アイススケートを二人で楽しむ
「ちょ、ちょっと不安定だから、しばらく支えてもらっていていい……かしら?」
「え、うん。それは全然大丈夫。気を付けてね」
「えぇ」
今度はモニカさんから俺の体に縋りつくようにしながら、バランスを取る。
ちょっとだけ照れくさい気もしたけど、モニカさんが転ばないようにする方へ意識を集中させる事にした。
それから少しだけ、軽く足を滑らせるようにしてみたり、氷の上を歩いてみたり……ちゃんと整備されたスケートリンクではない事や、スケート靴ではないために、滑ると言ってもそれなりに抵抗があって初心者にはやりやすかったんだろう。
俺もモニカさんも何度か転びそうにはなったものの、派手に転んだりはせず、ある程度コツを掴む事ができた。
とはいえ、地面を強制的に魔法で凍らせただけなので、デコボコしている部分に引っかかったり、靴が無駄に抵抗したりして転びそうになったりするのは、多少慣れもあるけど。
夜だし、足下が暗くて見えづらいせいもあるかな。
「ふふ、いつもと違って足を滑らせる事で移動するなんて、ちょっと不思議ね」
「地面は足を踏みしめて、歩く事が本来だからね。たまにはこういうのもいいでしょ?」
篝火に照らされ、慣れて歩くよりも少し早いくらいのペースで滑り、簡易的なスケートリンクを行ったり来たりしているモニカさん。
俺も、その横を滑ったり前に行ったり後ろに行ったり、転びそうになればお互いを支え合ったりと、アイススケートを楽しんでいる。
「えぇ、楽しいわ。気を付けないと転んでしまいそうだけど……ふふ!」
無邪気に笑うモニカさんの頬がさっきより紅潮しているように見えるのは、楽しさからだろう。
「これは、結界の外ではできないのよね? さっきのリクさん、リーバーにも頼んで色々していたようだし」
「そうだね……ちょっとくらいなら滑る事はできると思うけど、同じくらい滑ろう思ったら、やっぱり準備しないとね」
端の方でなら、表面を融かして同じように滑る事はできるだろうし、凍っているというだけで多少なりとも滑れるだろうけど、今のように滑るのは難しいと思う。
表面がほんのり融けている場所と、カチカチに凍っている場所の境目も曖昧だし……お湯を掛けてちゃんと水膜が張るように仕向けなきゃいけない。
「そうなのね。歩くより疲れないから、滑って移動すればもっと簡単に氷の上を移動できるかと思ったんだけど」
「慣れると速度も歩くより早いからね。気持ちはわかるけど……」
ただ、転ばないようにバランスを取っているため、普段の徒歩では使っていないような筋肉を使っているはずだ。
だから、長時間続けると徒歩とは違う疲れに襲われるだろうし、人によっては激しい筋肉痛に見舞われてしまうかもしれない。
まぁモニカさんもそうだし、鍛えている人達だからそのあたりは大丈夫かもしれないけど……他にも色々危険があるから、遊びの範疇で済ませておいた方が無難だろう。
ここは庭で、ちゃんと整地されている場所を凍らせているからいいけど、それでもデコボコしている部分もある。
それが街の外、隔離結界の外ともなると石や岩がゴロゴロしている場所だってあるし、そのままで凍っているから、尖っている部分も結構ある。
そんな場所で、歩くより勢いが付いた状態で転んだらね……。
場合によっては軽傷で済めば運がいい、と言える事だってありそうだ。
「だから、遊びは遊びとしてここだけで済ませておく方がいいと思うんだ」
簡単に考えている事をモニカさんに伝えた。
「そうよね、言われてみれば確かに危険だわ。リクさんがいなくなってからだけど、今日も滑って転んだ兵士の一人が、尖っていた氷で鎧がへこんでいたもの。ワイバーンの鎧とは別の鎧ではあるけど、それでも尖った氷の方は少し欠けたくらいだったわ」
「なんとなく予想していたけど、金属より硬いか同じくらいって事なんだ」
まぁ、俺やユノ、それとロジーナくらいしか氷を砕けないようだったから、かなりの硬度を持っているのはわかっていたけど……金属鎧をへこませる程とは。
そりゃ、転んで勢いがついて、体重も乗っかっているからとかはあるだろうけど。
次善の一手ならある程度なんとかなるだろうから、尖っている箇所を火の魔法と合わせて、潰していくのも安全のためにいいかもしれないなぁ。
「まぁでも、それならここでこうしてリクさんと滑って楽しめるのは、ちょっとだけ特別って事よね?」
「うん、そうだね。絶対に安全とは言えないけど、転びそうになったら俺がフォローできるからね」
今楽しんでいるのに、外でできない理由を話して水を差しちゃったかな? と思ったけど、モニカさんはモニカさんで特別感に楽しさを見出していたみたいだ。
「ふふ……さっき、私を抱き寄せたみたいに?」
「え……あっ!」
「ようやく気付いた。リクさん、さっき氷の上でバランスを崩した私を助けようとして、抱き締めたのよ? ふふ……」
イタズラっぽく笑うモニカさんに言われて、ようやく気付いた。
さっきのモニカさん……俺に促されて、グラシスニードルの付いていない靴で氷に乗った時、バランスを崩したモニカさんを俺は、引き寄せて抱き締めるようにして支えたんだった。
……なんとなく、モニカさんの顔が赤くなっているような気がしていたのは、それが原因だったのか!
今は、というか滑りに少し慣れてからは、楽しさとかで赤くなっていたんだろうけど……。
「いや、だ、抱き締めたというか……あ、あの時はモニカさんが転ばないようにって、そ、それしか考えていなかった、から……」
しどろもどろになりながらモニカさんに弁明する俺。
いや、別に責められているわけじゃない……よね? だから、弁明とかする必要はないのかもしれないけど、なんというか変な誤解をされたくなくて。
「わかってるわ。リクさんは優しいから、多分私じゃなくても引き寄せて支えていたでしょ?」
「それは……どうだろう?」
いたずらっぽい笑いを、自嘲気味な笑みに変えて言うモニカさん。
それを見ていて、素直に頷けなくなって首を傾げた。
でも、モニカさんの表情のせいだけでなく、モニカさん以外を支えている自分の姿が想像できなかったのもある。
「え? ソフィーやフィリーナとか……フィネさんとか、リクさんだったら絶対に支えると思うんだけど?」
「そりゃまぁ、一緒に過ごしている仲間だから……怪我はして欲しくないし……」
仲間だし、転ばないに越した事はないから、咄嗟に手を出して支えるくらいはするかもしれないけど……引き寄せるような事はしそうにない気がした。
まぁ、そもそもただ歩いているだけとかで、転ぶような事はほとんどないんだけど。
というか、何故その三人なんだろう……身近にいる人って事かもしれないけど、カイツさんもいるのに。
一緒にいる時間は短いけど、色々協力してもらっていて、グラシスニードルを試してもいたんだけどなぁ……。
というか、女性の名前だけ上げている事に恣意的な何かを感じるから、意図的に除外しているのかもしれないな――。
カイツさんはモニカさんにとってライバル足りえないという……。
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