起きた直後あるいは起きる直前のちょっとしたドタバタ
「つぅ……一体何が? って、エルサとモニカさん?」
「おはよう、リクさん。よく寝ていたみたいね」
「よ、ようやく離れられたのだわ。それにしても、痛いのだわぁ……」
痛みに耐えかねて目を開けると、ベッドのすぐそばからモニカさんが覗き込んでいて、何故か恥ずかしそうに視線をさまよわせていた。
それと、いつも俺の頭にくっ付けるくらいの大きさではなく、一メートルくらいの大きさになったエルサが、俺と同じベッドで悶絶していた。
「えっと……?」
「もうお昼よ。それだけリクさんも消耗していたんでしょうけど、ユノちゃんやロジーナちゃんも起きたから、リクさんもそろそろ起きた方がいいかなって」
「あぁ、ユノ達が。そうなんだ……」
どういう状況かわからなかったため、視線をさまよわせていると笑いながらモニカさんが教えてくれた……さっきまでの恥ずかしさは、もうほとんどなくなったようだ。
おそらくモニカさんだろう、開け放たれた木窓の外は明るく高い位置まで日が昇っているのがわかる。
寝たのは遅かったけど、昼まで寝るとは思っていなかったなぁ……意識はともかく、体がずっと寝ていなかったために、疲れが溜まっていたんだろう。
納得しながら体を起こし、ふと昨夜の事を思い出して恥ずかしくなりつつ、モニカさんと寝起きの挨拶をしながら話を聞く。
俺は恥ずかしくて正面から目を合わせられられないのに、モニカさんはもう平気なようだ……女の子は強い。
いや、単純に平気な振りをしているだけかもしれないけど。
それはともかく、俺が寝ている間にユノとロジーナが目を覚まし、昼までの間に色々とやっていたらしい。
とは言っても、大体は隔離結界の外、凍てついた地面の対処法をシュットラウルさんと話したりとかくらいだったみたいだけど。
あと、ロジーナからちょっとした事情聴取をしたみたい。
ユノがいたからか、レッタさんが捕まっているからか、全てではないけど質問には素直に答えているとか。
俺の記憶が確かなら、レッタさんにドロップキックを決めて吹っ飛ばしたのはロジーナだったと思うんだけど……ぞんざいに扱っているのかと思っていたけど、そうでもないみたいだ。
ともあれ、準備を整えて隔離結界の外に行く前に、俺からも一応の話を聞きたいとからしい。
それで、寝ている俺をモニカさんが起こしに来てくれたと。
「で、モニカさんが起こしてくれた理由はわかったけど……エルサはなんで痛がっているんだ?」
いや、ほとんど起きていた状態からの、顎への衝撃。
大体事情はわかっているけど……何故そうしたのかがわからない。
起こすならもっと穏便にしてくれてもいいのに、ユノがお腹の上に飛び乗るよりはいいけど。
「リクが私を離さなかったからなのだわ! 抜け出すには仕方なかったのだわ!」
「俺が?」
そういえば、ずっと極上の感触が腕の中にあって安らかな気持ちになれている、と思っていたけど……あれはエルサのモフモフを俺が抱き締めていたからなのか。
正直、この世界のみならず、地球を合わせても一番の抱き枕だと思う、おかげでよく眠れたし。
まぁエルサにとって、抱き枕扱いされるのは不服だろうけど。
「まぁまぁエルサちゃん。えっと、私が部屋に来た時の状況から話すけど……」
苦笑しながら、エルサの頭を撫で始めたモニカさんが教えてくれる。
なんでも俺がエルサを抱き締めて寝たまま、離さなかったらしい。
ガッチリと腕を組んでいて、モニカさんが解こうと手伝っても、エルサがジタバタと暴れても抜け出せなかったんだとか。
そういえば寝る前に、色んな感情やら衝動やらを抑えるためにエルサを抱き締めた覚えがあるけど……寝ている間中ずっと抱き締めたままだったのか。
抵抗されていたのに、起きなかった俺はよっぽど深く眠っていたらしい。
それだけ意識しないところで、疲れていたんだと思っておこう。
「そういえば、起きる直前にモニカさんとエルサの話し声がしたような……?」
「あ、あれは……」
意識が覚醒しかけていた時の事を思い出し、聞いてみるとモニカさんが気まずそうに視線を逸らした。
「モニカが、リクの寝顔に見とれていたからのだわ。私を助け出すのも、リクを起こすのも忘れていたのだわ」
モニカさんの代わりに、エルサが教えてくれた。
俺の寝顔、観察されていたのか……これまでもモニカさんに起こされた事は何度もあるし、寝顔は見られているだろうけど。
でも、今日はいつになく気恥ずかしさが湧き上がる。
……昨夜の事があったからだろうけど。
「そ! そんな事は……ない、わよ?」
エルサの言葉に、大きく否定しようとしたモニカさんだけど、すぐに勢いを失い、後半は自信がなさそうに疑問形になるモニカさん。
視線が泳いでいるから……エルサの言っている事が正しいのだろう。
「いい加減起きないし、モニカも起こす気を失くしていたから、仕方なく私が大きくなって抜け出したのだわ。物凄く痛かったけどだわ……」
だからあの衝撃か……。
俺の腕から抜け出せず、抱き締められていたエルサが大きくなって、俺の顎とごっつんこしたと。
衝撃が来る直前、瞼を通して感じた光やモフモフの広がりはそのためだったか。
そうまでしないと抜け出せないとは、俺のモフモフへの欲求は寝ている無意識化でもそこまで強く……! なんて考えている場合じゃないね。
「そ、そうなんだ。ごめんエルサ」
モニカさんに寝顔を見られていた、という恥ずかしさから復帰していない俺は、視線を泳がせながらもエルサに謝る。
エルサが寝ている時ならともかく、昼までずっと抜け出せない状況なのは辛かっただろうからね。
というか、顎に衝撃を受けた俺よりもエルサの方が長く痛がるって、俺の顎ってそんなに硬かったのか?
顎対頭……どちらも骨が硬い部分ではあるけど、頭の方が痛みが持続してしまいそうな部分だから、そのせいだと思っておこう。
「それじゃ、モニカさん。また食堂で」
「えぇ。エルサちゃんもお腹を空かせているから、できるだけ早くね。ユノちゃん達も待っていると思うわ」
「早くするのだわー!」
事情などを聴いてベッドから降り、支度をする俺と部屋を出るモニカさん。
その頃には、お互い恥ずかしさもなんとか抑える事ができて笑い合うくらいはできていた。
なんとなく、俺とモニカさんの間に流れる空気がいつもと違う気がするけれど、それは当然とも言える。
まぁ、そんな空気も読まないエルサに邪魔されたんだけど。
「……」
「どうしたんだ、エルサ?」
いつものように、俺の頭にドッキングしたエルサが、何やら静かだ。
朝の支度をほぼ終えて、後は部屋を出るくらいとなるまで特に喋れらなかったから、気になって聞いてみる。
俺から離れられずに、朝食も食べられなかったらしいからお腹が減っていて、もっと急かされると思っていたんだけどね。
「なんか、モニカとリクの様子がおかしいのだわ……」
「うぇ!? い、いや、別にそんな事ないと思うけど……いつも通りだよ?」
モニカさんがいる時は特に空気を読まなかったエルサなのに、妙な鋭さを発揮している。
驚いたけど、とりあえず誤魔化しておく。
でもエルサは、誤魔化されてはくれなかったみたいだ――。
空気は読まなくても、感じ取る鋭さは鈍らないエルサ。
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