母娘っぽいのが二組
シュットラウルさんと話していた執事さんからも話してもらったけど、アマリーラさんはセンテでの活躍もあるのでそれを知っている人や、今回協力した人達は特に問題ないだろうけど、その他の人達が……という事も考えられるとか。
貴族が私兵を持ち、さらに強い者を求めているので、ただでさえ陰でいろいろ言われているのがシュットラウルさんらしく、そういった事には執事さんがかなり目を光らせてもいるみたいだね。
まぁ、私兵を持つとか最近だとバルテルの例があるし、俺のイメージ的にも何かを企てている貴族がよく使うって気もする。
執事さんの心配はわからなくもない、かな。
「というわけでだ、レッタ殿の話は先にリク殿がしていてもらえないか? 私はもう少し話す必要がありそうだ」
「……わかりました」
執事さんとの話、アマリーラさんをどうするか考える必要があるので、俺だけで先に話をしていて欲しいらしい。
あと、いきなり権力者側のシュットラウルさんが行くのも、刺激してしまう可能性もあるし、もしレッタさんが何か不穏な事を考えていたらシュットラウルさんが危険かもしれない、という理由もあると後で教えてくれた。
刺激と言う意味では、俺もそうなんだけど……まぁ、危険って事はほぼないから気にしないでおこう。
「リク様! 申し訳ありません……私は必ず、必ずリク様の下へ馳せ参じますので、今しばらくお待ち下さい!」
「あはは……あまり無理はしなくていいんですけど……」
レッタさんの所へ行こうとする俺に、少しだけ正気に戻ったアマリーラさんから、意気込みを聞かされたけど……馳せ参じるって、レッタさんとの事じゃないよね? ただ話をするだけだし。
「……アマリーラ、まだ話は終わっていないぞ。というか、今リク殿についていくと迷惑がかかるだろう……特に、今のアマリーラはな」
「にゃっ!?」
お待ち下さいと言っておきながら、宿の階段を登ろうとする俺の後ろを忍び足で付いて来ようとするアマリーラさん。
それを、シュットラウルさんが襟首を掴んで止めてくれた。
少し正気に戻ったけど、ある意味正気ではないアマリーラさんがいたら、レッタさんとの話はややこしくなりそうだからね……仕方ない。
レッタさんが俺に何か言ったら、不本意ながらロリコンとか言われたら、逆に刺激されたアマリーラさんが何かしかねないし。
騒がしいシュットラウルさん達を置いて、今度こそ階段を上ってレッタさんのいる部屋へと向かった。
宿の人によると、今は二階の広めの部屋でユノとロジーナ、それからリネルトさんが見張っているらしく、長期間意識がなかった事などもあり食事を済ませたところだとか。
食事が終わった後ならちょうどいいし、待たせている感じにもならないから良かった……空腹だと、気が立っていたりするかもしれないからね――。
「どうぞなのー!」
「一応……失礼します」
レッタさん達がいる部屋の扉をノックし、中から元気のいいユノの声で許可をもらって入室。
部屋は、ベッドなどがあるのは俺達が浸かっている部屋と変わらないけど、複数人が使えるように少し広めで応接用らしきソファーがあった。
そのソファーに、入ってきた俺を見る目が八つ……レッタさん、ユノ、ロジーナ、それからリネルトさんだ。
何故か迷惑そうな表情をしているロジーナを、強めに抱き締めているレッタさん、その向かいにリネルトさんに抱き着いているユノが座っている。
……レッタさんはロジーナを信奉しているようだったから、まぁわからなくもないけど、何故ユノはリネルトさんに抱き着いているのか。
もしかしなくても、レッタさんに対抗しているとかかもしれないけど、あまり意味はなさそうだし聞かない方が良さそうな気がした。
それはともかく、雰囲気としては特に張り詰めていたりするわけでもないようだ、食後に談笑をしていたといった風ってところかな。
「リク様、下でアマリーラ様に捉まりませんでしたかぁ?」
「捉まったりはしませんでしたけど、むしろアマリーラさんがシュットラウルさんに捉まっていました」
「あはは~そっちですかぁ。アマリーラ様、懲りないんですからぁ」
ユノの頭を撫でながら、相変わらず間延びするような口調のリネルトさん。
リネルトさんがこの口調って事は、本当に和やかに過ごしていたみたいだ
ヒュドラー戦の時の、キリッとした話し方をするリネルトさんも凛々しかったけど、こっちの方がらしい気がして安心するね。
「ほら、リクが来たんだから離れなさいよ」
「いやです、ロジーナ様。私は何があろうと、ロジーナ様から離れません!」
「聞き分けがないわね……別に、部屋から出て行こうとしているんじゃないんだから」
嫌そうな表情のまま、と言うより本当に嫌がってロジーナがレッタさんに離れるよう言う。
けど、決して離さないという強い意志を反映させるかのように、ロジーナをさらに強く抱きしめるレッタさん。
見た目としてはやっぱり、初めて乗合馬車で会った時のような微笑ましい母娘にしか見えない……けど、実際は破壊神とその信奉者なんだよなぁ。
「あはは、ロジーナ子供みたい!」
「うるさいわね、子供みたいなのはユノも一緒でしょう! というよりも、ユノの方が自分から抱き着いていて、子供みたいじゃない」
「そんな事ないもーん」
笑うユノに、睨むロジーナ。
まぁどちらが子供っぽいかと言われれば、自分から抱き着いているユノの方だけど、こっちに飛び火しそうだから口には出さないでおく。
「駄目ですよぉ、ユノちゃん。ロジーナちゃんを挑発しちゃぁ」
「ふにゃ、えへへー。はーい」
さすがリネルトさんの和み時空……牛っぽい耳と尻尾を持つだけはある、というのは関係ないか。
醸し出される雰囲気とか、モニカさん以上に巨大としか言えない胸部装甲の影響か、今この場にいる人たちの中で一番母性という言葉が似合っている人はリネルトさんだ。
近くにアマリーラさんがいないため、気を引き締める必要がなくさらに緩んだ雰囲気を醸し出している、というのもあるかもしれないけど。
……最近のアマリーラさんは、俺のせいとも言えるけど初めて会った時みたいなキリッとした雰囲気はほぼないけどね。
ともかく、そのリネルトさんに頭を撫でられて、ユノは素直な返事をしてロジーナをからかうのを止めた。
見た目や性格はともかく、創造神を手玉に取るリネルトさん……恐るべし!
「くっ、私だって負けていないわよ! ほぉらロジーナ様、よしよし……」
リネルトさんに対抗しようとしたレッタさんが、母親のようにロジーナを包み込……んではいたけど、同じように頭を撫でる。
「だから、子ども扱いを止めなさいって言っているの! 話も進まないし……面白そうにこっちを見ていないで、リクは適当なところに座りなさい!」
「そんなぁ」
「ははは……」
さらに顔をしかめたロジーナが、力任せに振り払ってレッタさんから少し隙間を開けて座り直し、俺にも座るよう言った。
ソファーで、ロジーナに振りほどかれたてショックを受けるレッタさん。
そのやり取りに苦笑しながら、向かい合うようにユノ達の隣に座った――。
仲が良い母娘と仲が悪い母娘、という図式のようなそうでもないような……。
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