靴が溶ける程の熱はワイバーンでも厳しい
「ワイバーン……そう、そうなのだわ! あいつらがいたのだわ!」
「存在感がなかったから、忘れていたの」
私に続いて、エルサちゃんとユノちゃんも声を上げる。
エルサちゃんなんて、リクさんと一緒に連れてきたのに……酷いとは、私からは言えないけれどね。
ユノちゃんは、破壊神が作ったらしい魔物だから毛嫌いしている節があって、だからちょっと厳しい事を言っているのでしょうけど。
「ワイバーンなら、このリク様の力を感じる……いえ、熱気も特に問題ないでしょうし、空を飛ぶ事もできます」
再びおかしな方向へ行こうとする言動を、自分で軌道修正したアマリーラさん。
その言葉通り、ワイバーンはその皮膚が熱に強いらしく、外から流れ込む熱気も大丈夫そうね。
それどころか、ソフィーの靴を溶かした地面の熱にも耐えられるかも……さすがに、味方をしてくれるワイバーン。
リクさんが連れて来てくれたワイバーンを、試しに足を付けせるわけにはいかないけど。
ワイバーンが大丈夫と言うなら、平気よね?
とにかく、すぐにワイバーンを呼んで来てリクさんの所へ向かわないと……!
「本当に、大丈夫なの?」
「ガァウ!」
あれからすぐ、アマリーラさんと一緒にボスワイバーン達を連れて来て、穴の開いた結界の傍で確認する。
まだまだ流れ込んできている熱気は平気どころか、むしろ心地良さまで感じているようで、機嫌良さそうにしているんだけど、それはともかく。
地面の様子を窺いながら聞いて見ると、これくらいなら足を付ける事もできると頷いてくれた。
心配になりながら、自信満々に頷くボスワイバーンが一歩、結界の外に足を踏み出す……。
「ガァ、ガァウガウ!」
「へ、平気そう……あら?」
「ガァウゥ……!」
足をしっかり踏みしめ、地面の熱を感じたボスワイバーンは少しの間平気だと示すように、鳴きながら立っていた。
けど、私達がホッと安心した瞬間、慌てた様子で戻ってきたわ。
「もしかして、熱かった……の?」
「ガァゥ……。ガァ、ガァウガウ!」
火傷とかをしている様子はないけれど、ちょっと項垂れてしょんぼりしたボスワイバーン……自信満々だっただけに、ちょっと気まずいのかもしれないわね。
その後すぐに、言い訳をするように何やら鳴き声を上げたわ。
「何を言っているのかはっきりわからないけれど……我慢できなくはないけど、でも熱く感じるのは間違いないって事、でいいかしら?」
「ガァウ!」
これまた自信満々に、深く頷くボスワイバーン。
なんとなく言っている事が理解できて良かったけど……とにかく無理ではないけど、歩くのは嫌ってことね。
まぁ、歩く事より空を飛ぶ方に期待していたのだから、それでいいんだけど。
「まぁ、地面にはあまり近付かないようにすればいいわよね。それじゃ、リクさんの所へ……乗せてくれるかしら?」
「ガウ!」
吠えて、エルサちゃんを頭にくっ付けたままの私に、背を向けて姿勢を低くしてくれるボスワイバーン。
乗せてくれるって事よね。
他にも、アマリーラさん、フィネさん、それからユノちゃんに、何故か様子を見に来ていたシュットラウル様が乗ろうとするのを、リネルトさんが押しのけてワイバーンの背中に乗ったわ。
ワイバーン達はボスワイバーンも含めて、エルサちゃんとは違ってほぼ一人乗り……無理すれば二人乗れなくはないけど、複数のワイバーンがいるから別れる事にした。
それにしてもシュットラウル様、ワイバーンに乗りたかったのかしら? まぁ、落ち着いたら乗せてもらえばいいわ……今は、結界の外で何があるかわからないし、一緒に空の旅をするわけにはいかないものね。
フィリーナ同様、足を火傷してしまったソフィーは結界内で待つ事になっている。
空を飛ぶから足の火傷は関係ない……と本人は言っていたけど、怪我をしているのは間違いないからね。
無理はしないように。
「それじゃ、リクさんの所へ向かって……!」
「ガァ~!!」
背中に乗った私が声を掛け、吠えたボスワイバーンが少しだけ助走をして結界の外に出て、翼を広げて空へと羽ばたく。
私達に続いて、順番にそれぞれワイバーンに乗ったフィネさん達も出発。
計五騎……五ワイバーンが結界内部からリクさんのいるはずの場所へ向かって飛び立った。
「熱っ……風があるだけ、かなり緩和できているのかしら? 熱風だから微妙ね」
いつも乗っているエルサちゃんとは違って、強く風が吹いてしがみ付いていないといけないけれど、結界内よりもさらに熱さを感じる。
その風も、熱を帯びた熱風になっているから、涼しさは露ほども感じない……ないよりはマシかもしれないけど。
エルサちゃんが飛ぶ時は、確か結界が張られているからほとんど風を感じないし快適だったのだけれど……いえ、こうして乗せて飛んでくれるだけで十分ね。
ドラゴンであるエルサちゃんと同じ快適さを求めたら、いけないわ。
それに、せっかく乗せてくれているボスワイバーンに悪いわよね。
……ずっと思っていたけど、ボスワイバーンって長いわね。
シュットラウル様やハーゼンクレーヴァ子爵とか、シュタウヴィンヴァー子爵というのもあるから、長めの名前には慣れているけど……。
うーん……ボスーン、ボスバーン、スバーン、ボーちゃん……? いえ、ちゃんを付けて呼ぶのはどうなのかしら?
そもそもボスワイバーンが女の子か男の子かもわからないし、というか、魔物に性別ってあるのかしら? いや、あるわよね、全ての魔物が何もないところで発生するわけじゃないし。
「どうしたのだわ、モニカ?」
「いえ、なんでも……あ!」
「だわ?」
「ガァ?」
今考えなくても、という程どうでもいい事ながら、ボスワイバーンの呼び方を考えていると私に、くっ付いたままのエルサちゃんから声がかかる。
首を振って、今はリクさんの方に集中しないと……と思った瞬間、ひらめいて思わず声を出してしまったわ。
不思議そうにこちらを窺う声が、エルサちゃんだけじゃなくボスワイバーンからも聞こえた。
驚かせちゃったかしら?
「……リーバー。ボスワイバーンの呼び方、リーバーでどうかしら?」
「ガァゥ?」
「何を考えているかと思ったら、そんな事だわ?」
「でも、呼び方って大事よ? ボスワイバーンってちょっと長いし呼びにくいし……ね、リーバー?」
ボスワイバーンの呼び名をリーバーと決め……いえ、提案しつつ少し強引ながらそう呼ぶ。
こういうのは勢いよね、リーバーが嫌がるなら呼ぶのをやめるけど、受け入れてくれるなら……。
「ガァゥ、ガァガァ~」
「……喜んでいるみたいなのだわ」
「良かったわ。それじゃ、これからボスワイバーンの事はリーバーって呼ぶわね!」
「ガァ~ウ!」
楽しそうなリーバーの鳴き声から、呼び名を喜んでくれているのがわかるわ。
そういえば、ユノちゃんやエルサちゃんもリクさんが名付けたって聞いたし……名前を付けて呼ぶって言うのは大事なのかも。
私だって、父さんと母さんが付けてくれたモニカって名前は、誇らしいし大事だものね――。
新しい呼び名は、ボスワイバーンにも受け入れられたようでした。
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