少しでも休憩時間を
「では、今ここで試した事と話した事を、親方衆へすぐに伝えに行って来る!」
「え、今から? でも、さすがにもう夜遅いし、休んでいるんじゃ……?」
グラシスニードルを靴から外し、立ち上がったソフィー。
本当にすぐにでも駆け出そうとしている。
早く伝えたい、相談して改良してもらいたいとか協力したい、という意気込みはわかるけど……さすがに今行くのは迷惑なんじゃ……?
「いや、問題ない。親方衆だけでなく、今センテの鍛冶師達が集まって、寝ずに作業をしているんだ。少しでも早く、リクの期待に答えたいとな」
「うぇ、俺の期待!?」
予想していない事を言われて、変な声が出た。
あ、エルサはこっちで話し込んでいたから、もう役目が終わったと俺の頭に戻ってコネクトした……おかえり。
「センテを救った事……まぁリクだけではないが、職人達は直接戦闘に参加できなかったからな。今が頑張り時だと張り切ってもいるんだ。リクが考案した物を作っている、戦うための物ではない、というのもいい刺激になっているみたいだな」
「それで、期待に……かぁ。無理はして欲しくないんだけど」
そもそも、鍛冶職人さん達には長引く魔物との戦いでの、兵士さんや冒険者さん達の装備……整備も必要だし、使えなくなったら新調する事だってあっただろう。
さらに急遽、ワイバーンの素材などなどを使った装備や、タワーシールドに皮を張り付けたりとかいろいろやってくれていたはずなのに。
直接戦ってはいなくても、後方支援役として、縁の下の力持ちとかみたいに、大きく貢献してくれていたのは間違いない。
その上さらに、寝ずにグラシスニードル製作なんて……無理し過ぎないで欲しい。
「まぁ倒れるような無茶は……するかもしれんが、大丈夫だろう」
「倒れたら大丈夫じゃないと思うけど……」
倒れても大丈夫とか、それはもう大丈夫の範囲を越えているんだよね。
「なんにせよ、グラシスニードルの使用感などはすぐに報せると言ってあるからな。待っているだろうし、すぐにでも……」
「……それなら、ソフィーも疲れているだろうから、少し休憩してからでもいいんじゃない? 早く作った方がいいかもしれないけど、緊急というわけでもないんだし」
「それはそうだが……」
なおも駆け出そうとするソフィーを引き留める。
あまり変わらないかもしれないけど、少しくらいはソフィーも鍛冶職人さん達も、休憩する時間くらいはあった方がいいんじゃないかと思う。
まぁ鍛冶職人さん達の方は、今も大量生産とか改良とかで忙しくしているかもしれないけど……ソフィーの報告待ちなら、全力で取り掛かっているというわけでもないだろうから。
「それに……宿の人に預けたけど、獅子亭から料理を持って帰って来たんだけどなぁ……?」
「な、なんだと……!?」
最終手段として、獅子亭の料理を持ち帰っていると言うとソフィーは、目を見開いて動きを止めた。
そんな反応になるんだ……引き留められるとは思っていたけど、ここまでとは。
それだけ、ソフィーが獅子亭の料理を好きだって事だろうけど。
「父さん達と一緒にヘルサルに行ったから、多分獅子亭で夕食を食べて来ると思っていたけれど、父さんや母さんがそれだけでリクを帰すわけもなかったわ」
「まぁね。――そういうわけだから、それを食べてからでもいいんじゃないかな? 後にすると、味が落ちるかもしれないし……」
モニカさんに頷いて、ソフィーに言い募る。
まぁ作ったのはマックスさんじゃなく、カーリンさん達だけど……それでも、数時間くらいで味が落ちるような料理じゃないんだけどね。
多分、明日の朝とか食べても十分美味しいだろうけど。
「そ、そうだな。せっかく作ってくれたのだし、味が落ちないうちに食べるのが礼儀というものだな。うむ」
誰かに言い訳をするようなソフィー。
長く見ても一時間程度の事だし、そのくらい休憩するのに言い訳とか理由はいらないと思うんだけど……ソフィーの中では重要なんだろう。
「私にもキューを食べさせるのだわー」
「はいはい、わかってるよエルサ」
ポフポフと俺の頭を軽く叩いて主張するエルサに答る。
そのまま、宿に入って夜食を……俺はお腹いっぱいだから食べないけど、ソフィーやモニカさん、疲れ果てているフィリーナやカイツさんを連れて……。
行く前に、少し思いついた事があったので、エルサにお願いして最後に一度だけ魔法を使ってもらった。
そういえば、モニカさんもフィリーナやカイツさんと同じく魔法を使い続けていたはずだけど、そこまで疲れている様子はなかったのは、どうしてだろう?
なんてちょっとだけ疑問に思いながら、魔法を使ってくれたエルサにお礼を言って今度こそ宿に入った――。
――夜食を食べるソフィー達を宿に残し、改めてモニカさんと一緒に庭へと出る。
エルサもキューを食べているし、魔力を使い過ぎて補給が必要なのか、カイツさんやフィリーナも宿で食事中だ。
モニカさんは、獅子亭の料理は食べ慣れ過ぎているからと言って俺についてきた。
夜中に食べると……というのも気にしているっぽい、モニカさんはあまり気にしなくてもいい方だと思うけど、下手な事を言うと藪蛇になってしまいそうだから、何も言わないでおこう。
「あぁ、それなら私も疲れているわよ? でも、私は氷を解かす作業の時だけだったから……フィリーナやカイツさんみたいに、宿に戻って来てから魔法を使っていないの」
庭へと移動する途中、さっき疑問に思った事をモニカさんに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
疲れているには疲れているけど、解氷作業の後は特に魔法を無理して使っていないから、フィリーナ達みたいになっていなかったって事みたいだ。
「成る程、だからフィリーナ達みたいに疲れていなかったんだね」
「えぇ。それに、地面を凍らせたままにするっていうのは、考えるよりも魔力が必要みたいだから。もし私がやっていても大して力になれなかったと思うわ。エルフだからこそ、ね」
地面を凍らせた状態にする。
言葉にすると簡単だけど、当然凍らせた直後から融け始めるわけで……グラシスニードルを試す余裕を持たせるため、少なくとも数分は氷を維持しなければいけない。
魔法は発動すれば、基本的にそこから魔力を注いで補強という事はできない。
結界みたいに、張られている間は魔力を消費し続けて維持されているようなのは除いてだけど。
凍らせる、または氷を作るような魔法は、維持する物ではなく発動した結果として、水が凍った氷ができる、他の物質が凍るため、結界とは違って維持する必要はない。
だから逆に、結界みたいに後からクォンツァイタを使ったような魔力を注いで、凍っている状態を維持する事はできないんだとか。
要は、融けずにグラシスニードルを試すくらいの硬さが保つくらい、強めに凍らせておかなきゃいけないわけで、それだけ魔法を使うための魔法が必要ってわけだね。
多分探せば、もしくは研究すれば結界のように後から魔力を注げるような魔法もできるかもしれないけど、現状ではフィリーナもカイツさんもそれはできないらしかった。
……エルサとか、俺みたいにイメージで魔法を使う事ができれば、話は別だろうけど――。
凍った物がそのままで維持されるというのは、結構大変な事のようです。
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