グラシスニードルへ魔力を
「それに私、氷を扱う魔法が使えないもの」
魔法は呪文を自身の体と魔力に刷り込むようなもの……あくまで人間が使える魔法はだけど。
だから、魔法が使える人でも覚えていない魔法は使えない。
「あー、そういえばそうだったね」
「これまで必要がなかったかのよね。火を扱う方が旅をするには便利だし……焚き火をする際とか」
モニカさんは、得意としているかどうかはともかくとして、炎の魔法をよく使っているから氷の魔法はまだ覚えていなかった。
炎の魔法は、扱いを間違えなければ旅をする時に便利だし、そちらを優先していたようだから。
ソフィーが、魔法具の剣で氷の魔法を使っているから、役割分担的な意味もあるかもしれない。
……だからソフィーは、フィリーナ達と同じで地面を凍らせようとして疲れてもいたんだけど。
エルフと人間の魔力とかの違い以前に、モニカさんがフィリーナ達に協力できないわけだよね。
「まぁ、今からソフィーの持っている剣と同じような効果の魔法具を探すのも無理だし……協力できないのは歯がゆかったけど、仕方ないわ」
「確かにそうだね」
夜だし、センテは緊急性は低くても外と隔絶されたような状況で、新しい魔法具を探す余裕もなければ、売ってくれるところもほぼないと言っていいだろうから。
「それでリクさん、私の事はともかく……何をするの?」
話を変えるように言うモニカさん。
その視線の先には、宿に戻る前にエルサに頼んでもう一度凍らせておいてもらった地面が五メートル四方くらいに広がっている。
隔離結界の外程ではないけど、凍った地面のおかげと深夜なのもあって少し肌寒い。
庭には俺とモニカさんの二人だけ……ではなく、リーバーともう二体ワイバーンがいるので二人きりだけではない。
それはともかく、リーバー達は氷に乗らないようにしながらも、ちょっと興味深そうにしていたりする。
一体のワイバーンが丸まろうとしているのは寒いからとかではなく、滑って転がったらどうなるのか興味がそそられているからかもしれない。
さすがに、こんな夜中にボウリングを試す気はないので止めたけど。
「ちょっと思いついた事があってね。魔法が使えなくてもこれくらいは試せそうだし、変な事は起こらないはずだから今のうちにやっておこうかと思ったんだ」
「それで、この広さの氷? さっき皆と試した時より広いんだけど……そんなに必要なの?」
「そっちはまた別。楽しそうかなと思ったからなんだけど、とりあえず先に思いついた方を試してみるよ。一応、モニカさんも一緒にやってくれると助かる」
「え、えぇ。わかったわ」
モニカさんに答えつつ、しゃがみ込んで両足の靴にグラシスニードルを装着して準備をする。
要領を得ないけど、一応は頷いて従ってくれるモニカさんも同じくだ。
何もしなければ先に思いついた方は、皆でグラシスニードルを試していた時の氷で十分なんだけど……この際だからちょっと楽しめる事ができるかもって思った。
硬い氷は、グラシスニードルの平たいニードルでは深く突き刺さらなかったけど、それでも表面は傷だらけだったからね。
新しく整備というか、まっさらにする必要があったのと、どうせなら少し広めの方が楽しめそうだなぁと。
皆で試した時よりも倍近い広さだし、楽しむ方はほとんど経験のない事だから、これくらいで大丈夫だろう。
「よし。それじゃモニカさん、次善の一手と同じく靴に魔力を……俺は最初に試しただけだからあまり詳しくないんだけど、槍や剣だと刃に集中するようにするんだっけ?」
「え、次善の一手? そ、そうね。武器を持った手から、柄などを通して剣なら剣身、槍なら穂先に魔力を集中させるわ。まぁ、集めるというより、注入するという感覚の方が近いかしら?」
グラシスニードルがちゃんと固定されているのを確認しつつ、次善の一手についてモニカさんに聞く。
初めてユノから皆に教えられた時、俺も試してみたけど色々と危険過ぎて使用しないようにしていたから、感覚とかまではあまり詳しくない。
だからモニカさんに聞いたんだけど……俺の持っている剣に近いイメージかな?
あれは、剣身の外側が崩れて白い剣になってからも、放出モードでは持っている人の魔力を強制的に吸収する感じだけども。
吸収モードだと、逆に注入されている感じもあるから、もしかしたらこちらの方が近いのかもしれない。
要は、注入されるという感覚を反転させて魔力を流してやればいいんだ、多分。
「成る程ね。じゃあモニカさんも、次善の一手と同じくグラシスニードルのニードル部分に魔力が集中するようにやってみてくれる?」
「わ、わかったわ。……ちょっとだけ難しいわね」
頷いて、すぐに集中して魔力を扱ってくれるモニカさん。
だけど数秒ほどで眉根を寄せて、難しい表情になった。
どうやら、上手く魔力を流す……注入できていない様子。
それは俺も同じだけど。
「手からじゃなくて、足からになるだけでこんなに難しいとは思わなかったわ」
「俺もそうだよ。簡単に言ったけど、ちょっと難しいね。でも、普段から魔力を使い慣れているから……うん、できそうだ」
「そうね。私も魔法や次善の一手を使えているから、ちょっと戸惑ったけど……なんとか」
魔力の扱いに長けている、とはお互い言い難いけど……それでも魔法を使うために自身の魔力を操る経験はそれなりにある。
手と足での感覚の違いには戸惑ったけど、体内を循環するように巡っている魔力を、慣れている部位とは別の場所に集めるのは、コツさえつかめばなんとかできるようになった。
そのまま、深く集中してモニカさんと二人、足から靴、靴からグラシスニードルへと魔力を注入していく。
光ったりなど、外見的に違いがみられるわけではないから、本当に次善の一手みたいに魔力が流れているかは感覚に頼るしかない……と思ったんだけど。
「リクさんの足、なんだか薄っすら白くなってない?」
「え? あ、本当だ。ちょっと魔力が多過ぎたかな?」
モニカさんに指摘されて気付いたけど、俺の足……というか靴とグラシスニードルだね。
それらがほんのりと白くなっているように見える。
発光はしていないため、明りがあっても薄暗い庭ではっきり見えないしけど、間違いなく流した魔力の量が多く濃くなって、可視化されたからだろう。
魔法ではなく、純粋な魔力だから半透明や白く見えているんだと思う。
「うーん、これ以上魔力を減らすのは難しいかな? 慣れたら多分できるだろうけど……」
可視化されないくらいの魔力に抑えようとしても、調整がかなり難しい。
減らそうとしたら、魔力がグラシスニードルに行き渡らないし、少しだけと思っても魔力の注入に成功したら可視化されてしまう。
ゼロか百しかないみたいな感じだね。
ん? でも最低限でこれって事は、つまり魔力の出力が高い……つまり出口が大きいって事にならないかな?
俺がこれまで、魔法の威力が高すぎて失敗したのも、もしかするとこれが原因とか……?
何やらこれまでリクが魔法の失敗をしてきた原因の一端がわかりそうな……?
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