攻撃をされる心配なし
本当のリクさんならそんな事をしないけど、今は偽物が意識を乗っているためか、こちらに攻撃をする危険性に怯えた様子のエルサちゃん。
それができるのなら、私もエルサちゃんと同じように怯えていたのかもしれない、と思うと偽物側についたように私を止めようとするのは理解できるわね。
「危険なんてないわよ、エルサちゃん。まぁ、周囲の植物が蠢いているから、もし近付いたら絡め捕られるとかはあるかもしれないけど……ここはこうしてリクさんの体のために空間が空いているから、壁になっている方に近付かなければ問題ないわ」
大きく、広がるためなのか、周囲の植物は茎と葉を今も動かしている。
草原の草花や、森の木々が風に揺られているのとは違い、まるで意思を持っているかのように不自然な動きをしているから、蠢いているという表現がぴったりね。
ただ、ここに来るまでと違って壁になっている植物は、私達の方に伸びては来ない。
きっと、リクさんが……力の源であるリクさんの体があるこの空間を、維持するためなんだろうと思うわ。
近付いたら、その限りではなさそうだけど。
「そ、そうかもしれないけどだわ。リクが……表面の意識に出ているのが、私達に敵意を向けて攻撃でもしたら、危険過ぎるのだわ」
「安心してエルサちゃん。あの偽物が私達を攻撃する事はできないわ」
開いている片方の手で、エルサちゃんを撫でながら安心させるように言ったわ。
……小さくなっても、リクさんが好きそうなモフモフは健在なのね。
知っていたけど、やっぱりエルサちゃんのモフモフは心を穏やかにさせてくれる……だからって、偽物に対する怒りが完全に収まったわけじゃないけど。
まぁ、我慢しきれずに爆発なんて事にはならないくらいにはなったかしら。
「っ!」
「ど、どういう事なのだわ!?」
私の言葉に、目に見えて動揺する偽物。
エルサちゃんも動揺しているけど……これは、私の言葉の意味を計りかねているだけね。
偽物の方はちゃんと意味がわかっているんだろうけど。
「さっきから、動いていないのがその証拠。よく考えてみて? 魔物も人も関係なく、全てを飲み込もうとしているはずなのに、私達はまだこうしていられるわ。それは隔離結界のように、リクさんの本当の意思が私達を守ろうとしているからじゃない」
「……確かにおかしいのだわ」
「本当に、さっきの言葉通り魔物も人も関係ないと思っているなら、リクさんの振りをする必要すらないのよ。私達を騙そうとする前に、さっさと排除すればいいだけなんだから。ちなみに証拠は、偽物の同様ね。さっきから目の色が、目まぐるしく変わっているわ」
「……っ!」
ほら、私の言葉にまた動揺した。
青い目が黒い目になり、黒い目が青い目になる。
さっきまで、ジッと見ていないと見逃しそうだったのに、今は黒い目になった瞬間がよくわかるわ。
ただ……見開いて私を見ているその目は、青い目だと驚きや焦燥などの動揺が見て取れるけど……黒い眼の時はそれよりも怯えが見え隠れしているのは、なんだか納得がいかないけど。
もしかして、リクさんが私を怖がっているとかかしら?
リクさんに注意した時とか、何度か同じ目をしているのを見た事があるけど……。
本当のリクさんを取り戻したら、ちょっと問い質す必要があるかもしれないわね。
「本当に、モニカの言う通りなのだわ。目の色がさっきよりも、はっきり変わっているのだわ。確かに考えてみれば、こうして話をしているだけでも不思議なのだわ。リクの体なら、邪魔をする私達をさっさと排除すればいいし、できないわけがないのだわ」
ようやく、エルサちゃんも理解したみたいね。
今リクさんを乗っ取っている意識……いえ、リクさんの体そのものが動けない事を。
私達にその力を向けられない事を。
「私やエルサちゃんだから、という楽観はできないわね。言葉通り、リクさんの体を使っているのは青い目の意識みたいだから。リクさんの意思じゃない以上、私達を守ろうとかそういう考えはないはずよ」
リクさんの意思が関係しないのなら、私達は邪魔者だから余計な事はせず、守ろうなんて考えも一切ないはず。
「もしかしてだわ、ユノ達が捕まった事や、モニカに対しても絡め捕ろうと伸びてきていたのは……偽物とは別なのだわ?」
「それも多分そうね。私達を狙って来ていたから、意思が介在しているようにも感じたけど。でも、よく考えてみれば、フィネさんの斧にも反応していたのよ」
思い出すのは、ロジーナちゃんを助け出すために突入する直前の事。
フィネさんが投げ込んだ斧は、ロジーナちゃんが捕まっていた場所の下に突き刺さって再生を阻害していたけど、植物はその斧も絡め捕ろうと茎をのばしていた。
とにかく、内部に入った異物を絡め捕ろうとするかのように……。
「つまり、防衛本能のようなものかしら? 植物に意思があるのかはわからないけど、入り込んだ物をとにかく捕まえる、ただそれだけの事」
「……成る程なのだわ。大きく広がり魔物や人を包み込み、そして内部に入った物をとにかく絡め捕って力を吸い取ろうとする。それは、偽物が操るとかそういうのではなく、ただの特性や性質だったって事なのだわ」
力の源、発生の原因である偽物が植物を操っているのではなく、ただそこに発生させて必要な力を与えているだけ……だと思うわ。
それを証明するように、私とエルサちゃんが話して解き明かす程、偽物が動揺しているのが手に取るようにわかる。
だって、目の色が変わるだけじゃなく、その目をあちこちにさまよわせているから……目は口程に物を言う、というのはリクさんだったかエルサちゃんから聞いた言葉だったかしら。
「くっ……あは、あはははははは!! そうだよ、その通りだよ! この緑の力は、ただそこに存在して力を吸い取り、広がり、大きくなって全てを飲み込むだけのもの! 俺が操作する事はできないし、力を与えている以上ここから動けない!」
急に狂ったように笑い出した偽物は、ついに私達の言っている事が事実だと認めた。
これ、緑の力っていうのね……植物だから緑なのかしら? 確かに茎も葉も濃い緑だけど……安易な、とまでは思わないことにしておくわ。
魔物を消滅させたのも、ただ赤い光と呼んでいるだけだし。
「でも、だからそれがどうしたって? ただ君達が俺に直接やられないというのがわかっただけで、どうにもできない。緑の力はこのまま広がり続ける。それを君達が壊す事はできないだろう? それに、俺にしたって君達がどうにかできたりはしないんだ!」
偽物が声を荒げ、腕を振り回す。
確かに言われた通り、私達に植物……緑の力とやらはどうにかできないわね。
リクさんの力が尽きるか、もっと大きく広がって魔物や人を巻き込み、そこから力を吸い取るのかのどちらが早いかってところでしょうけど。
既にユノちゃん達が捕まっている以上、多分前者は期待できない……期待したくもないわ、それはリクさんがいなくなるって事でもあるから――。
お互いがお互いを害する事ができない状況のようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






