リクは偽物であり本物
「だから、体はリクでも今話しているのはリクではないのだわ」
「話しているのがリクさんじゃない……どういう……?」
エルサちゃんの言葉を聞き、首を傾げる私。
体はリクさんだけど、リクさんじゃない? どういう事なのかしら?
「何を言うのかと思ったら、俺がリクである以上話しているのは俺だよ? エルサとの繋がりで魔力とかが流れないのは、他に力を使うわけにはいかないから、留めているだけだよ」
呆れたような声だけれど、微笑んでいる表情は崩さないリクさん……いえ、リクさんに見せかけた何か、リクさんもどき。
その声を聞けば聞く程、違和感が強くなって目の前の人物がリクさんではないと思える。
でも、エルサちゃんはリクさんだとも言っているし……。
「よく見るのだわモニカ。リクの目を……」
「目……?」
エルサちゃんに言われて、ジッとリクさんもどきの目を見つめる。
高く舞で伸びる巨大な植物に囲まれているせいで、日の光すら差し込まない場所ではあるけれど、ユノちゃん達が使ったあの光のおかげか、周囲に散らばる粒で薄暗い程度。
その中で、リクさんもどきのこちらを見ている目を正面から見据えた。
リクさんもどきは、微笑んでいる表情なのに目の奥は笑っていない……これもやっぱりリクさんらしくないな、と思うと同時。
「あれって!」
「ん? どうしたん……っ!」
一瞬首を傾げたリクさんもどきは、ガバっと右腕を上げて目を隠した。
でも、私は見たわ……隠す前にその目の色をはっきりと!
「暗くても私にははっきり見えていたのだわ。見た目と言っている事に騙されて、すぐには気付けなかったけどだわ」
「……リクさんの目の色が、いつもと違うのね」
「そうなのだわ。魔法で目の色を変える……というのはできるとしても、意味もないのにリクはそんなことしないのだわ」
リクさんの目は、見ているこちらを引き込むような深い黒。
アテトリア王国に少ない黒髪と相俟って、不思議な魅力……と一部、いえ多くの人から評判だったりするわ。
まぁ、リクさん本人は私の気持ちと同様に、よくわかっていない様子だったけど。
パレードの時も、街を歩いている時も、その黒髪黒目のリクさんを見て惚けたような表情になる女性の多い事……一部男性も混じっていたのはともかく。
隣を歩いている私は、色々と気が気じゃない事も多かった。
そんなリクさんの黒く魅力的な目、それがなかった……いえ、正確には色が変わっていたの。
「青い目……」
薄暗いから、いつもの黒い目とはっきり区別が付かなかったけれど、意識してよく見ればわかった。
リクさんの目は深く引き寄せられる黒ではなく、青くなっていた事を。
「見られたか……」
「どれだけ魔力があろうと、どんな魔法を使おうと……目の色を変える、という目的の魔法を考え出さない限り、変わる事はないのだわ」
「それじゃ、やっぱり……」
私達が目の色に気付いたリクさんもどきが、諦めて腕を降ろす。
畳みかけるように言い募るエルサちゃんに、私は確信を深めた。
「それに、だわ。決定的な瞬間も見たのだわ」
「決定的な瞬間?」
「モニカが叫んだ時なのだわ。その時、リクの目が一瞬だけ黒く以前までの目の色に戻ったのだわ」
「私が……」
確かにさっき、リクさんとは違うという違和感が先行して、思わず訴えかけるように叫んだわ。
薄暗いし、感情に任せていたから私にはわからなかったけれど……エルサちゃんにはそんな暗さに関係なく、はっきりと見えていたのね。
ただ、私の叫びに目の色が戻ったというのは、どういう事なのかしら?
それと、エルサちゃんの言い方だと目の前のリクさんもどきは、つまりリクさんって事にもならない?
「そもそも、あれは単なる偽物……ってわけじゃないのよね?」
「さっき言った通りなのだわ。間違いなくリクなのだわ。ただその意識なのかなんなのかは、リクのものじゃないのだわ」
契約があるから、エルサちゃんはリクさんだってはっきりわかるのね。
私はただ似ているだけの別人かと考えていたのだけれど、そうではないみたい。
リクさんだけど、リクさんとは別の意識……それって?
「……負の感情、なのかしら?」
「多分、そうなのだわ。リクとは違う何者かの意識……と考えるとむしろそれ以外考えられないのだわ」
そうよね、何か別の方法や理由で意識を乗っ取るとか、体を操って本人の振りをするなんて事も、もしかしたらあるのかもしれないけど……。
事ここに至っては、それ以外考えられないわよね。
隔離結界に閉じ込められる少し前、センテから流れて行ったよくわからないもの……見る人によって感想が変わるアレが、負の感情だとしたらそれがリクさんに流れて入り込んだ、と考えるのが自然かしら。
「さっきから色々言っているけど……俺がリクで、それは間違いないんだからそれでいいんじゃない? ほら、また少し広がった……俺だけの力じゃなく、何か捕まえたみたいだね。おかげで、広がる速度も速くなっているみたいだね」
「捕まえたって、それユノちゃんやアマリーラさんの事よね……」
「攻撃を加えて傷付ければ、再生に力を使うけどだわ。何もしなければ生長……つまり広がるのに力を使うみたいなのだわ。ここにいると私達はわからないけど、少しずつ大きく広くなっているかもしれないのだわ……ユノ達の力を吸い取って」
捕まっている人達、ワイバーン達……それらから力を吸い取って、全てを巻き込むために広げているって事ね。
攻撃を加えれば再生のために力が必要になるけれど、これ以上広がったら、魔物や人を取り込んでさらに力を吸い取ってしまいそう。
「力が吸い取られる人が増えれば振れる程……」
「広がりが早くなるのだわ。大きくなればさらに力が必要になって、吸い取られる速度も上がると考えた方がいいと思うのだわ」
「その通りだよ。だから最初は多くの力を使うけど……広がって大きくなって、多くの生き物を取り込めばあとはもう俺の力なんて必要なくなるんだ」
「そんな……!」
放っておけば、手が付けられなくなるって事じゃないの!
リクさんの力を必要としない程の人や魔物から力を吸い取れば、どんどん広がりも早くなるわけで……再生にも力が使われるから攻撃すれば、速度は緩まるかもしれないけど、それもずっとは続かない。
いずれ、さらに多くの人や魔物が取り込まれて。
「なんとしてでもここで止めないといけないわけね。でも、どうして今広がるのかしら? ユノちゃん達が捕まっているのもあるんだろうけど、私達が外にいる時には一切広がっていなかったし、隔離結界から出るまで十日くらいかかったのだとしたら、もっと大きくなってもおかしくないわ」
放っておく事はできないけど、まだ猶予はあるはず。
この際だから、疑問に思っている事はぶつけてみる事にした。
……私が言葉を発するたびに、微かにだけどエルサちゃんが言っているようにリクさんの目の色が、黒く戻るのが見えたから、本当に一瞬だけど。
こうして話していて、どうにかなる事ではないかもしれないけど、今は少しでも……ね。
モニカの声に反応している様子が見られたようです。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。






