冒険者ギルドとの協力
「すまんなリク殿、モニカ殿。アマリーラとリネルトを任せる事になってしまった」
「いえ、構いませんよ。それに、味方というか仲間は多い方がいいですから。これからの事を考えれば特に」
「私も気には……していないと言うと嘘になりますけど。二人共、魅力的な女性ですし、リクさんの近くにまた増えると考えると。でも、心強い味方であるともわかっていますから」
アマリーラさんと話すため、部屋を出て行ったリネルトさんを見送った後、頭を下げるシュットラウルさんに、首を振る俺とモニカさん。
途中、モニカさんがモゴモゴと何かを言っていたようだけど……多分、俺の近くに女性がとか、考えているんだろうなぁ。
これまではわからなかった事も、今はなんとなくわかるようになっている。
それは魔力量とかは一切関係なく、モニカさんを俺自身が意識するようになって、表情や仕草から、どう思っているかを俺自身が考えるようになったからだろうと思う。
この場では他の人が多くてさすがに言えないけど、アマリーラさんとリネルトさんは……その耳とか尻尾とかのモフモフは気になるけど、仲間としてであって女性として魅力的だとしても、気持ち的にはモニカさんしか見えていないよ。
と、心の中だけで伝えておいた……当然伝わらないけど。
いつか話す機会を持とう。
「そうだな。リク殿は、クランを作るんだったか。冒険者としての組織だから、私としては少々扱いが難しくなるが……帝国との事を考えると、私としても心強いな」
「はい。まぁ本来は表立ってどちらの国につくか、というのは言わない方がいいんでしょうけど」
「うむ。だが、誰にでも言いふらすとかでなければ問題ないだろう」
一応、冒険者ギルド自体は中立であって、戦争とか国同士のあれこれにはあまり関わらないようだけど。
ただ登録している冒険者がどうするかは自由意思だ。
とはいえ、シュットラウルさんの言っている通り、あまり大っぴらにするものじゃないし、登録してあるパーティ以外の人を誘ったりするのもご法度。
まぁ俺の場合は、クランを作って帝国についていると思われる他の冒険者や、使ってくるであろう魔物に対してだし、マティルデさんからの要請もあるため、グレーゾーンだけど咎められる事はなさそうだ。
あとは、どこかの国の味方をするためとか、戦争に参加するために人を集めるのではなく、クランを作ってその方針として帝国に対するからね。
こちらもグレーゾーンで結構ギリギリだけど、一応名目としては立つみたいだ。
あと、当然ながらクランに参加してくれた人でも、戦争には関わりたくないと言うなら強制する事はできないんだけども。
「センテもヘルサルも、両方のギルドマスターは承知して下さっています。センテでの事や、裏ギルドの事などもあって、リクさんのクランが帝国に対するのは賛成との事です」
「うむ、話は聞いている」
モニカさんの言葉に、シュットラウルさんが頷く。
センテのベリエスさん、ヘルサルのヤンさん、共に冒険者ギルド支部のマスター達だけど、俺がクランを作って冒険者を集め、帝国との戦争に参加する可能性についても伝えてある。
当然こちらも表立って賛成を公言できないので、ここだけの話になるけど。
あと、裏ギルドに関しては俺がレッタさんと話した後に、シュットラウルさん達が聞き出してもいた。
確定ではなくおそらくあるんだろう、という予想ではあったけどレッタさんの証言で、裏ギルドがあるのは確定。
さらに、帝国にある冒険者ギルドのほとんどがそれに関わっており、全てのギルド職員や冒険者がとまでは言わないけど、大半が関係者になるとの事だ。
というより、レッタさんのいた組織……魔力貸与された成功例の人達が所属していた組織の、下部組織みたいになっているんだとか。
完全にズブズブの関係と言えるだろう。
「あと、冒険者の出身というか、どこから流れてきたかですけど……」
「そちらも、マルクスと協力して手配している。まぁ我々だけでは不十分だから、冒険者ギルドにも協力をしてもらう事になっているぞ。センテはまだ外から人が入ってくる事はないから問題ないがな」
裏ギルドと帝国の関係の情報がレッタさんからもたらされた事により、アテトリア王国にいる冒険者も身元を調べる必要性が発生した。
基本的に冒険者は国境を越える時でもない限り、出身国やどの国で活動していたかは重要視されないし調べられない。
街に入るのも、冒険者カードで一応の身分証代わりになるし。
けど、帝国の冒険者ギルドがほぼ裏ギルドとなっている事で、帝国出身の冒険者や、帝国での活動歴のある冒険者を調べて、あぶり出さないといけなくなったわけだね。
センテにいる冒険者……ヒュドラー戦でも逃げ出さずに協力してくれた人達だ。
ここ数日でベリエスさんやマルクスさんが調べていたみたいだけど、その人達の中に、帝国出身などの冒険者は二人だけしかいなかった。
逆に、ヒュドラー戦前に逃げ出した冒険者や、その前のセンテが魔物に囲まれる前後で姿をくらませた冒険者の足取りを追うと、多くが帝国出身だったりこの国に来る前は帝国で活動していたとか。
とくに後者の、魔物にセンテが囲まれる前にいなくなった冒険者は、全員がそうだったとの事だ。
東から来るヒュドラーに対し、逃げ出した冒険者は西のヘルサルに逃げたみたいだけど、そちらはほとんど関係なかったとか。
まぁ、ヒュドラーは伝説的な魔物らしいから逃げ出したくもなるし、その前に皆と協力してセンテを守ってくれていた人達だからね。
ちなみに、すぐに連絡が取れるヘルサルの方では、一部の兵士さんが物資を運ぶワイバーンに乗ってセンテから戻っており、出入りする人を冒険者ギルドと協力して見張ってくれている。
という話をシュットラウルさんとした。
「ヘルサルの冒険者ギルドからは、我が国にある全てのギルド支部に通達を送るとの返答も来ている。冒険者達からは、少々反発があるだろうが……」
「まぁ、誰でも調べられるのは面倒ですからね。今までなかったのに」
「そうだな。だが、今のうちに膿をあぶり出しておかねば今後我々だけでなく、冒険者ギルドも面倒な事になってしまう恐れがある」
「真面目に活動している冒険者も、巻き込まれかねませんからね」
これまでなかった事、特に調べられるというのは疑いを掛けられているのと一緒だ。
だから、反発はあるだろうけどやっておかなきゃいけないんだろう。
シュットラウルさんは膿と言ったけど、いざ帝国と事を構える際、アテトリア王国内から工作でもされたら国だけじゃなく冒険者ギルドとしても、面倒では済まされない問題になりかねないからね。
当然、そのギルドに所属しているなんの罪もない冒険者も、下手をすると立場が危うくなるし。
帝国出身や活動歴のある冒険者が、全て裏ギルドに関わっているわけではないんだろうけども。
そんな風に、シュットラウルさんといくつかの確認の話をしつつ、リネルトさんがアマリーラさんを言い含める……というか、表向きは配下とかではなく仲間、という事に納得させてくれるのを待った――。
果たしてリネルトさんは上手くアマリーラさんを言い包める事ができるのか……。
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