危険な勢いで滑る巨大な氷
「氷が、氷を押しのけて現れるって、どんな現象なんだ一体!?」
その氷は、明確に生き物のような姿で地面から姿を現した。
形は、四角い氷から左右に腕と思われる物が二本、胴体と思われる部分の中央付近に丸い穴が三つある奥から、赤い光を反射させているようなので、あれが目だろうか?
凍った地面は、土やらなにやら色々な物が混ざっているんだけど、その姿を現した何者かは純粋で透明感のある氷だった。
「氷の、魔物ってところか?」
どう見ても人ではないし、何かがその形に凍らされた、というわけでもない。
まだ少し距離があるけど、遠目でも見えるその氷の中には何も不純物が混ざっていないから。
唯一、三角形になっている三つの目の頂点より少し上あたりの内部に、黒い土の塊のような物があるけどそれが凍ったからってあんな形になるわけがない。
「結構、でかいね……」
近づく程に、そしてまだ全身が表れていなかったのか、少しずつ地面の氷から出てくる氷……ややこしいので、氷像とでも言おうかな。
その氷像は、今地上に出ている部分だけでも既にキュクロップスを超える大きさだ。
それでもまだ少しずつ、地面から体? が出て来る。
「……!!」
「どう考えても、平和的な存在じゃない……よねぇ」
声ならぬ声……声帯があるのかどうか怪しいけど、何やら敵意を感じる空気の震えを発する氷像。
絶対、仲良くしようなんて意思はないだろう。
その氷像が、左右から生えた腕を地面に突いた。
「何を……? っ!!」
「……!! ……!!」
両腕で、体を持ち上げようとしているのか、先程までよりも地面から出て来る速度が早くなった。
そしてスポンッとでも音がする勢いの良さで、全身が地上に出てきた。
出て来たけどなんだろう、本当にただ四角いだけの氷、氷像としか言えない姿だった……いや、二つの腕は生えているけどね。
一瞬だけ、抜ける瞬間に地面から体がはっきり離れていたので、間違いなくあれが全身なんだろう。
「なんというか、気の抜ける姿だね。でも、大きい」
氷像の全身は、五メートル前後のキュクロップスを優に超えていて、十メートルはありそうだ。
ヒュドラーの方が、大きさとしては近いかもしれない。
体から生えている腕は伸縮自在らしく、上部に生えているのに地面に届かせる事ができている。
「でも、あの姿ならそうそう自由に動けそうにないし……今のうちに……!」
目のような赤い光を反射させている三つの穴が、ギョロっと動く。
獲物を定めているのかもしれない。
ともあれ、足もないみたいだから出て来た場所から動く事はできない、そう高を括って走る足に力を込める。
それが間違いだった……できるなら、一直線に氷像へ向かうのでなく、焚き火の方へ近付いておけば良かったのかもしれない。
「……!!」
「んなっ!?」
再び、声なき声を発するように空気を震わせた氷像は、両手で地面を押し、四角い体を滑らせて物凄い勢いで凍った地面を滑り始めた。
体が氷だからなのか、それとも魔物としての特殊な力なのか、でこぼこしている地面でも何も抵抗なく滑っている。
それは、射出と言っていいほどの勢いで……!
「っ……モニカさんっ!」
焚き火に集まっていた人達、現れた魔物を警戒していた人達へと向かって行った。
その中に、モニカさんがいるのに気付いて思わず声を上げる。
十メートルはありそうな巨大な体、抵抗なくとんでもない速度で滑る氷像。
出てきた氷像が体当たりをするつもりなのかはわからないけど、あの勢いで、あの質量の物がぶつかったらと考えると、焚き火どころか集まっている人達皆が簡単に弾き飛ばされるだろう。
ちょっとした車並みのスピードが出ているわけで……大型トラックに轢かれるよりも、酷い事になるのは簡単に想像できた。
それが一度に複数人であっても、止めるすべはなく、例え丈夫な鎧を見に付けている人が多いとしてもだ。
「くっ!」
方向を変え、すさまじい勢いで滑り続ける氷像、その進行方向途中へと走る。
悠長に走っていた自分への後悔と共に、頭に浮かぶのは俺がこの世界に来るきっかけとなった事故。
実際には、ユノが色々やって本当に轢かれたわけではないらしいけど、ぶつかる直前までの事は覚えている。
あれと同じ事を、兵士さん達に……何よりモニカさんに経験させるわけにはいかない!
「レッタさんの言う通りだね、ほんと。くっそぉぉぉぉぉ!!」
続いて思い出した、レッタさんの言葉。
やろうと思えばできるとか、本気でやれば、みたいな事を意識が乗っ取られる前に聞いた。
その言葉通り、もっとちゃんと俺が対処できるように動いていれば、今モニカさん達に襲い掛かろうとしている危険はなかったかもしれない。
あの時とは違って、魔法は使えないし凍った地面で思ったようには走れない、という条件があるにしてもだ。
「間に、あえぇぇぇぇぇぇ!!」
靴にグラシスニードルが装着されているのも忘れ、足に思いっきり力を入れて飛び出す。
自分を射出させるような、そんなイメージで足を地面に打ち付け、走っていた勢いに加えて全身のバネを使って、思いっきりジャンプ。
バンッッ! という、破裂するような音と共に、自分の体が空中に投げ出されるのを感じる。
その瞬間、景色が変わった……。
「っ!? くぅ!」
突然、何もない氷の地面だけが広がっている景色に移り変わり、ジャンプした勢いがなくなったのか、地面が近付いてくる。
そういえば、着地の事を考えていなかった……なんて思いつつ、地面への激突に備えて身を固くする。
「がっ、ぐべ! ごっ……ぐっ!」
何度も何度も、体を氷に打ち付け、跳ね、体に強い痛みと衝撃により口から空気と声を漏らす事数秒、ようやく止まって氷の冷たさを体に感じた。
うつ伏せ状態で、倒れているみたいだ……途中鼻を打ったのか、ちょっと痛いし冷たい。
「っ、あの氷像は……!」
体のいたるところから痛みを感じるけど、そんな事に構っている場合ではないと、冷たい氷に手をついて起き上がり、周囲を見渡す。
前方には遠くにセンテの外壁が見える……拳を打ち付けていた場所から西にある焚き火へ向かっている途中、北に氷像が出てきたのでそちらに向かい、さらに焚き火の方に滑っていた氷像に向かって飛んだのだから、当然か。
右には何もなく、ただただ凍った大地が広がっている。
左は……何やらモニカさんや兵士さん達が慌ててこちらに向かっている様子だね、モニカさんは無事みたいだ。
前、左右と氷像の姿が見えないという事は、後ろ……?
もしかして、ジャンプして通り過ぎたとかそういう事だろうか?
「……あれ?」
振り向いても氷像はどこにも見当たらず、点々とひび割れた氷の地面と、割れた氷が堆く積み上がっているだけだ。
えーっと……?
「あれぇ?」
あれだけ巨大な氷像だ、それなりに距離があったとしても見渡す限り凍り付いた大地になっている、この場所で見失うはずがない。
見る方向が違うとかならまだしも、キョロキョロと360度全方位を見てみても、さっきの氷像の姿は見当たらない……あれぇ?。
見失うはずのない巨大な氷が、どこにも見当たらなくなってしまっているようです。
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