別のアイシクルアイネウム発見
「ん~、馬みたいに鞍とか鐙とか、手綱なんてのもあった方がいいのかな?」
なんて、空を移動しながら小さく呟く。
とはいえ馬みたいに激しく揺れてお尻が痛くなるという程じゃないから、鞍は絶対欲しいわけじゃないけど……乗っている人が安定するために、手綱や鐙、特に手綱は欲しいところだ。
ワイバーンを御するためとかではなく、落ちないようにするために。
完全に、ワイバーンが空の移動手段として確立させていくとしたら、のような想像になって来ているけど、まぁ協力してくれる限りは安全の方がどちらにとってもいいはずだからね。
ワイバーンの数的に一般利用はできないだろうけど、それはともかく。
エルサみたいに、もし背中から落ちた場合に備えて結界を張っておく事もできないし……こうして飛んでいても、風が強くて油断すると危険だし。
なんにせよ、考えておくに越した事はなさそうだね。
「それにしても……本当に氷ばかりで何もないなぁ。俺がやった事だけど」
「ガァゥ」
思考を中断し、滑るように空を移動するリーバーの背中から地上を見下ろす。
センテを覆うドーム状の隔離結界からはそんなに離れないようにしつつだけど、街のある方と逆側は見渡す限り氷に閉ざされた大地になっていて、本当に何もない。
何度も見ているから、わかっていた事だけど。
「でもやっぱり、空の方が少しは温かいね。まぁそれでも寒いけど、結界が使えないから仕方ないか」
高度が何メートルなのかわからないけど、百メートル以上あるのは確かだ。
でも、地上からの冷気と離れた事で直射日光の温かさを感じられるくらいになって、むしろ温かい。
本来なら高度を上げれば上げる程、気温が下がって寒くなるはずなんだけど……寒さの原因が地面にあるから。
「ガァ?」
「いや、移動しているしあまり意味はなさそうだから。それに、合図に使う予定だから意味もなく使っちゃうと、他の人達が混乱しちゃうからね」
俺の呟きに、口を開けてほんの少し炎を出すリーバー。
多分、炎で温めようか? っていう事なんだろうけど、気持ちだけありがたく受け取っておくだけにしておいた。
一瞬だけ温かくなっても、移動しているからまたすぐに寒くなるし、ずっとリーバーが炎を吐き続けることはできないからね。
「ん、あれは……?」
しばらく、氷しかない地上を見下ろし眺めつつ空を遊泳。
他のワイバーンとすれ違う事もあったけど、皆アイシクルアイネウムや他の異常などを見つけてはいないようだった。
そんな中、視界の隅にちょっとだけ違和感を感じたので、目を細めつつそちらを見る。
「んー……なんとなく、光の反射がおかしいような?」
真っ白に凍てついた地面は、光を反射しているからだろう、空から見ていると輝くようにも感じる明るさなんだけど、その中で一部だけ少し違和感を感じる場所があった。
別に、そこだけ明るくないとか、影が差しているとか、そういう事じゃないんだけど。
言葉では言い表しづらいけど、とにかく何か光の加減とかがおかしい気がした。
「リーバー、ちょっとあっちに行ってみてくれるかい?」
「ガァ? ガァガァ」
指で方向を示して、違和感の感じる方へ向かってもらう。
隔離結界から少し離れたその場所は……街の北辺りだ。
センテの北側はほとんどいった事がなかったっけ、ヒュドラーと戦ったのは東側だし、フレイちゃん達を召喚したのは南側、ヘルサルへ行くなら西側だからね。
元々門のない方角だし、用がなかっただけだけども。
「んー?」
街から少し北に行った場所で、目を凝らす。
そうしてやっと、違和感の正体がわかった。
まだ距離があるからわかりづらいけど、光の反射がおかしいと思ったのは大きな何かがいるからだ。
「うん、多分間違いない。アイシクルアイネウムだ。リーバー!」
「ガァ!」
リーバーに言って、すぐにその場所へと向かった。
「やっぱり。でも動いていないな……あぁ、そういえばエルサが標的を探してからって言っていたっけ」
エルサの知識によれば、アイシクルアイネウムは発生して地上に出てから、まず先に標的を探す。
周辺には凍った大地以外、他に何もないので標的になる物がないため、動き出す理由がないんだろう。
とはいえ、上から見下ろす限り何も動きがないアイシクルアイネウムだけど、数十メートル離れた場所に大きな穴が開いていたので、出てきた場所からは少し動いているみたいだ。
まぁさすがに、標的となる何者かが近付いてくるまで、一切動かずそのままってわけはないか。
「それにしても、本当に形はその時その時で違うんだなぁ。腕が生えているだけなのはともかく、今回はちょっと気持ち悪い。氷だから半透明だから、まだマシだけど」
色もないので嫌悪感を催す程ではないけど、見下ろしているアイシクルアイネウムは、大きな胴体と思われる横長の氷から、無数の手のような触手のような物を出していた。
先が丸くて拳みたいになっているから、手に近い器官代わりなんだろう。
その無数に出た手は短いけど、数十を超える数が胴体の氷から生えていた。
氷だからか生き物っぽい動きをしてないから、単純な生理的嫌悪感が薄いのが救いかな……もしうにょうにょと動いていたら、もっと気持ち悪かっただろうね。
「とりあえず、あれをどうにかしようかな。リーバー少しこのままここで留まっていてくれるか? 終わったら、降りて来てくれ」
「ガアゥ!」
「ありがとう。それじゃ……」
威勢よく返事をするリーバーの首元を軽く撫で、アイシクルアイネウムの胴体を見下ろして狙いを定める。
やろうとしているのは、以前アメリさんを助ける時に飛んでいるエルサから飛び降りた時と、似たようなものだ。
あれの影響で、俺とは特定されていないけど空から助けが降って来るなんて噂になったりもしたっけ。
でも、今回は周囲に誰もいない……いるのはリーバーとアイシクルアイネウムだけだし、変な噂になる事もない。
あと、わざわざ地上に着陸してもらって背中から降りる、なんてしていると手間だしリーバーが寒いからね。
アイシクルアイネウムに向かう俺も寒いけど。
ともかく、地上で突っ立っている……というか、氷の地面に乗っかっている大きな氷の塊である、アイシクルアイネウムめがけて、飛び降りた!
「……人間って、空から落ちるようにはできていないんだなぁ。当然だけど」
結界などの魔法が使えないので、落ちている途中の姿勢制御なんて上手くできない。
人体で一番重い頭を真下に向け、手足をバタつかせた俺自身が、眼下にいるアイシクルアイネウム目掛けて急降下。
高高度というわけでもないので、数秒程度で激突、大きな音と共に破壊して周囲に氷を撒き散らした。
……頭が下になる状態を避けられそうになかったので、ちゃんと両腕でガードはした。
「これで衝撃は感じるけど、痛みがほとんどないっていうのは自分でもどうかと思うね」
アイシクルアイネウムとの衝突で勢いが削がれ、突き抜けたり突き刺さったりする事なく、地上に着地。
ガードするように、自分の両腕でガードした頭からだけども。
地面にぶつかった時よりも、アイシクルアイネウムと衝突した時にちょっとだけ、痛みを感じた――。
さすがのリクでも、全力でなければ落下の勢いで痛みくらいは感じるようです。
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