなぁ……剣とか、他の事に気を取られ過ぎてた」
そこらに散らかっている、オークの残骸。
この世界に来る前の俺が見たら、吐き気すら催しそうなくらいだけど……色々あって、というか基本的に俺が色々やって、こういうのには慣れたよね。
いい事なのかはともかく、気分が悪くならないうえ、臭いとかも我慢できるのは冒険者としては重要な事でもある。
「んー、穴を掘っていると時間がかかるからなぁ」
この先も魔物を見つけたら討伐するわけで、その度に穴を掘って埋めてとしていたら、時間がいくらあっても足りない。
そもそも、密集している木々の根が張り巡らされているわけで、オーク十体を埋めるような穴を掘れそうにない。
掘るのなら、木を切り倒すというか、根から掘り起こして取り除いてからじゃないと……。
「持って帰るのが一番いいんだけど、俺一人だと持てる量も限られているし……一人で来たのは失敗だったかな? というのは今更かぁ」
重さという意味ではなく、質量的な意味でね。
軽くても、運ぶための道具がなければ人一人が運べる量には限界があるから。
別に、魔物を倒した後そのままでいけないわけじゃないけど……血の臭いなどで他の魔物をおびき寄せる可能性も高いため、できるだけ回収、または埋める事が推奨されている。
「……よし、決めた!」
少しだけ考えて、オークの残骸をどうするか決める。
オークたちを倒し切ってから、血を振り払って収めていた二本の剣を、もう一度抜く。
そのまま、木々に当たらないよう左右に腕を真っ直ぐ伸ばして……。
「次善の一手と似たような要領で、あのスケートみたいな事をした時みたいに、グラシスニードルに魔力を通すような感じで……」
広げた両手の先にある、剣にそれぞれ魔力を通していく。
グラシスニードルよりもやりやすい感覚だったのは、慣れない靴の先に魔力を流すわけではないからかもしれない。
大体は、魔法を放つ時には腕や手から出る感覚でやって慣れているからね。
「こんな事をするなら、剣身の長さを調整できるあの剣を持ってきておいた方が良かったかな?」
白い剣なら、魔力を与えて放出モードにすれば剣身の長さを調節できて、簡単に薙ぎ払う事ができたんだけど。
まぁ、持って来ていないのは仕方ない。
今からやろうとする事を、前もって想定しておくのは難しかったし……想い付きだからね。
「……よし。それじゃ……はぁっ!!」
気合一閃、というわけではないけど、二つの剣先まで魔力が行き渡った後、両手を左右に真っ直ぐ伸ばしたまま、その場で回転する。
当然、剣は密集している木々に当たるけど、ちょっとした抵抗というか手応えを俺の手に返してくるだけで、回転を止める事はできない。
数秒後、一回転した勢いもあってか、俺を中心とした周囲の木々が大きな音と砂埃を上げて、外側へと倒れた。
ちょっとした広場の出来上がりだね。
「オークの残骸が木の下敷きになったり、剣が届いていないはずの木も斬れて倒れたけど……まぁいいか」
考え過ぎると、魔法を使わくても俺はやり過ぎてしまうのだと、何もできなくなってしまいそうだし。
「ただ、どうするにせよオークの上に木々が乗っかったままじゃ、後が大変だから……っと」
剣を鞘に収め、半径数メートルの広場の外側、俺が倒してそのままにしてあるオークの残骸に近付く。
ただ、当然ながら俺の腰より高い位置までの木が残っているので、ぶつからないよう注意しながらだけど。
ここだけは見晴らしが良くなったけど、木々の合間を縫って移動しなければいけないのは変わらない……実際は広場とは言えないかもね。
「よい……しょっと! うわぁ……」
オークの残骸を下敷きにしている木を、転がすようにどかして思わず呟く。
ただの肉塊になったそれらは、大きな木の下敷きになった事で潰れ、残骸というのも憚られるような物になっていた。
心臓の弱い人や苦手な人は閲覧注意、みたいな状態だ。
まぁ、それ以前に斬ったのは俺なんだけど。
「ふぅ、こんなものかな。それにしても……綺麗な断面だなぁ。俺がやった事だから、自画自賛になってしまうけど、他に人がいるわけじゃないからいいよね」
いくつかの倒木を動かして、一息ついてから木の断面を見て感心する。
ノコギリとか、斧で斬られたのとは違って一切のささくれなく斬られている、倒木の断面。
指先で触ってみると、豆腐のようなつるりとした感触だった……さすがに、豆腐みたいに柔らかくプルプルしてはいないけど。
そういえば、漫画か何かで凄い刀匠が鍛えた刀を凄腕の剣士が使えば、腕と熟練の技術が合わさって、大根を斬った直後に重ねるとくっつくとかんなんとか。
「確か……細胞を一切傷付けずに斬るから、重ねると元に戻るとかだっけ? まぁ、そこまでではないと思うけど」
使っている剣は一般的な物で、特に鋭い切れ味という程の物でもない。
それに、魔力を通して次善の一手の真似事はしているとはいっても、俺自身にそんな腕はないからね。
あと、両刃の剣であって刀じゃないし、刀匠が鍛えたわけでもない。
「そんな事より、さっさと用を済ませよう」
ちょっと試してみたい気持ちに駆られたけど、まだ森に入ったばかりでまだまだ奥とは言えない位置。
多分、入ってきた場所から数百メートル進んだくらいで、一キロも行っていないからね。
それに、倒した魔物もオーク十体程度だし……まだまだ奥には他の魔物もいるわけで、木を斬った理由を完遂するのは寄り道と言えるし、他の事をしている暇はない。
「それじゃ、さっさと戻ろう……んっ!」
足に力を入れて、森の奥ではなく外側へ向かって走り始める。
密集している木々が邪魔で、ぶつからないようにするのがひと苦労だけど、走る速度を落とせばなんとかなりそうだ。
そうして、来た道を逆戻り……ではなく、西側寄りに方向を定めて走って一旦森を出る。
途中、数十メートルおきくらいに目印のため、剣を抜いて気を切り倒しながら――。
「……まさか、そのままにしておいて良かったとは……。まぁでも、回収してくれるみたいだから、結果オーライという事で」
森を出て用を済ませ、再び森に入ってオークたちを倒した場所を通過しながら、独り言を呟く。
俺の用というのは、兵士さん達の所に行って倒した魔物の回収をしてもらえないか、と頼む事だった。
ただ、俺が来たという事でヴェンツェルさんが呼ばれ、少しだけ待ったりと時間を食ってしまった。
往復で三十分程度と考えていたのに、体感で一時間くらいかかったけど、それはともかく。
どうせ森の魔物を掃討するつもりなのだから、倒した魔物は放っておいてもいいというのが駆け付けたヴェンツェルさんの言葉。
魔物の市街には他の魔物が集まって来るわけだけど、むしろそちらに注意が向いている方がやりやすいとも。
とはいえ、魔物はそれぞれが色んな素材になるし、オークは食料にもなる。
容易に回収できるのなら、それに越した事はないらしいので、ヴェンツェルさんにお願いする事にした。
直接ヴェンツェルさんがというわけではなく、回収部隊を向かわせてくれるそうだ――。
魔物の回収はその後の利益にも繋がるので、できるならするに越した事はないようです。
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