エルサに任せても良かった
「ふごっ!?」
「ふぅ……だわ。ようやく追いついたのだわ」
モニカさん達と話していると、突然俺の顔に何か柔らかい物がぶつかった。
視界が塞がれて、何が起きたのかと思った瞬間エルサの声……ぶつかって来たのはエルサか。
「エルサ……突然顔に引っ付くのは止めてくれ……」
「私を置いていくからだわ~」
顔に引っ付いた柔らかいモフモフ、エルサを手で摘まんでベリッとはがしながら文句を言うと、悪びれない答えが返って来る。
ようやく視界が復活したので見てみると、俺の顔面に引っ付いていたのはエルサのお腹だったらしい。
お腹のモフモフはふんわりとしているから、痛くなくただ柔らかいだけだったんだな。
それでも急にぶつかられると驚くし、何も見えなくなったけど。
「ごめんなさい、エルサちゃん。あれだけの勢いだったから……リクさんの事が心配で」
「リクがあれくらいで、怪我の一つもするような殊勝な人間なわけないのだわ。もう少し落ち着いた方がいいのだわモニカ」
確かに怪我はしなかったけど、その言い方はどうかと思うぞエルサ? あと、殊勝という言葉の使い方を間違っているから。
「それはともかく、だわリク」
「ん?」
俺が摘まんだ手から離れ、ふよふよと顔の前に浮かんで目を細めて俺を見るエルサ。
どうしたんだろう?
「結果的には良かったのかもしれないけどだわ、リクが飛び出さなくても、あんな氷の塊どうとでもなったのだわ」
「いやでも、モニカさん達の方にすごい勢いで滑っていたし……大きかったから、あの質量でぶつかったら危険だろう?」
大型トラックがかすんで見える程の巨体で、速度もあったからね。
まぁ、滑る速さはトラックの方が早いだろうけど、それはともかくだ。
物体が大きければ大きい程、運動量が増すわけで……ぶつかった時の力も増える。
単純に、大きな質量で人を押しつぶす事も簡単にできそうだったあの氷像だと、さっきの勢いで体当たりされるだけで大変な事になるのは、容易に想像できる。
「どれくらいの硬さかは、今になってはよくわからないけど……地面の氷と同じくらいだったら、街の外壁も破壊しそうなくらいだったし」
分厚い街の外壁は、当然簡単に壊れる物じゃない。
けどさっきの氷像であれば、体当たりで壊せるくらいの勢いと大きさだった……頭の中に、投石器で投げられる大きな岩が思い浮かんだけど、あれ以上だろう。
その場合、氷像の方が無事で済むかどうかはわからないけど。
「その程度問題ないのだわ。私がいるのだわ。ちょっと結界を使うだけで受け止められるのだわ。それか、こちらに来る前に破壊してしまえばいいのだわ」
「あ、そうか……」
モニカさん達と一緒に作業していたんだから、エルサがあの時氷像が向かう先にいたのも当然。
自分が魔法を使えなく泣ているのもあって、頭の中でその選択肢を消してしまっていけど、エルサの方は魔法が使えなくなったりはしていない。
大きくなるための魔力を温存していても、緊急事態だったし、エルサがなんとかしてくれたのか。
俺がやらなきゃ……って変に思い込み過ぎていたのかもしれない。
それこそ、氷像は俺が見た中で一番大きくなった時のエルサと、ほぼ同じくらいだったし……ちょっと頑張って巨大化して受け止めてもらう事だって、エルサにはできただろう。
「でも、さすがに結界は壊れそうじゃない?」
「一枚なら壊れかねない勢いだったのだわ。けどだわ、リクのせいで結界を重ねる事もできるのだわ」
「あぁ、そうか。そういえば……」
別に結界は必ず一枚の壁として発動しなければいけない、というわけでもないからね。
ロジーナと戦った時に何度も使ったし、それから俺自身も何度か使ったけど、一枚で防げないなら二枚、それでも駄目ならもっと重ねればいいだけだ。
多重結界だね。
「受け止める準備をしていたのだわ。それをリクが、横からぶち抜いたのだわ。頭から突っ込んでいったのは、思い出すと笑えるけどだわ」
「あの時はそれしかないと思って、ぶち抜くつもりはなかったんだけど。というか、頭から突っ込んだのか俺……でもそれじゃあ、俺のやった事って……?」
「結果的には無駄とは言わないのだわ。けどだわ、リクが地面にぶつかって何度も跳ねる必要はなかったのだわ」
「……」
ま、まぁ、エルサが魔法を使わなくて済んだんだし、皆も守れたわけで、結果オーライってやつだね、うん!
……今度からは、エルサがいる事をもっとよく考えてから行動しようと思う。
「結局、ここに来る時に魔力を使ってしまったのだわ。魔法を使うのとそう大差ないのだわ」
「え? もしかして、さっき俺にぶつかってきたのって?」
「魔法で加速したのだわ。この大きさだと、良くて人の歩く速度くらいでしか移動できないのだわ」
魔力の温存、という意味では特に変わらない結果って事か……うぅむ。
それなら大きくなるのは別として、小さいままで飛ばずに地面を走ればと一瞬だけ思ったけど、そういえば凍っているから、エルサの足が冷えちゃうな。
エルサなら問題なさそうに思えるけど、それを嫌って魔法で加速したのは間違いなさそうだ。
「エルサちゃん、今リクさんが頭から突っ込んだって言ったわよね? もしかして、リクさんがどう動いたのか見えたの?」
「もちろんなのだわ。リクが自分の足下を破壊して飛んで、そのまま真っ直ぐ氷にぶつかって突き抜けたのだわ」
俺自身、どうなったかわからず、離れて見ていたモニカさん達も見えなかったのに、エルサには見えていたのか。
人間より目がいいのは知っていたけど……この場合、動体視力もいいってところか。
俺がジャンプしてからの事はおそらくそうだろう、というだけだったのがエルサのおかげで確証に変わった。
「足下を破壊って、そんな事は……」
「ここからじゃ見えないけどだわ、多分小さいクレーターくらいはできているのだわ」
クレーターって……加減しているとはいえ、拳を打ち付けてもひび割れがせいぜいの氷の地面に、そんな事が起こるわけが……。
「あったんだなぁ……あまり意識していなかったけど」
「あれだけの勢いで飛び出したら、いくら硬いとはいってもこれくらいの事にはなるのだわ」
まさかと思って、バラバラになって積まれ散る氷像を確認しつつ、俺がジャンプした場所に戻ると、大体半径三メートル、中心部の深さ五メートルくらいになる円形のくぼみ……クレーターができていた。
こんな強さで俺は足を踏みしめたというか、ジャンプする時に力を込めたのか。
「ま、まぁあれだ、逆にわかりやすくて危険も少なそうだし、割れてるから融かしやすくていいんじゃないかな?」
「自分を正当化するななのだわ。まぁいいけどだわ」
とりあえず、作ってしまったクレーターの表面は、氷が細かく割れていて粒になっているので融かしやすく、それでいてクレーターというわかりやすい目印になっているため、間違って人が落ちる事も少ないだろう。
と、無理矢理安全だと決めつけて問題ないと判断。
もし近くで滑って転んで落ちたら、鎧を着ていない人は全身がズタズタになりそうなくらい、細かい粒がキラキラと凶悪に輝いていたりはするけど、見なかった事にしよう。
放っておいても、直射日光で融け始めているっぽいし――。
足の力は腕の数倍にもなる事があるようです。
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