カイツさんは強制的にフィリーナの所へ
金属扉は、俺達が外で色々とやっている間に、兵士さんと職人さん達が頑張ってくれたらしい。
金属の扉は分厚くしっかりした物だったから、俺達がシュットラウルさん達とレッタさん事などについて話している途中も、作られていたんだろう。
意気込んでもいるみたいだし、これは予想より早くアイススパイクが完成するかもしれないね。
焚き火もできたし、場所が移ればユノ達が手伝えるし……少しずつ作業が早まっていく可能性が高いかな。
「GRAAAAU!!」
「ガァ、ガァ!」
「おぉーやってるやってる」
「悲鳴のようにも聞こえますが、喜んでいるようにも聞こえるのは、少し不思議です」
「リーバーはともかく、ワイバーンはなんか変な趣味を持っているのも多いみたいだからね……」
出入り口の扉の事を話しているうちに、宿へと到着。
建物を回って庭へと向かう途中、ワイバーンやリーバーの声が聞こえてくる。
リーバーは特殊らしくちゃんとした動物的な鳴き声に聞こえるんだけど、ワイバーンは人ならざる者、魔物の鳴き声だから感情とか何を言おうとしているのか全くわからない。
だけど、フィネさんが感じているように、慣れてきたおかげかなんとなく声の調子からある程度、感情的な部分はわかるようになってきていた。
まぁそうは言っても、怒っているとか痛がっているなどの喜怒哀楽がはっきりしている時くらいなんだけどね。
さすがに、細かい事はわからないから、今聞こえたのも喜んでいるのか悲鳴なのかが、判断に困ったりする。
……両方な気もしなくもないけど。
「あ、いたいた。カイツさん!」
庭に出ると、相変わらずワイバーンの皮を剥ぎ取るカイツさんを発見……慣れた様子で手早く採取しているような雰囲気だけど、その表情は怪しく笑っている。
いつの間にか、カイツさんもマッド的な感覚に目覚めてしまっていたのかもしれない。
とりあえず、なんとなくだけどこのままにしておいたら、ワイバーンと一緒におかしな方向へ行きそうだったので、割と強硬にフィリーナの手伝いをしてもらうため、隔離結界の外へ向かってもらう事にした。
もちろん、カイツさんはもっとワイバーンの研究をとか、空を飛ぶためには今ある翼じゃ不足しているはずで、魔力などをどう使っているのか調べなければ、なんてブツブツ言っていたけど。
そういえばカイツさんって、空を飛ぶ方法や魔法具に何かしらの転用はできないか、とかの研究もしていたんだっけ。
まぁでも、マッドな方向には突き進んで欲しくないので、宿にいる使用人さんにフィリーナの所へ送り届けるようお願いしておく。
ついでにフィリーナにも、今のカイツさんの研究する様子の報告もだ……俺達が言うより、フィリーナの方が説得というか注意するには向いているだろうからね。
「ガァ、ガァガァ?」
「あぁリーバー。後でまた用を頼むかもしれないけど、今はもう少し休んでいて」
「ガァ!」
使用人さん達に左右を固められて、連れて行かれるカイツさんを見守っていると、リーバーが自分には何かないのかと言うように鳴き声を上げてこちらを窺う。
手のような前足で、自分を指さしているから結構器用だ。
リーバーには他のワイバーンと一緒に、ヘルサルとの連絡役や輸送役になってもらうから、出番はもう少し後だ。
魔物との戦闘から、俺の救出と連続して疲れているだろうし、植物に力を吸われているからね。
今はもう少し休んでいてもらおう。
素直に返事をしてくれるリーバーと別れ、俺達はシュットラウルさん達のいる庁舎へと向かった。
「ふむ、成る程な。リク殿が魔法を使えなくなったのか……」
「それでしたら、ちょうどリク様に頼みたい事があります」
庁舎で、いつもの作戦会議などをしていた部屋ではなく、最初にシュットラウルさんと会った最上階の奥まった部屋で、魔法が使えなくなった事に関しての説明。
いつもの部屋は今、侯爵軍の大隊長さん達とマルクスさんの部下が集まって、色々話し合うために使っているらしい。
一番奥の部屋だけど、俺が庁舎に入った直後から兵士さんが付いてくれて、特に何も言っていないのに奥へと通された……王城でもそうだったけど、完全に顔パスになっているようだ。
まぁ、皆俺の顔は何度も見ているだろうからね。
ちなみに魔法に関する説明は、モニカさん達にしたのと同じく大まかに伝えたくらいだ。
門を開く条件とか、世界そのものや外の世界を繋げて……なんて事、話してもあまり意味はないし。
シュットラウルさんもマルクスさんも、俺が魔法を使えないと聞いて凄く驚いていたけど、エルサがいるし身体能力などもそのままだと聞くと、何やら安心した様子。
魔法なしでも、白い剣があればレムレースやヒュドラーとも戦えると思う、って言ったら顔を引きつらせていたけど。
「俺に頼みたい事ですか?」
話もそこそこに、魔法を使えないから氷を解かす以外にやる事があるかを聞くと、マルクスさんが頼みたい事があるとか。
俺にしかできない、とかなら伝令なりで呼び出していただろうし、頼みたいだけであって緊急だったりはしないようだけど。
「はい。リク様の伝言を受け取った後、侯爵様と協議をしていたのですが……ワイバーンの乗り手が少ないのです」
「ワイバーンの?」
俺の伝言というのは、ヘルサルだけでなく周囲の村などに現状を報せた方がという事だろう。
「周囲に報せなければ、という話は既にしていたのですが……」
俺が考えるまでもなく、シュットラウルさんとマルクスさんは既にそういった話もしていたらしい。
ともかく、マルクスさんが言うには、ワイバーンに乗って周囲に報せる信頼できる人が少ないのだとか。
緊急の駐屯地になっている街北では、兵士さん達に受け入れられてワイバーンも仲良く過ごしているみたいだけど、下っ端の兵士を報せに向かわせるわけにはいかないとの事だ。
まぁこれは、信用度とか権限とか色々と関わって来るそうで、ちょっと面倒そうだった。
そこで、ヘルサルという一番真っ先に報せを送らないといけない場所を、俺に頼む事でそちらに向かわせる予定の人を他に向かわせられればと、マルクスさんは考えたようだ。
「ヘルサルには、冒険者ギルドの者も同行するので、リクさんが一番適任かと」
「冒険者ギルドの……」
ヤンさんの事らしい。
昨日既に、大まかな事は連絡を取り合っていたみたいだけど、俺達が氷を解かす手伝いに出た後にもう一度冒険者ギルドと報せを送った際、ヘルサルに行くならとヤンさんも同行すると提案されたとか。
今日の報せに関しては、氷を解かす作業……アイススパイクの事や、焚き火をして寒さに対抗する案。
それから、ワイバーンを使ってヘルサルと行き来しつつ、連絡と物資の輸送などをする事などだ。
完全に閉ざされた状態になっているセンテは、ヒュドラーが迫って来ていた頃からヘルサルへ連絡を取れていないので、向こうの冒険者ギルドにも報せる必要があるだろうと。
だったら、事情を知っていてヘルサル支部のギルドマスターであるヤンさんが適任だから、という事だね――。
ヘルサルの冒険者ギルドの事ならヤンさんに。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






