グロース・バリエーラの使用者
「レッタさん、現皇帝は同等な力を持つ相手と、正面からぶつかる事を良しとする。そんな人……じゃないですよね?」
「えぇ。そうだったら、もはや別人ね。ねじ暮れ曲がって、自分は絶対に安全。それでいて、自分以外を見下して使い捨てる。そんなゴミよ」
「それなら、確かにロジーナの考えが当たっているかも」
こちらの世界に来た当初の俺より魔力が多いとはいえ、大きく差は開いていないはず。
俺がどういう状況、というかエルサというドラゴンと契約したというのは、アテトリア王国に放った組織の人間から入る情報、それこそバルテルからの情報でもわかる可能性が高い。
クズ皇帝もドラゴンと契約しているのなら、尚更ね。
もしそんな俺とクズ皇帝がぶつかった場合、魔力の差で以前まではクズ皇帝に軍配が上がっていたかもしれないけど、ただでは済まなかったはず。
それこそ、怪我を負わせるくらいは間違いなくできると思う。
だけど、クズ皇帝はそれを嫌って、俺を必要以上に警戒をして帝国を覆う結界……グロース・バリエーラを使ったんじゃないだろうか?
「レッタさん、そのグロース・バリエーラは、いつ頃からの事ですか?」
「そうね……私がリクと会って、帝国に戻った時にはもうあったわ。まぁ、ロジーナ様と一緒だったし、絶望の淵に叩き落したい相手だからこそ、会いたくもなかったから日数をかけて戻ったけれど。あと……」
いつクズ皇帝が俺の事を知ったのかはわからないけど、レッタさんが帝国へと戻るまでの間……ゆっくり戻ったとしても大体一か月くらいかな?
時期的には合うね。
さらに言うなら、レッタさんは俺と初めて会う時までに、組織の人間として各所を回ってしばらくは慣れていたようだから、その間にドラゴンと何かしらの邂逅があって、契約した可能性が高い。
そうして、なんらかの理由でレッタさんが戻る前に、何らかの理由……多分ヘルサル防衛戦の影響だと思うけど、それで俺がドラゴンと契約しているのを知って、脅威と感じた。
実際に戦えば、どちらが勝つかなどの冷静な考えはせず、ただただ警戒して対策を講じるように動き出した、と。
バルテルが、しつこく姉さんに俺を取り込もうとしていて、姉さんが怒ったらしいけど、これもクズ皇帝と関りがあるのかもしれない。
ともかく、こうして辻褄が合うように考えてみると、やっぱりクズ皇帝はドラゴンと契約しているという方向でしか考えられなくなる。
ただ、どうしてドラゴンが動けない状況になっているのかが気になった。
動けないから他の誰にも話していないというのは、弱みを見せない、人を見下しているクズ皇帝としては、当然の動きのように思えるけどね。
「ドラゴンが動けなくなるような状況となると、やっぱり魔力が少なくなったから、とかかな? けどそうなると、それだけの何かをしているって事になるけど」
「……グロース・バリエーラだったわね。あれを、そのドラゴンが使ったからとは考えられない?」
「でもそれだったら、使った後は魔力が回復して動けるようになるはずなんじゃ……?」
本来は、魔力がドラゴンより低くて当たり前の人間に、ドラゴン側から魔力が供給されるみたいだけど、契約した人がドラゴンをしのぐ魔力を持っていたら、立場が逆転する。
多分、エルサの魔力を温存して、俺がひたすら魔力を消費した挙句、一時的に魔力量が減ったら向こうから流れて来る事もあるんだろうけど。
これまでは、俺もエルサも両方魔力を消費しているばかりで、そんな状況にはなった事がないけどね。
とにかく、もしグロース・バリエーラをドラゴンが使って魔力不足になったとしても、クズ皇帝から魔力が流れて回復するはず。
昨日今日の出来事ではないんだから。
クズ皇帝の性格から、魔力をドラゴンのためにとは考えなさそうだけど、これは契約によって強制的に行われるため、意思は関係ない。
「国を一つ覆う魔法よ? この国程じゃなくても、それだけの魔法を維持するには、相当な魔力が必要なはず」
「あ、そうか。結界もそうだけど、維持には当然魔力が必要だね」
ロジーナに言われて気付いた。
農地のハウス化をするため、俺が結界で覆った後クォンツァイタを使って、魔力を補充して維持できるようにしたのと同じく、グロース・バリエーラも維持をするために魔力を注ぎ続ける必要がある。
しかも、範囲が農地に留まらず一国……契約で魔力が流れる、ドラゴン自身の魔力回復を足して、良くて同等、もしかするとジリジリと魔力が減っている、と考えられるくらい維持に魔力を消費しているはずだ。
「なら、ロジーナの言う通りドラゴンが動けない状況になっていてもおかしくないね」
「えぇ。さらに言うなら、あれがそんなドラゴンを人目に晒すわけがないわ。もし何かあれば、魔法の維持が途切れる可能性もあるわけだし」
「小心者の現皇帝が、それを許容はできないよね。そうしたら、もしかすると俺とエルサが乗り込んでくるかもしれないから」
「想像だけど、それくらい無能で臆病なバカだからね」
散々な言われようだけど、帝国内でやっている事を考えるとやっぱり擁護する気は起きない……俺も相当な事を言っているのは自覚しているけどね。
まぁ、そのグロース・バリエーラも、やろうと思えば簡単に割れるくらい、それこそ以前の俺ですら割れそうな程度の脆さっぽいから実はあまり意味はないんだけど。
以前ユノやエルサに言われたけど、結界と同じ性質なら破ると使用者に知られてしまうから、警報機が割にはなるかもしれないけども。
ともかく、ロジーナと話して予想した内容が正しければ。
一つ、クズ皇帝はドラゴンと契約しているのは間違いない。
二つ、ドラゴンが結界と似たような性質のグロース・バリエーラという魔法を展開し、帝国全土を覆っている……もしかしたら、完全に覆っているわけではなく隙間くらいはあるかもしれないけど。
三つ、クズ皇帝は、とにかく自分が優位に立っていないと許せない性格らしく、同等の魔力を持つ俺を警戒しているし、許せないと思っているだろうという事
クズ皇帝本人に関する情報はこれくらいかな。
まぁあとは、レッタさんの事とか組織の事とか、話を聞いてわかった事などは多いけど……俺が一番気にしないといけない部分は、ある程度予想できる範囲まで絞れたと思う。
もしかしたら、まだ隠し玉を持っているかもしれないけど、一応は側近と言えるくらい近付いたレッタさんにすら悟られないように、ドラゴン以外の事まで隠せるほど、器用じゃない気もする。
ロジーナが隣にいる以上、今のレッタさんが嘘を吐くとは思えないし。
わからない事はわからないんだから、今気にしすぎる必要はないだろうね。
「んで、ここからは私の本題だけど……話していて本題になったけど、ユノ」
頭の中で俺がクズ皇帝に関してまとめていると、ロジーナがユノに顔を向けて真っ直ぐと見据え、声をかけた。
話していて本題になったというのは、ドラゴンとか色々とここで話すうちに、ロジーナの中で疑問とか聞きたい事ができたんだろう――。
レッタさんの話とはまた別の方向になりそうです。
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