話は落ち着いて食事をしながら
「……リク殿がここにいるという事は、センテは無事なのだな」
少しだけ考えて、息を吐き出すヴェンツェルさん。
察しがいいというか、俺がいる事が無事な証というのはどうかと思うけど、まぁ本当に危険な状態が続いていたら、ヘルサルに来るよりも戦いに集中していただろうから、それも当然か。
「ま、まぁ、はい。一応、センテは無事で……被害はありましたけど、魔物の脅威は去りました」
「そうか。陛下と共に心配していたのだ。リク殿がいるはずの状況で、街が危険なのはなぜかとな……リク殿がいなくなった、という報告もあり、さらに戻ってきたとの報告も来た。王城では結構混乱したのだぞ?」
「えーっと……ご心配をおかけしました。色々ありましたけど、なんとか無事です」
やっぱり、姉さんも心配してくれていたんだ……という思いと共に、心配させてしまったなというちょっとだけの後悔が湧き出る。
そんな思いを抑えつつ、安心した様子のヴェンツェルさんに無事な事をアピール。
「リク殿の様子を見る限り、怪我もなさそうだ。一体、センテでは何があったのだ?」
「えっとですね……」
「待て待てヴェンツェル。まずは落ち着け。話をするのはそれからだ。俺やリク達もまだ食事をしていない。腹が減っていては落ち着いて話もできんだろう。それにそろそろ……」
「む……マックス?」
「はーい、お夕食ができましたよー……って、伯父さん! なんでここに!?」
獅子亭に入ってきたまま、俺に詰め寄るヴェンツェルさん。
センテでの事を話そうと思ったら、マックスさんから制止が入った。
ようやくマックスさんにも気付いたヴェンツェルさんが、動きを止めるのとほぼ同時に、厨房の方からカーリンさんが料理を持って登場。
ヴェンツェルさんを見て、持っている料理を落とす勢いで驚いていた……ここにいるとは、来るとは思っていないはずの人だから、そりゃ驚くよね。
危うく床に落ちてぶちまけそうになった料理は、フィネさんとマリーさんが素早く動いて支えて、傍にあるテーブルに置いてくれていた。
さすがの二人、というよりヴェンツェルさんの登場から、こうなる事をなんとなく予想していたのかもしれない。
「おぉ、カーリン! 無事か! うむ、無事だな! 良かった!!」
「ちょ、ま、伯父さん! 離れて、痛いし臭い!」
「な、なんだと……!?」
「はっはっは、ヴェンツェル、嫌われたな……」
大仰な仕草でカーリンさんの所へ突撃し、抱き締めるヴェンツェルさん。
よっぽど心配していたんだろう、しばらく離れていた伯父と姪だから、もしかしたら感動の再開のつもりかもしれない。
けど、残念ながらヴェンツェルさんはカーリンさんに嫌がられて、離れてしまった。
マックスさんは笑っているけど、臭いというのは結構大きなダメージになったんじゃないかなぁ? 金属の鎧を身に付けた、行軍スタイルのままだから痛いのは当然だし仕方ないけど。
ヴェンツェルさんがここに来たという事は、つまりマルクスさんの想像通り王軍を指揮して連れてきていたんだろう。
ただヘルサルまでの行軍中、まともにお風呂に入るなんて事もあるかどうかというくらいだろうし……体を拭くくらいはしていたとしても、鎧を着ていたら汗だって出る。
まぁ、臭くなるくらいはあるよなぁ。
「くっ……」
「まぁまぁ、その落ち込む気持ちはよくわかるぞ。俺も最近モニカに言われた事があるからな」
「マックス……」
何やら、落ち込むヴェンツェルさんをマックスさんが慰めて、わかり合っている雰囲気を醸し出す二人。
美しい友情のつもりかもしれないけど、傍目には大柄なおじさん二人が見つめ合っている姿で、しかも片方はガッチリ鎧を着こんで武装しているからね。
背中には鞘に入った大きな剣を背負っているし、なんだろうこれ?
というかモニカさん、マックスさんにそんな事言っていたんだ……お年頃の娘さんにとっては、中年の父親の臭いとかを嫌う傾向にあるなんて事は、よく聞く話ではあるけど。
「はいはい、そうやって暑苦しいからモニカもカーリンも、あんた達を倦厭するのよ。いいから、とにかく座りなさい! ほら、あんたもヴェンツェルも!」
「お、おう」
「マ、マリーか。う、うむ」
手をパンパンと叩き、マックスさんとヴェンツェルを座らせるマリーさん。
夫婦であるマックスさんはともかく、一応国のお偉いさんでもあるヴェンツェルさんにもそうやって接する事ができるのは、昔からの知り合いだからだろう。
モニカさんが生まれるよりも、ずっと前からの友人らしいからね。
あと、マックスさんとヴェンツェルさんは、俺やモニカさん、ソフィーの師匠になってくれたエアラハールさんの元弟子だし、同門みたいなものかな。
「それじゃ、まずは料理を食べるわよ! お腹が減っていたら、落ち着いて話もできないだろうからね。食べながらでもいいわけだし。ヴェンツェルの事だから、どうせお腹をお空かせているんでしょ?」
「子供の扱いのような気もするが……まぁそうだな。先程この街に到着してすぐにここへ来たから、腹は減っている」
「やっぱり、あんたは変わらないね。じゃあ……」
マリーさんの指示の下、店員さんやカーリンさん、それからルディさんやカテリーネさんも厨房から出て来て、テキパキと食事の準備が進められる。
ヴェンツェルさんの登場に驚いてはいたけど、すぐに動き出せる店員さん達は訓練されているというかなんというか……。
とはいえごちそうになるのに、ただ見ているだけも悪いと思って俺やフィネさんも手伝おうとしたんだけど、手は足りているから座って待っていなさいと断られた。
ヴェンツェルさん、マックスさん、それからフィネさんと俺が同じテーブルについて顔を見合わせ、なんとなく苦笑いをして食事の支度が終わるのを待つ。
「では、カーリンはずっとここで?」
「そうよ、伯父さん。私はマックスさん達がいない間、ルディさん達とこの店を守っていて……魔物の話とかいろいろ聞いたけど、それでもこの街には何もなかったわ」
「そうか……良かった」
食事をしながら、まずヴェンツェルさんが気にしたのはカーリンさんの事。
その様子を見ていると、姪のカーリンさんの事を娘のように可愛がっているんだなと思う。
まぁ、食事の邪魔にならないよう間にマリーさんが座っていたり、カーリンさん自ら離れた場所に座ったりもしていたけど。
……ヴェンツェルさんの臭いが気になって、とかではないと思いたい。
いや、確かに同じテーブルに座って近くにいる俺でも、ちょっとだけ汗臭い気がしなくもないけど。
エルサが鼻を押さえながら、カテリーネさんや他の女性店員さんが座っている方に避難していたりもするけど、あれは可愛がられてキューがもらえるからだと思いたい。
まぁエルサは、元々ヴェンツェルさんとマックスさんが揃った時の、暑苦しさが苦手でもあるからね。
「して、リク殿。カーリンの安全が確認できて安心したところで、センテでの事を教えてくれるか?」
ヴェンツェルさんにとっては、まずカーリンさんの事を聞くのが最重要だったようです。
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