植物に穴を開けて外の確認
植物を消し去った後に落ちて来るのが、ユノやロジーナのような、体が小さくて軽量ならモニカさんに一人くらいは任せてもいいかもしれないけど、ワイバーンもいるわけで。
かと言って、エルサもまだ魔力が万全じゃないから難しいと……。
俺から流れる魔力でエルサが回復するまで待つ、というのも一つの手かもしれないけど、時間がかかればかかる程、捕まっている人達が衰弱してしまう。
吸い取る力は少しずつだったはずだから、ただちに生死に拘わる事にはならないだろうけど、助け出しても動けなかったらいけない。
それに、時間が経てば経つ程力を吸い取るという事は、植物が維持できるだけの力を保持してしまう恐れもある。
できれば早いうちに植物を消して助け出した方がいいのは間違いない。
「となると……やっぱり、穴を開けておいた方がいいかな」
「穴? どういう事?」
「ほんの少し、外の様子を見る意味も含めて穴を開けておけば、先に対処しておけるからね」
「……穴から魔力を通して、結界を作るのだわ?」
「そういう事」
絡み合った植物によって、完全に内外を遮断されている今だと外側に結界を張る事はできない……魔力の通り道がないから。
でも、ほんの少しでも穴を開ければ結界を張る事ができるから、植物を消し去っても外からの熱気に襲われる事がなくなるはずだ。
ついでに、その穴から外の様子を見られるだろうし、要は覗き穴を開けようってわけだね。
決して、邪な理由で空けちゃいけない穴だ。
「えっと……ちょっと待っててね」
剣の柄に触れながら植物の壁に近付いて……抜くのをやめる。
魔力吸収モードだと、植物に残っている俺の力も吸収しちゃってしまうし、放出モードでも剣を突き刺せば穴が大きすぎる。
開ける穴は小さく、できるだけ外からの熱気が入って来ないようにするべきだ。
頭の中でイメージを固めて……。
「何をするの、リクさん?」
「こうするんだ。アイスニードル……っと」
こちらを見て首を傾げているモニカさんに示すように、手の平を壁にかざして魔法を発動。
指より少し太いくらいの氷の針を作り出して、植物の壁へと突き刺す。
そのまま貫き通すように、氷の針が伸びていく……結構、分厚いな。
「あ……」
「え? な、何かあったの!?」
「いや、問題はないんだけど、成る程なぁって」
氷の針の先を、魔法となった魔力を通して感じていると、壁を突き抜けた部分がすぐに溶けて行っているのがわかった。
思わず声を漏らす俺に、不安そうな表情になって焦るモニカさんに、大丈夫だと魔法を使っていない方の手を振る。
……そんなに心配しなくても、とは思うけどこれまで俺がやってしまった失敗を考えると、自業自得かなとも思う。
ともあれ、開けた穴の確認だね。
「うぁ、あっつ……確かにこれは、このまま植物がなくなっていたら危険だったね……」
魔法で作った氷の針を解除して、ピンポン玉より少し小さいくらいの穴を覗き込み、外を窺う。
覗き込んだ俺の目に当たる熱気と光景……赤熱してぐつぐつと煮えたぎり、マグマを彷彿とさせる地面。
植物がその地面に触れては燃え上がり、溶けてなくなるなどを繰り返している。
俺が力を吸収した影響だろう、植物その物は範囲を広げたりはしていないし、再生も止まっているんだけど地面の熱が段々と範囲を狭めて迫ってきているようにも見えた。
「これ、このまま放っておくだけでも、飲み込まれそうだね。結界だけじゃ不十分か……なんとかしないと。っと、モニカさん?」
「いえ、私もちょっと見てみたいと思って……」
「熱気が来ているから気を付けてね」
外を窺いながら考えていると、肩をポンポンと叩かれる。
穴から目を話して振り向くとすぐ近くまで来ていたモニカさん。
どうやら外の様子を確認したいらしい。
穴からでも多少内側に熱気が入り込んでいるけど、覗き込むと目に直接くるから一応注意をして場所を譲った。
「成る程、確かに熱気が……でも、外でワイバーンに乗っていた程じゃないわ」
「多分、植物を通して来るまでに、冷やされているんだと思うよ。そこの壁、だけじゃないけどひんやりしているでしょ?」
「確かにそうね。これまで触らないようにしていたから、気付かなかったわ」
穴を覗き込みながらぺたぺたと、植物の壁を触るモニカさんが不思議そうに呟いた。
今は植物自体に維持するだけの力しかないから大丈夫だけど、触れようとしたら茎などを伸ばして絡め捕り、力を吸い取る性質を持っているから触れなかったんだろうね。
それはともかく、あれだけの熱気があると結界だけじゃ心もとない……いや、重ねれば赤熱した地面に触れても大丈夫だし、熱気は防げるだろう。
けど、冷めるまでにどれくらいかかる事か。
俺達はワイバーンやエルサでそのうち脱出できるとしても、センテの人達が隔離結界の外に出られなくて困ってしまうだろう。
逆に、センテへ向かおうとする人もだ……魔物がいなくなったから、流通とかも戻さなきゃいけないのに。
「だとするとやっぱり、早いうちになんとかしておかないとね。モニカさん、エルサ」
「何、リクさん?」
「どうしたのだわ、ぐず……ズビー! だわぁ」
とりあえずやる事の順番を頭の中に決めて、モニカさん達に呼びかける。
穴から目を話してこちらを見るモニカさんと……相変わらず俺の服で鼻を噛むエルサ、まだ鼻水が出ているのか。
胸辺りにしがみついているエルサが俺を見上げると、鼻と服がでろんと鼻水で繋がっていた……この服、早く洗いたい。
「とりあえず、やる事の順番を考えたから……」
鼻水に関しては、心配をかけ過ぎてしまったからと仕方なく受け入れる事にして、これからの話をモニカさんとエルサにする。
まず結界を植物の外側に張って、俺達が熱気に触れないようにする……この際、外へ魔力の干渉ができるように隔離結界のようなみっちりと覆う形ではなく上方を開ける筒型にするのと、高い位置で空気穴を開けておく。
まぁ、植物が邪魔で上方は開けておくじゃなく、塞げないが正しいけど。
その後、植物を消して落下してくるはずの皆を受け止める。
落ちてくる勢いを緩めるため、下から風を魔法で送ろうかと思ったけど、今いる場所の空気が心配なので却下した。
植物が完全に外と隔離しているから、覗き穴くらいじゃ供給は望めないし結界でも塞ぐからね……落下してくる人の勢いを止める程の空気がそもそもになさそうだ。
なのでこれは、エルサに大きくなってもらってそのモフモフで受け止めてもらう事にした。
空を飛ぶほどじゃないけど、受け止める一瞬くらい大きくなるのならなんとかなる、とエルサからの返答もあったからね。
落ちて来る人達を受け止めたら、脱出のために外の熱気を払う。
要は、地面に残ったとてつもない熱を冷ますわけだけど、中途半端に大量の水をかけたら水蒸気爆発が起きそうで危険だから、もういっそ全部凍らせる事にした……その際のイメージというか魔法は、以前にも使った事があるから――。
一体を凍らせる魔法、一度だけ使って行こう使わなかった魔法をリクは思い出したようです。
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