森に入る前の下準備
「それじゃ、行こうかリーバー」
「ガァゥ!」
冒険者さん達をヘルサルに移送した翌日、朝食後に準備をしてリーバーに乗ってセンテからヘルサルに向かう。
ヘルサルに行った冒険者さん達は、今日は準備日として大きく活動しないようだ。
冒険者ギルドが依頼を出したり、それを受注したりとかもあるからね。
ただ俺は、先んじて森の魔物掃討に入る事になっている。
他の冒険者と一緒に、というのも経験してみたかったけど……とりあえず大まかに様子を見る事や、連携し過ぎても色々と突出し過ぎて、周囲の冒険者さん達に被害が出る可能性を指摘されたから。
主にエルサにだけども。
モニカさん達は、今日からまたエルサも一緒に解氷作業をやっており、ソフィーやフィネさんはヘルサルで他の冒険者と同じく森に入る準備をしている。
ちなみに、ソフィー達はヘルサルでは獅子亭に滞在しているんだけど、マックスさんの料理が食べられると喜んでいた……ソフィーにとっては一番の報酬かもしれない。
「空から見ると、ほんとに平和というか、魔物がいるようには見えないんだけどなぁ。まぁ、俺が大きな魔物を見慣れ過ぎたせいか」
「ガァ、ガァガァ」
ヘルサルに向かう途中、空を飛ぶリーバーから見下ろす森は何事もなく平和そのもので、呟く俺にリーバーが首を上下させて首肯している。
ヴェンツェルさん指揮の兵士さん達が、今も魔物が街に向かわないよう押し留めているらしいけど、そんな様子は見られない。
木よりも大きな魔物とかがいないのと、大規模な戦いに発展していないからだろう……これまでの大きな戦いで、そういった事に慣れ過ぎたから俺からはそう見えるだけなんだろうね。
そういえばヴェンツェルさんだけど、一昨日の冒険者移送の準備中にマルクスさんが直接ヘルサルに行って、説得した。
訓練ができなくなるのに予想通り渋っていたらしいけど、兵士の一部を冒険者と同行させて、補助をするついでに戦いの参考にさせてもらう、という約束をする事で納得したようだ。
まぁ、冒険者さん達だけだと無茶をして危険な可能性もあるけど、兵士さん達もいてくれればかなり安全に魔物を狩れると思う。
ウィンウィンな関係ってところかな……一部の冒険者さんは、何か監視されているような気がすると言って、少しだけ不満があったりするらしいけど。
とはいえ、センテでは別の兵士さん達とはいえ協力して魔物と戦っていた経験から、大きな問題にはならないだろうとマルクスさん達が言っていたから、大丈夫だ。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「はっ、承りました!」
「リーバー、少しの間だけおとなしくしているんだぞ?」
「ガァゥ」
ヘルサルに到着し、まずは冒険者ギルドに向かうためリーバーを門の衛兵さん達に預ける……さすがにリーバーは街中に入れないからね。
声をかけると、リーバーは了承したというように鳴いた。
物資の輸送でワイバーン達が活躍しているためか、衛兵さん達も慣れたもので数人でリーバーの世話を開始。
とはいえ手がかからないので、ほとんどが撫でたり水を上げたりするくらいだけど。
そんな様子を見て安心しながら、冒険者ギルドへと急いだ。
「失礼します」
「リクさん、お待ちしていました」
「……」
冒険者ギルドで、ほぼ顔パス状態で受付の職員さんに会釈をしつつ、奥に進んで部屋に入ると、ヤンさんとエレノールさんがいた。
エレノールさんは、静かにこちらに礼をするだけだったけど、すぐにお茶を出してくれる……俺が来るとわかっていたから、準備していたんだろう。
「ではリクさん、こちらを」
「はい……」
椅子に座って、出されたお茶を飲みながら少しだけ確認の話をした後、ヤンさんから差し出された書類。
依頼を受けるための物だね。
一応森の魔物討伐は冒険者ギルドからの依頼という事になっているから、既に話して決まっている事でもこうして確認、書類として残すのは大事だ、と思う多分。
「はい、確認いたしました。リクさんに必要かはわかりませんが、こちらで用意するものなどはありますか?」
「そうですね……適当な剣を、二つくらいですかね? あとは、森の地図……はないでしょうけど、大まかな地形や魔物の分布なんかも教えてもらえれば、やりやすいですか」
本来依頼を達成するために必要な物は、自前で用意するんだけど、他の冒険者さん達と違って俺が先んじて指名依頼として入るので、望めばある程度の援助がギルドからされる。
とりあえず、エルサからは魔法が使えない状態での戦闘に慣れるため、エアラハールさん程ではないけど白い剣を頼らないようにと言われていたので、持って来ていない。
だから、折れかけの剣とまでは行かないけど、とりあえずの剣を……もし折れてもいいように二つ。
最悪の場合は素手でもなんとかなるとは思うけど、個人的に剣で戦いたいためできる限り、無駄にしないように気を付ける。
それ以外にも、何度かあの森には入った事があるにしても、細部までくまなく探索したとかではないので、大まかな地形。
それから、魔物に関しても聞いておく。
「地形も魔物も、冒険者ギルドには情報がありますが……大分様子が変わっている可能性もありますね。剣はすぐに用意させますが、どのような剣が良いでしょうか? 魔法の効果とか……」
「あ、いえ、そこらのって言うのも変ですけど、あまり高くない剣で大丈夫です。魔法効果とかもない物で」
「畏まりました。それでは……そうですね、リクさんはこの後すぐ森に?」
「いったん獅子亭に寄ります。マックスさんには伝えてあるんですけど、食べ物を持って行こうかなって」
「成る程、長く森に入るのでしたら食料も必要ですからね」
長くとはいっても数日こもるわけでもなく、日が暮れる頃には一旦森を出てセンテに戻る予定だけど、お腹が空く事もあるから。
獅子亭では、昨日伝えておいたけどお弁当を作ってもらっている。
「それでしたら、すぐに情報を集めてリクさんが出発する頃に、剣と一緒に。最近森に入っている、兵士達から聞き取りをしましょう」
「わかりました。お願いします」
こうして話している間にも、すでにエレノールさんが退室していた……ヤンさんの言う、兵士さんからの聞き取りや、剣の手配に行ったんだろう。
仕事が早い。
その後、リーバーと合流する門で聞き取りをした情報や、剣を受け取ると約束して部屋を後にする。
冒険者ギルドの受付を再び通って、建物の外へ……。
「賑やかなギルドが返ってきた、って感じかな」
冒険者ギルドの建物内は、数日前クラウスさんと話した時のような閑散とした様子とは違い、多くの冒険者さん達で賑わっていた。
ほとんどが、センテから移送した冒険者さん達だけど、ヘルサルに残っていた冒険者さん達もいたようだ。
なんとなく、ヘルサルの冒険者ギルドが以前の姿を取り戻した気がして、少し楽しく成りながら獅子亭へと向かう。
道中、久々に会う顔見知りの商店主さんや住民の人達に、簡単な挨拶をしながら。
ちょっと挨拶する人が多くて、予想よりも遅れたけどとりあえず獅子亭に到着した――。
ヘルサルの人達はリクを過剰にならず温かく迎えてくれるようです。
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