弱・中・最硬の氷
「リクも準備できたのだわ? それじゃあやるのだわ。まずは、薄く表面を凍らせるのだわー。……アイスボーデン、だわ~」
こちらを確認したエルサが、立っている俺達の目線の高さでフワフワ飛びつつ、顔を地面に向けて魔法を発動。
ただその魔法名、なんかアイスクリームが食べたくなる気がするんだけど、気のせいかな?
エルサからの要求、というわけではないと思うけど……俺の記憶のどこかから、適当な言葉を選んでくっつけたのかもしれない。
「ふむ、これくらいなら問題なく突き刺さって立っていられるな」
「まぁ私達がやれたのも、このくらいの氷だったわね」
早速とばかりにエルサが魔法で凍らせた地面に立つ、ソフィーとフィリーナ。
エルサの魔法は、ぬかるんでいた地面の表面を凍らせていて、それが大体一メートル四方のものを人数分作っていた。
それぞれで試せるようにしたみたいだ。
こういう魔法の使い方は参考になるかもしれない……俺だったら、皆が乗れるくらいの広さを凍らせようとしていただろうからね。
「土の地面よりは抵抗を感じるわ。突き刺さる、というより割るという感覚に近いかしら?」
「そうだね。パキパキと割れているみたいだ」
「表面だけだから、氷も薄くて割れやすいのだわ」
モニカさんが言っているように、ニードル部分は刺さるというよりも氷を割っているような感覚。
あれだね、寒い日に水たまりの表面が凍っていて、それを遊びで割るような感覚に近いかも……深い場所と知らずに踏み込むと、水浸しになるやつだ。
氷の下は水たまりではなくて、ぬかるんだ地面だから濡れる心配はないけど。
「次は、もう少し硬めにするのだわ。リク、足の裏……じゃないのだわ、靴の裏を見せるのだわ」
「ん? あぁ、わかった」
エルサに請われて、足を上げて靴の裏を見せる。
何やらふんふん言っていたエルサ……何を見ているんだろうか? 多分、グラシスニードルを確認しているんだろうとは思うけど。
「わかったのだわ。じゃあ次は、その靴の裏に取り付けた物の長さと同じくらいの氷にするのだわ。……フリーズボーデン、だわー」
少しして納得した様子のエルサ……あ、もう足を降ろしてもいいのかな、結構片足を上げたままって辛い。
俺が足を降ろすのとほぼ同時、別の場所に向けてエルサが魔法を発動。
それでも魔法名にボーデンが付くのは変わらないんだ……別にいいんだけど。
「ん……少し踏み込めば、奥まで突き刺さるか」
「そうね。さっきとはまた感覚が違うわ」
「……踏み込む時、力の入れ方を間違うと滑りそうではあるな」
再び、エルサが凍らせた部分に乗るソフィーとフィリーナ。
立てるくらいには回復したのか、今回はカイツさんも試している。
「きゃ!」
「おっと、危ない。気を付けてモニカさん」
「あ、うん。ありがとうリクさん」
カイツさんの言う通り、氷は分厚く先程よりも硬いため、足を降ろす角度によってはかなり滑りやすいためか、モニカさんが転びそうになったのを横から支える。
ちょっとだけ柔らかい感触があった気がするけど、多分気のせいだ。
そんな、少年誌のラブコメみたいな事が俺に起こるとは思えないし、モニカさんも特に気にした様子はないので勘違いだろう。
「真っ直ぐ足を降ろさないと、危ないみたいだね」
「そうみたいね……うん、今度は大丈夫」
グラシスニードルは地面との接地面が少ないので、力が横から入ってしまうと普段より滑りやすいみたいだ。
よくよく考えると当然か。
ともかく、真っ直ぐ上から足を降ろして、そのまま踏み締めるというか突き刺さるように力を入れると、滑らずに済んだ。
ソフィーも言っていたように、ちゃんと踏み込んで奥までニードルが突き刺されば、滑って転ぶ事もないだろう……やっぱりつま先立ちに近いので、不安定だけど。
「最後に、リクがやった硬さにするのだわ。ちょっと離れておくのだわー」
そう言って、俺達がその場から離れるのをフワフワ浮かんだまま待つエルサ。
これまでみたいに、簡単に凍らせるだけというわけにはいかないのだろう。
エルサでもちょっとくらいは気合を入れないといけないって、俺が凍らせた魔法ってかなりの物だったんだなぁと今更ながらに実感。
まぁ、深めに凍らせた二回目の氷は既に表面が融け始めているのに、俺が凍らせた地面は時間が経っても、日を直接浴びても融けないんだから確かに相当なんだろう。
上で焚き火をしたら、さすがにほんの少し表面が融けていたみたいだけど。
というか、それだけしてようやく表面がというのは……あまり考えないようにしよう。
「やるのだわ……スタークボーデンフリーズ! だわ!」
俺達が離れたのを確認したエルサが、少しだけ集中して魔法を発動。
魔力も練って濃くしたんだろう、青く可視化された魔力が周囲に広がり、エルサを中心にしてパキパキという音と共に円形に地面が凍って行った。
相変わらずボーデンが入っている……アイスクリームの作り方って、どうやるんだったっけ? 思い出せないというか知らないので、姉さんに聞いた方がいいか。
とりあえず今は気にしないようにしておこう。
「ふむ、外の氷とほとんど同じように見えるな。感触も……」
ソフィーが、エルサの凍らせた地面に触れ、ノックをするように叩いて確かめている。
「カイツ、私達の魔力が万全だったとしても同じ事は……?」
「できるわけがないな。先程までのならエルフが全力であればできるだろうし、数人で協力すれば範囲も広げられるだろうが……わかっていた事だが、魔法で敵わないとはっきり見せられるとな。まぁ何度も見てはいるが、笑うしかないなはっはっは!」
「そうよね。笑うしかないのは同意するわ。でも無理して笑うのはどうかと思うわよ? カイツはそんな笑い方しないでしょうに」
フィリーナとカイツさんは、何やら話しているようだけど、まぁエルサだからね。
「とにかく、リクとエルサ様だから、特別、特殊……異常? 突然変異? とでも思っておいた方がいいわ」
「……そのようだ」
ちょっと様子がおかしい、というかエルサの魔法を見て自信喪失なのかもしれないカイツさんを、フィリーナが慰めているみたいだ。
それはいいんだけど、異常とか突然変異はさすがに言い方としてどうかと思うよフィリーナ?
「か、かったいわね……ごめんなさい、リクさん。ちょっと支えててもらえる?」
「うん、わかった」
恐る恐る片足を氷に降ろすモニカさんは、簡単には突き刺さらないと見てか俺に支えられつつ、体重移動をさせていく。
氷の硬さから、さっきまでみたいに簡単にはいかず、突き刺さらなかった場合を考えての事だろう。
ちょっとだけ動揺したけど、表に出さないようにしてモニカさんを支えて見守る。
絶対に、モニカさんが転んでしまわないように注意するのに集中して。
「先が少しだけ、氷に刺さっている……のかしら? 多分、何もない靴よりは滑らないのかもしれないけど……」
「つま先だけしかニードルがないから、不安定だし仕方ないよね。多分、ちゃんとした完成品なら、もう少し安定すると思うよ」
硬い氷は、ニードルの先が少し刺さる程度でそれ以上は、どれだけ体重を掛けても無駄みたいだった。
エルサが凝らせた地面は、俺が凍らせたのと同じ硬さ……つまり、隔離結界の外の氷でも同じ結果が出るという事だ。
多分、深さとかは違うのかもしれないけど、氷に乗るというだけなら変わらないはずだからね――。
外の氷と同じ硬さにも、多少は有効なようです。
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