空から見下ろす景色
「でもエルサ、気にしないと言ってもリーバー達を置いて行かないようにな?」
「わかっているのだわ。それに、まだ以前みたいに魔力が戻っていないから、そんな事しないのだわ」
「それもそうか」
羽ばたき、ゆっくりと上昇するエルサに、念のため注意しておく。
空を飛ぶのが好きなエルサは、調子に乗ると速度を出し過ぎてワイバーンを置き去りにしてしまうかもしれないから、と思ったけど今はまだそこまでの速度は出せないみたいだ。
魔力を使い果しそうになって、手のひらサイズにまでなっていたから、すぐには完全に魔力が回復したりはしないか。
翼も、一番多かった時の十翼から今は四翼になっているし。
「それじゃあ、行くのだわー。ちゃんとついて来るのだわー!」
「ガァゥ!」
ドーム状になっている隔離結界の、頂点近くまで浮上したエルサがリーバー達に声を掛け、迂回するようにして移動を開始する。
隔離結界の上を飛ぶのでも良かったけど、高度を上げるのは移動するよりも魔力を使うらしいので、ちょっとした節約だ。
まぁ、センテ周辺の凍てついた地面を空から様子を見たかった、ってのもあるけど。
ちなみに、リーバー達とはあまり距離を離さないように一塊になって、エルサが全員を結界で包んでくれている。
浮上しながらリーバーが炎を吐いて、というか魔法だろうけど、結界内を温めてもくれていたから皆寒さに凍える事はない。
リーバーが炎を吐いた時、マックスさんが「うぉ!?」と大きな声を出して驚いて、マリーさんに笑われていたけど。
「こうして空から眺めると、壮観だな」
「そうですね……」
ゆったりとした速度でヘルサルに向かいながら、エルサの真横を飛ぶリーバーの背中から感心したような声を出すマックスさん。
自分でやった事ではあるんだけど、空から見下ろすとセンテの周辺が凍っているのがよく見える。
陽の光を反射してキラキラして見えたりもして、天気の良さもあってかなり明るい。
「しかし……森は大分減ってしまったな」
「まぁ……はい」
ヘルサルとセンテの間に広がる森だけど、マックスさんが言う通りかなりの範囲で凍ってしまっていた。
正確な大きさは把握していなかったけど、半分近くは木々がなくなっているんじゃないだろうか?
森を削ろうとかそういう意図はなく、ただ魔物が潜んでいたからこうなったんだけど……自分の意思があったかに関わらず、赤い光の影響なのは自覚して受け止めなくてはいけない。
とはいえ、マックスさんに返す返事はちょっと沈んだ風になってしまった。
「話は聞いているが、落ち込む程の事じゃないぞ? 森があれば、今回に限らず魔物が潜む。以前リクが遭遇したような、野盗も隠れられる。影響が全くないわけじゃないが、見晴らしが良くなったのはいい事でもあるだろうからな」
俺の返答を聞いてか、マックスさんが励ますように言ってくれる。
確かに、森があれば平原とかよりも魔物が棲み付きやすいし、野盗なども隠れ住んだり近くを通る人を襲うよう狙ったりもする。
ヘルサルとセンテを繋ぐ街道がすぐ近くにあるため、乗り合い馬車や行き交う人々が少しでも安全になったと考えればいい事かもしれない。
幸いと言うべきか、センテもヘルサルも森を頼りにした商売は少ないので、街への影響は大きくないとも言える。
林業とかはここらへんじゃなくて、他の地域の方が盛んみたいだからね。
「そうなんですけどね。でも……はい、良かったと考えるようにします」
「まぁ、リクが責任を感じるのは無理もないと思うが……少々真面目過ぎるきらいがあるからな。だが、あくまで俺が考えられる範囲ではあるが、センテやヘルサルへの悪い影響よりも、良い影響の方が多そうだ。魔物が減れば、一部の冒険者にとっては単純にいい事とは言えないかもしれないが」
「ははは、まぁ討伐依頼も減りそうですからね」
魔物が減れば当然そこからの被害は減るわけで、討伐依頼をこなす事で報酬を得ている冒険者さん達にとっては、いい事ばかりではないのかもしれない。
でも、マックスさんも言っているように、戦えない人達にとっては被害が出る確率は少ない方がいい、という事でもあるんだろう。
とはいえどうしても、俺としては自然を破壊とかそういう事を考えてしまうのは、地球でそういった問題に関する話を聞いていたからだろうか……。
俺自身が自然に対してこだわりとか、信念や主張みたいな事があるわけじゃないんだけど、自然は大事にという考えは浸透しているためか、忌避感がある。
とはいえ、マックスさんの言葉を受けてよくよく考えると、この世界には他にも広大な森林などがあって、自然が豊かなのは間違いない……俺がこれまで見てきた範囲でだけども。
空気汚染とかそういう事もなさそうだし、俺一人が深刻になって考える事じゃないか。
もちろん、これから先同じように森を削るとか破壊するなんて事にはならないよう、気を付けるために肝に銘じておかなきゃいけないけど。
マックスさんのおかげで少し前向きになった気持ちを大事にしながら、エルサの背中から見下ろせる地上の様子を目に焼き付けておく事にする。
……今は魔法が使えないから、やろうとしてもできないけど。
それでも、またいずれ使えるようになるみたいだし、考えておくに越した事はないよね。
「よし、エルサ。そろそろ……ん? あれは……」
マックスさんと話したりしながら、リーバーが温めてくれた結界内でゆったりとした移動をして少し。
ワイバーンを連れて、ヘルサルの門の目の前に降りるわけにもいかないので、少しだけ離れて降りようとした時、ちょっとした事に気付いてそちらに目を向けた。
「あれは冒険者のようね。ヘルサルに残っていた冒険者かしら? 魔物と戦っているみたい」
「そうみたいですね」
「まぁ、特に苦戦しているわけでもないようだから、問題ないだろう」
マックスさんとは逆の方から、エルサの横に付けたワイバーンから地上を見下ろしているマリーさんの言葉に頷く。
逆の方からも、マックスさんが同様にその光景を見下ろしている。
俺達が向かっているヘルサルの東門、そこから外壁に沿って南に少し行った先で、数人と魔物が戦っていた。
戦闘しているのは、外壁から少し離れているところだったけど、これだけ街の近くで魔物と戦っている光景を見るのは珍しかったので、ちょっと気になったというくらいだけども。
とりあえず、エルサやワイバーン達に言って地上に降りてもらいつつ、場所的に森から魔物が出て来たんだろうと、マリーさんやマックスさんと話す。
これまでも、こういう事がなかったわけじゃないし、今センテ側では街中は安全でも周辺では特級の異変が起きているため、魔物が逃げようとしてヘルサル側に来たのかもしれない、という予想を二人はしていた。
もしかしたらセンテから避難する人達が、ヘルサルに向かおうとするのを襲うための別動隊……森に潜んでいた魔物の残りがこっちに来ているのかもしれない。
レッタさんは全ての魔物を隅々まで操っていたという程ではないみたいだし、センテの西門はスピリット達が守ってくれていたみたいだから、弱い魔物が逃げ出してもおかしくないからね。
ちなみに、戦っている冒険者は熟練、という程ではなさそうに見えたけど危なげなく魔物を倒して行っているように見えた。
今は地上に降りたから、もう見えないけど……心配しなくても直に討伐完了するだろう――。
街の近くに来る魔物もいたようでした。
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