ヘルサル側からも解氷作業を
アイススパイクはセンテの余剰分をヘルサルに持って来るよう求められた。
ヘルサルにも鍛冶職人はいるけど、農具なども含めて鍛冶職人の腕はセンテの方が上だからみたい。
既に作り始めているからというのもあるけど、センテでは農家などの要望に応えて農具を作っている鍛冶職人達は、確かな腕を持っているんだとか。
「とはいえ人手に関しては、不足しているみたいですのであまり無理は……」
解氷作業は、俺やユノ達みたいに氷を砕ければいいんだけど、基本的にそれができそうにないというのは、多分ヘルサル側のセンテから離れた場所でも変わらないだろう。
魔法で解かす必要がある以上、少ない人手の中からさらに少ない魔法を使える人に頼まないといけないからね。
「いえ、人手に関してでしたらすぐに解決する見込みですから。ヘルサル内の治安も……というより、しばらく馬鹿な事をする者は減るでしょう」
「え?」
「王軍が近くまで来ていますからね。魔物との戦いをするための援軍ではありますが、街を救うための作業もしてもらえるでしょう」
ニヤリと、あまり表に出さない方が良さそうな……いわゆる何か悪い事を企んでいる表情になった、クラウスさん。
もうすぐ王軍がヘルサルに到着するんだったか、それなら一部の兵士さんはワイバーンの鎧を使っていて、寒さに対する備えにもなるし、良さそうだ。
戦いではなくとも、復旧作業とかそういう事なら協力もしてくれるだろうからね。
それにしても……。
「だからって、そんな表情をしなくても。何か、悪さをしようと企んでいるみたいですよ?」
「おっと、これは失礼しました。王軍が来てくれる、というのは良い事ではあるのですが……なに、少々面倒な事が多くありましてなぁ」
「……この場にいるリク様達にでしたら、大丈夫でしょう。ギルドマスターも、承知している事でしょうし」
「私はまぁ、そういった事にも詳しくなる必要がありましたので」
面倒な事というのは、王軍が到着したらしばらくヘルサルの街で面倒を見なければならない、という事だとトニさんが教えてくれた。
王軍も荷駄隊でしばらく軍を維持できる、飢えないようには物資を持ってきてはいるけど、街での滞在中はその場所からの援助などが必要。
表に出す内容ではないため、基本は伏せられているけど……要は派遣するから面倒はそちらで見てねという事だとか。
まぁ、軍は規律がしっかりしていて、兵士さん達も好き勝手にするわけじゃないけど、泊まる所や食事などが必要なわけで、費用が掛かる。
もちろん、滞在する間の事でセンテが今も魔物と戦っているのであれば、すぐそちらに移動するし、移動した先が大変な状況で多くを求めたり強制的に徴収する事はないみたいだけど。
センテでも、街の北側が駐屯所として提供されていたり、食事などの用意もされているみたいだったし、わかる話だね。
あちらはシュットラウルさんがいたし、元々侯爵軍がいたため費用などはそちらが受け持ったんだろうけど。
ともあれ、そういった事での手続きや準備などがあって、クラウスさんは面倒だと言ったみたいだ……まぁ、通常であればやらなくて良かったとも言えるから、出費も含めて気持ちはわからなくもない。
「あまり大っぴらに不満を言うわけにも参りませんがね。ただ第一陣の際に増えた手続きが、さらに倍になって……」
「んんっ!」
「おっと、ついつい愚痴を言ってしまいましたな。申し訳ございません」
「ははは……」
トニさんのわざとらしい咳払いで、元の調子に戻るクラウスさん。
第一陣というのは、マルクスさんがセンテに来る前の事だろう。
それがさらに倍の手続きとか仕事になったのなら、愚痴りたくなってしまうものなのかもしれない。
ただでさえ、隣のセンテが非常事態に陥ってから忙しいらしいのに……というか倍になったって事は、もしかしてマルクスさんが連れてきた兵士さん達より、さらに多くが来ているとか?。
ま、まぁ人数については深く考えなくてもいいか。
「ともあれそんなわけですから、こちらは王軍に協力を仰ぎますのでご心配なく」
「わ、わかりました」
王軍であれば、魔法を使える兵士さんもそれなりにいるはずだろうからね。
ワイバーンの鎧と合わせれば、解氷作業もスムーズに進むだろうし、人手不足も解消できる。
しかも、かなりの人数と思われる王軍が留まっている中、治安に影響を及ぼすような犯罪をするようなのは、クラウスさんも言っていたようにただの馬鹿だろう。
ゼロになるわけじゃないけど、これで衛兵さん達も少しは楽になってくれる……かもしれない。
どこにでも、どんな状況だろうと悪い事をする人はいるけど。
「あと、これを陛下に……それから」
「はい、確かに受け取りました。必ずお届けするとお約束いたします」
解氷作業の注意点は伝えたし、人手や物資もなんとかなりそうなので後は任せるとして、マルクスさん達から預かっていた書簡をクラウスさんに渡す。
王城にいる姉さんに宛てた物と、クラウスさん宛てのもある……こちらはシュットラウルさんからだね。
他にも、ついでなので俺も姉さんに手紙を書いていたりする。
まぁ、無事だから心配しないでというくらいの、無難な内容だけど。
「クラウス様、こちらをハーゼンクレーヴァ子爵にお願いできますか?」
「ふむ、ここから北の領主様ですな。承りました」
フィネさんからも、フランク子爵に宛てた書簡が渡される。
こちらは、ルジナウム周辺の領主をしているフランク・ハーゼンクレーヴァ子爵への報告書みたいなものだね。
フィネさんの近況やら何やらと、ついでにコルネリウスさんがどうしているか、フランクさんの方の近況も効く内容になっている……というような事を、フィネさんが話していた。
「では、話さなけらばならない事も大体終えましたので……リク様」
「はい?」
「この後、食事でもしながらゆっくりお話などを……」
「クラウス様、やらなければいけない事が山積みです。ただでさえ、ここに来るのにも仕事を放りだしているのですから、そのような余裕はありません。行きますよ。――リク様方、これにて失礼いたします」
「あ、はい……」
食事を一緒に、という提案を仕掛けたらしいクラウスさんは、だがしかしトニさんに襟首を掴まれた。
そのまま、俺達に深く一礼をして部屋の外へと向かって行く。
「ぬ、何を……ぐぬぅ、リク様と楽しく話せるチャンスなはずなのに……!」
「……リク様は、これ以後もお忙しいであろうお方。クラウス様が邪魔をされては……」
言葉で抵抗しているクラウスさんに、注意をするトニさんの声が遠ざかっていく。
あぁ言っているけど、やらなければならない仕事があるのはクラウスさんもわかっているんだろう……本気で抵抗していたら、細身のトニさんが簡単にクラウスさんを引き摺って行けるわけないからね。
トニさんが、見た目以上に膂力がある人とかではない限り。
……巨大な斧をぶん回すアンリさんとかいるから、見た目だけじゃわからないけど――。
クラウスさんにはまだまだやるべき仕事が大量に残っているようです。
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